15-4
どす黒いカマキリの様な外観の魔獣の群れを壊滅させ、一向は森を北の方向へと進む。
北以外の方向は全て掃討が完了している為、後は残りの魔獣を倒しながら鉱山の方向へと行くだけだ。昼の段階でこの進捗なら、夕方までには余裕で鉱山に辿り着けそうだ。
昨日森の中央部に簡易の休憩所を作っており、本日もこの休憩所を使って休憩をとる。
「眠気は飛んだのか?」
「お陰様で何とか……」
向かいの切株に座り、紅茶を飲むパリエロがジャックを気にかけてくれるが、ジャックとしては、さっき助けられたという事もあり、居心地悪く感じる。
「今日はかなり順調だから、15時あたりまでに北部の掃討は終わりそうだな。日没までの間に鉱山の南側も綺麗にしとくか」
「そうですね。前倒しでやっておいたほうが、日程に余裕が出来そうですし」
「だな。お前の働きに期待してるからな。そろそろ本気だせよ」
その言葉にギクリとする。
今回の作戦の中で、ジャックはまだエクスカリバーの特殊な力を使っていない。ただの切れ味良い両手剣としてのみ使用している。きっとパリエロはそれを見抜いているのだろう。
「パリエロ副師団長!! 大変です!!」
軍属の男が慌てた様子で休憩所に駆けこんで来た。確か北部への先遣隊の一人だったはずだ。
「何事だ?」
「奥の方に、記録に無い魔獣が居ました! かなりデカくて、我々では対処不可能と判断して引き返してまいりました」
(未確認の魔獣か。慌ててる所を見ると、かなりヤバい見た目なのか……)
先遣隊のこの男はジャックより階級が上で、記憶が確かなら中尉だったはずだ。その男が戦わずして戻ってくるという事は、厄介な存在なのだろうと予想を立てる。
「その魔獣の特徴は? 同一の個体が複数いるのか?」
「幸い1匹だけでした。4つ足歩行で、体長が恐らく20mはあるかと……」
「それはでかいな……」「巨大ですね……」
男の説明にジャックとパリエロは顔を顰めた。
「頭部と足がライオン? なんですかね。自分も移動動物園でしか見た事ありませんが……。それと胴には無数の刺があり、迂闊に近づけはしません」
説明を聞いているだけで、寒々しくなる。実物を見たら相当不気味だろう。
作戦前に読み込んで置いた資料にはその様な外観を持つ魔獣は載っていなかった。という事はやはり未確認の個体なんだろう。
「その説明、何か引っかかるな……」
パリエロは男の説明の何が気に入らないのか、首を傾げる。
「パリエロ副師団長はその魔獣を知っているんですか?」
「あぁ。とは言っても、ここより遥か南の古代文明の叙事詩の中にそういう外観の存在がいるという事を知識として持っているだけだ。同じ特徴を有しているからといっても、同種の個体だとは限らない」
ジャックの質問に答えるパリエロは、中々勉強熱心な性格の様だ。異国の地の叙事詩などジャックは図書館で手にとった事すらない。もう少し情報を得ようと、ジャックはパリエロに問いかける事にした。
「その叙事詩に他に何か説明は無かったんですか?」
「獣は、神々が住まう森を守る存在だったらしい」
「何かそれ、ちょっと気にかかりますね。神獣なんですか?」
先遣隊の男は、『神獣』という言葉を聞き、怖気づいたかのように後ずさりする。
「その獣――フンババと言う名前なんだが、この国で神獣と見做されている個体の中には居なかったはずだ。だが、能力的には神獣に準じているかもしれない」
「何でそんな存在がウチの領地に……」
ホープレスプラトゥを魔獣から解放する為に、掃討作戦に参加するという事は出発前に両親に説明したハズなのだが、森の守護者とやらの存在の事は何も言っていなかった。
「この地は磁場が安定していないらしいから、その時々の状態で、領主が強力な存在を封印するために利用したものの、後世でまた磁場が変動して自然に封印が解けてしまうなんて事もあるのかもしれない。領主に封印していた事を伝えてもらいたいとも思うがな」
ジャックの心を読むかの様なパリエロの言葉にジャックは頷いた。
「俺が次男だから、伝える必要が無いと今まで黙ってたのかもしれないです。でも出発前にちゃんと聞くべきでしたね」
「いや、いい。もしかしたら叙事詩に何の関係もない雑魚かもしれないしな。飯を食ったら、行ってみよう」
「了解です!」




