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15-5

 昼食の後、パリエロが選んだメンバー10人で森の中を進む。ジャックもそのメンバーで、この中で一番年齢が若いという事もあり、先頭を歩く。


「フンババは感知範囲がかなり広いらしい。もし例の獣がフンババだった場合、既にこちらに気付いている可能性が高い」


「感知範囲ですか。向うから襲い掛かって来る様子がないですよね。そもそもあまり生き物の気配がしないような……」


 パリエロの話からフンババではないと確信が持てそうなところだが、ジャックは周囲の様子に薄ら寒さを感じていた。

 北以外の方角は、魔獣の他に鳥や虫の気配に満ちていたのだが、北部の森の中は奇妙な静寂に包まれている。音が少ない事の違和感を無視すれば、生い茂る葉の間から明るい光が差し込み、美しい広葉樹の姿を楽しめるくらいなのだが……。


「言われてみると、そうだな……」


「先程来た時と風景が違っている様な気がします」


 パリエロに先遣隊で見たモノを伝えてに来た男チャーマンは不安気な表情で周囲を見渡す。目撃地点までもう50mも無いかもしれないタイミングでの発言である。ジャックは内心(違和感があるならもっと早く言えばいいのに)と思い、チャーマンを半眼で見つめた。


「ジャック、一度進むのを止めよう」


「了解です」


 パリエロは、この先に進むのを危険と判断したようだ。

 この違和感の正体を解消させてから進んだ方がいいだろうと、ジャックも素直に応じる。


「チャーマン、森の様子はさっきとどう違っているんだ?」


「何と言うか、これ程明るい森ではなかったと思うんです。もっと針葉樹林の割合が高かった様な気がしますし、ブーツに何度も小さい虫共が乗って来て、イライラした記憶が……」


 やはり何かがおかしい。エクスカリバーを握れば何か分かるかもしれないと、背中に背負ったホルダーに手を回そうとすると、「あっ!」とメンバーの中から声が上がった。


「どうした?」


「上空を見てください!」


 パリエロの問いかけに対して、女性の魔術師が上を指さした。

 すると、生い茂る葉の隙間から白い発光物が見えていた。


「あれは……太陽か?」


「太陽にしては近くに見える様な気がします」


 パリエロの言う様に、真昼に見る太陽の姿に近い見え方なのだが、輪郭がやけにくっきり見えるし、距離的にももっと低空だ。

 ジャックの言葉に、魔術師の女も頷く。


 密集している葉のせいで上の様子を確認しづらいが、ここの他にも不自然な光が落ちている箇所がいくつかある様だ。


「これは、フンババが見せている幻の風景かもしれない」


「パリエロ副師団長、何故そう思うんです?」


「フンババは七つの光を身に着けていて、それを用いて戦闘するらしい」


 パリエロは上空の光を指さしながら言う。あの発光物がそのうちの一つだと言いたいのだろう。


「フンババが身に着けているはずの光が、何故上に見えるんですか? 取り外し可能ですか?」


「そこまでは分からないな……」


 パリエロから答えはもらえなかったが、ジャックはいつ何が起きても対処できるように、エクスカリバーを背のホルダーから引き抜いた。


 その間に上空の発光物は青い光に変わっていた。空に同化する色合いだ。


「青い光?」


 誰かが呟くと同時に発光物がボコリと膨らみ、デカい水滴の様な何かが急降下してきた。


「危ない!」


 ほぼ真上といっていいくらいの位置から落ちて来るそれへと、ジャックは真空の刃を打ち込んだ。


 メンバーの頭上10mも無い空中で真っ二つに切り分けられた液体は、地面へと落下し、周囲を水浸しにした。

 上空では2発目の水滴が落ちようとしていて、ジャックはそれにも対処できるようにエクスカリバーに力を貯める。


「真上の光だけじゃなくて、他の光からも水が落ちてきてます!」


「7カ所全部からか!?」


 魔術師の指摘を確認しようと、視線を動かしてみると、アチコチから巨大な水滴が落下し、地面に当たり、派手に水しぶきを上げていた。


(何つー光景だ!)


 現実離れした現象に唖然としそうになるが、真上の2発目がもう落下を初めている。

 ジャックは慌てて、それを切り裂く。

 落下した水のせいで、ふくらはぎあたりまで水に浸かる。


(地面が水を吸ってない……!?)


 森の腐葉土がある程度水を吸いそうなものだが、まるで機能していない。それとも落ちて来る水の量があまりに大量だからだろうか?


 ジャックは慌てて、パリエロを振り返る。


「パリエロ副師団長、地面の水を何とかしないと……!」


「あ、ああ。魔術師達はこの場から水を取り除いてもらえないか?」


「魔術で水を上に打ち返してるんですけど量がおおすぎて……っ!」


 魔術師達は後方で術式を展開し、水の玉を浮き上がらせている。

 しかし、落ちて来る水滴の速さに比べ、あまりに遅い。

 

「くそ……、もっと魔術師を多く連れて来るんだった……っ!」


 パリエロは悔し気に毒づく。しかし今更後悔しても遅いのだ。


 ジャックは事態を改善しようと、必死に考えを巡らす。


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