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3-3

「今の技術力と資金では、この国が量子力学の実験を正当な方法で行う事なんて不可能なんだ。」


「装置の開発が行えないなら、普通諦めるんじゃないか?」


「普通はそうだろうけど。」


 ブライアンはげっそりという感じにため息をついた。


「国の……というか世界的にエネルギー需要が高まっているのは知っているな?そうした中で無尽蔵のエネルギー技術を得られたら、膨大な利益につながる。喉から手が出るほど欲しがっている人間は多いんだ。」


「無尽蔵の……?」


まるで夢の様な話だった。

バーデッド子爵家の所有する鉱山では石炭の採掘が行われ、発電等の燃料に使用されている。それなりに業績がいいのは、やはりそれだけ必要とされているエネルギー量が多いからだ。それが新たなエネルギーに代わっていくとでも言うのか?


「資金を出したくない。開発技術が未熟である。でも数式で導き出された存在を確認したい。こうした場合に、非常に便利なものがある。」


「資金的制約も未熟な科学技術も吹っ飛ばすなんて、そんな都合のいいものなんてあると思えないが……。」


「あるじゃないか。」


 ブライアンは性質の悪い笑みを浮かべた。



「魔術を使うんだよ。」



「魔術だと? 」


「そうだ。」

「魔術はそれほど高度な物理実験が出来るのか?」


 この世界では突然変異的に魔力の源になるエネルギーを体外から体内に取り込むすべを持っている人間が生まれる。


 西ヘルジアでは、このような能力者を王家や一部の大貴族が囲っているという噂があった。噂の域を出ないのは、このような特殊な境遇にある人間の絶対数がかなり少ないからだ。


 魔術を扱える者の絶対数が少ないという状況下で、繊細な微調整を必要とするような高度な技術は培われるのだろうか?ましてや現代の科学技術をも凌ぐなんて・・・。


「たぶん魔術と普段関わり合いの無い人間は、魔術について、ただ火を灯せるとか、風を起こせるとか、その程度に思ってるんだと思う。だけど、この国は大多数の想像をはるかに超える程に魔術の技術が高い。」


 ジャックはシエルやヨウムが使用していた魔術を思い出した。

 傷を癒したり、苦しみを和らげたり……、こんな事が出来るのかと、驚きの連続だった。


「この国が魔術の練度を上げる事が出来たのは、ある魔術師の家系による功績が大きいらしいな。」


「そんな家系があるのか……。」


「アースラメント家、つまりこの国の王の一族さ。」


「王家が魔術師の家系?そんな事聞いた事がない。」


「王族が魔術師という事を知っているのはこの国でもごく限られた層だけだ。ある事無いこと噂され、王家への信頼が揺らぎ、クーデターが起こったらたまったもんじゃないという事だろう。人間は異分子を出来るだけ排除しようと考える生き物だからな。」


 ジャックは、毎日のように王族が暮らすアースラメント宮殿に通っているのだが、宮殿内で魔術を見た事は一度もなかった。

 魔術の拠点は他に設けているという事なのかもしれない。


「さて、時間だ。俺はそろそろ行くよ。」


 ブライアンは座っていたベンチから立ち上がり、伸びをした。


「え、ちょっと待ってくれ。行くってどこへ……?家に戻らないのか?」


「ああ、子爵家はお前に任せようと思っている。俺の代わりに立派な当主になってくれ。」


「はぁ?待てよ。せめて親に顔を見せるだけでも・・・。」


「うまいこと言っといてくれよ。」


 どう説明しろと言うのか?

 ブライアンの事は隣国と外交問題にまで発展しているというのに……。

 折角再開出来たというのに、このまま別れるという事は出来ない。

 ジャックは焦り、去ろうとするブライアンの肩を掴もうとしたが、手は空を掴んだだけに終わった。

 ブライアンが崩れ落ちるように、うずくまったからだ。


「……っ!」


「兄貴……?」



 胸を抑え、苦しみに震える姿はただ事ではない。

 ブライアンの頬に汗が伝う。


「どうしたんだ?大丈夫か?」


「っ……くそっ……、こんな短時間すら耐えられないのか……。」


 ブライアンの閉じられた目が開くのを見た瞬間、ジャックは凍りついた。



「そ……その瞳の色は一体……。」


 ブライアンの瞳は自分と同じ青だったはずだ。それが血の様な赤に染まっていた。


「ジャック・・・俺は2年前とは違う・・・。家に戻りたくても戻れないんだ・・・。それを伝えに・・・。」


 ブライアンの言葉は最後まで続かなかった。

 その姿が砂の様にざらりと消えていったからだ。


 目の前で起きた事が信じられず、ジャックは暫くその場でブライアンが消えた地面を見続けた。




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