15-7
氷の柱は森の木の高さを超え、さらに上昇していく。
下を見ると、あれだけあった水が減っている様に見える。おそらく水はこの巨大な柱に使われ、減ったのだろう。
(これだったら下にいるパリエロ副師団長達がおぼれる事もないよな……)
ジャックが探索を頼んだせいで2人共死んだら、心苦しい所ではないため、ジャックは安堵した。
上空では7つの光がまたたく。ジャックが水を利用しているのを気づいたのか、もう水の玉を降らす事もなく、それぞれがゆっくりとこちらに移動してきている。
「光が近付いて来てますね……」
魔術師の誰かが不安そうな声を上げる。
(気味が悪いな)
7つの光は氷柱の真上にまできて、回り始める。
これ以上その光たちに近付いてはヤバいのではないだろうかと予想し、ジャックは氷に突き立ててるエクスカリバーを引き抜いた。
氷の成長は止まり、光との距離は一定の距離を保たれる。
(さっき水を切り裂く時、剣からの衝撃派はこの光に届いていたはずだよな? でも壊れなかった……。まさかこの光すらも幻覚なのか?)
7つの光は、悩むジャックを嘲笑うかの様にピタリと止まった。
そしてそれぞれから線を伸ばす。光が線で繋がり、何か文様の様なものが出来上がっていた。
(正七角形……?)
ダイヤモンドのカッティングを思わすその形は、魔術師が描く術式に似ている様に見える。ジャックは近くに居た初老の魔術師の方を向いた。
「あの術式って、何やろうとしてるか分かります!?」
「鍵となる文字部分に正体不明の光があるため、解りかねます。ですが何か術を使おうとしているのは確かでしょうね……。今張っている障壁を強化いたしましょう」
初老の魔術師は他の魔術師に声をかけ、それぞれが術式を展開していく。
見ているしか出来ないジャックとしては、歯がゆい気持ちだが、今は待つしか出来なそうだ。
上空を見上げると、正七角形は無駄に神々しく光り、虹色に輝く光のベールをこちらに下ろしているところだった。
(障壁を強化しているわけだから、大丈夫なんだよな……?)
嫌な感じで鼓動が早まる。
試しにヴェールを切ってみようかとエクスカリバーを握り直したジャックの後方から、「キャア!」という悲鳴があがる。ハッとして振り返ると、魔術師が次々と倒れていっていた。
「え!? 何が起こってるんだ!?」
「障壁が、機能してなぃ……グゥ……」
初老の魔術師が会話の途中で意識を失い、倒れた。慌てて彼の元に駆けより、呼吸と脈を測れば、生きている事を確認出来、ホッとする。
「一体どうなってるんだよ!?」
理解出来ない事の連続に混乱する。
彼女達が倒れたのに、自分だけ立っていられるのは一体どういう事なのだろうか?
(あの術式を壊せたら、この人達の意識は戻るのか? ……でも一体どうやって壊せば?)
悩んでいるうちに、またしても不思議な現象が起きた。7人の魔術師が全員上空に引き上げられる様に浮かんだのだ。
「はぁ!? 連れて行くな!!」
ジャックは初老の魔術師の足を掴もうとしたが、身体が持ち上がるスピードが速すぎて、手は空を切る。
「くそ!」
魔術師達は1人に1つ光に捕らわれ、身体が消えて見えなくなってしまった。
ジャックはあまりの無力感に、氷の柱にへたり込んだ。
「嘘だろ……? 俺以外、全滅……?」
ただ見ているしか出来なかった自分に呆れ、茫然とする。
――まだアイツ等は生きてるな。
絶望しかける心を救ってくれたのは、エクスカリバーと同化しているフェンリルの声だった。普段だったら神獣の言葉等半信半疑だっただろうが、今は信じたくなる。
(本当なのか? どうしたら彼等を助けられるんだ?)
――フンババを倒すしかないだろう。
(倒すにしても姿が見えないけど……。どこに居るんだよ?)
――どこって、ここは奴の腹の中だ。
(腹!?)
ジャックはもう一度氷柱の下を見る。そこに広がるのはどう見ても森だ。内臓らしさなどどこにも見当たらない。それとも実際には腹だが、幻覚だから森の様に見えているだけなのだろうか?
――心配せんでも、お前の上司共がフンババの口まで辿り着いたみたいだぞ。
フェンリルの言葉が終わらぬうちに、氷柱が激しく揺れ、真ん中付近でボキリと折れた。ジャックの身体は空中に放り出される。
「うわっ! やばい!!」
落下しながら、ジャックは空に亀裂が入るのを見た。パリエロ達が向かった方向からどんどんひびが入り、その亀裂は瞬く間に幅が広がり、空を、大地を塗り替える。
空を見ているうちに、ジャックは木の高さ付近まで落下していて、すぐに地面に激しく打ち付けられる事を覚悟したのに、何故か実際には大した衝撃もなく赤っぽい地面に転がった。痛み等は全くない。
何が起きたのかさっぱり解らないまま、ポカンとしながら身を起こすと、ジャックの目の前にはパリエロとチャーマンが立っていた。2人が相対しているのは、一見巨大な虎の様に見える魔獣で、その身体の周囲には7つの光の玉が回る。




