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15-6

 水の玉を落とし続ける光から距離を取ってみれば、水の直撃を避けれるのではないかと、場所を移動してみる。しかし上空の光もジャックを追いかける様に動き、意味がない。


(あの光はフンババの意識で動かせるのか……、という事は奴はどこかからここを見ている……)


 風景の中におかしな物はないかと、目を凝らしながら、落下してくる巨大な水の玉を次々に切る。

 そうこうしているうちに、水嵩がかなり高くなっていた。

 事前に見ていた地図を思い出すと、ここはすり鉢状の地形ではないし、目で見ると地面には傾斜がある。条件だけなら、水はこんなすぐには貯まっていかないはずなのに、ぐんぐんと水面が上がる。

 今見ている光景はフンババに見せられていると考えて間違いなさそうだが、ジャック達がいる空間自体も元の森とはまた別の場所の様な気がしてくる。

 ここは工業用の倉庫や工場程度の広さしかないのではないだろうか?


(どうする? このままだと全員溺死する……)


 焦るジャックの右手に握られているエクスカリバーが急激に冷気を帯び始めた。

 刀身に付いた水滴が凍りつく。


(何だ……?)


――水を凍らせればいいだろ。


 頭に直接問いかける様な声には聞き覚えがあった。


「フェンリル!?」


――いかにも。


「会話できるのか!?」


――当たり前であろう。


 フェンリルは馬鹿にするなとばかりに冷たい声で返事をするが、今までタローンの声すら聞いた事のないジャックとしては、意外すぎる出来事なのだ。驚くなという方が無理がある。


「ジャック、今フェンリルと言ったか?」「近くにフェンリルがいるの!?」


 ジャックの発言により、フェンリルの再襲来と誤解を生んだらしく、メンバー全員顔色を無くす。


「俺の剣にフェンリルが宿っているらしく、今話しかけられているんです」


「理解を超える話だな……」


 眉間に皺を寄せたパリエロに剣をマジマジと眺められ、居たたまれない。

 しかし今はそれどころでもない。水は既に膝を超える高さまで上昇している。


(今水を凍らせたら、俺達全員の足まで凍るだろ??)


 もしかすると思念が伝わるんじゃないかと、言葉に出さずにフェンリルに話しかけてみると、ちゃんと返事が返って来る。


ーー全てを凍らせるか、一部だけ凍らせるか、お前の使い方次第だ。


(俺の使い方……?)


 悩ましい事を言うもんだと、少しフェンリルを腹立だしく思う。

 しかし、フェンリルに思考部分を頼りきるのも情けないため、自分なりに使い方を考える。


(この空間は割と狭いよな……だったら……)


 水が直ぐに貯まる事からも、ここがかなり閉鎖的で、狭い事が伺える。出来る事なら空間の境を見つけ、穴を開け、元の世界に戻りたい。


 ジャックは意を決してパリエロに話しかけた。


「パリエロ副師団長、お願いがあります!」


「どうしたジャック?」


「今いる空間の広さを知りたいんです。境の様な所まで行ってもらっていいですか? たぶん何か目印みたいなのがあると思うんですよね」


 口に出してみて、あまりに具体性に欠ける願いだったと、ジャックは反省する。しかしうまい言い方も思いつかないのだ。


「ここからの脱出を試みたいわけだな? いいぜ! 行ってくる!」


 パリエロは気分を害した風でもなく、ジャックの願いに応じてくれた。


「あ、有難うございます!」


「私もお供します!」


「おう! 俺達軍属は今役に立たないからな、足で稼ぐとするか!」


「チャーマンさんも行ってくれるんですね。二人とも宜しくお願いします!」


 ジャックは西側へと進んで行く先輩2人に頭を下げ、次に魔術師達の方へと視線を向けた。

 術式を展開し、水の玉を上空に打ち上げ続ける彼等に頼み事をするのは気がひけるものの、事態を改善させるために協力してもらわないといけない。


「すいません。どなたか、メンバー全員をカバーできるような障壁を張ってもらえませんか? 少し試したい事があるので」


「私がやりましょう」


 手を上げたのは、先程から積極的に会話に参加してくれている女の魔術師だった。


「頼みます!」


 ジャックは魔術師が障壁を張り終えるまで上空からの攻撃に対処する。

 魔術師の術は展開に時間がかかり、頭上で見えない壁に水が弾かれるのを確認できる様になった時には、水かさは腰にまで届いてしまっていた。

 水は容赦なく体温を奪い、身体に力が入り辛くなっていく。


(早くしないと……)


 ジャックはエクスカリバーを地面に突き立てる。


(ここにある水分を凍らせ、天井まで届かせろ!)


 失敗したら、ここにいる全員を氷漬けにして、命を危険に晒す事になるかもしれない。それだけに緊張が高まる。

 自分の中に流れる力をエクスカリバーに流す為、目を閉じ、集中する。


 グググ……と足元が持ち上がる様な感覚がする。


「え……?」


「地面が上がっています!」


 女魔術師が素っ頓狂な声を上げる。

 腰の高さにあった水面は太もも辺りにまで下がっている。凄い速さで地面が上昇していっているようだ。


「どうなってる!?」「あのオレンジ頭の軍人がやっている事らしい!」


 この場に残っていたメンバー達がどよめく。


 水面はついに足首辺りまで下がり、水の中から現れたのは、氷の柱だった。

 その上にジャック達は立っているのだ。


(もっと伸びろ! あの光と、空間の天井が確認できるくらいまで!)



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