15-3
ベッドに横たわるブライアンは、無防備に軍医の検査を受ける。
その身体は至る所にケロイドの跡があり、痛々しい。
ジャックはローズウォールでブライアンに会った時に、手にある火傷跡を見ていた。しかしそれは全身にあったのだ。
彼の火傷跡はロンゴミニアドを所有した時に出来たんじゃないだろうか?
内側から赤く燃える光を発していた聖なる槍。ブライアンの身体を焼いた様な気がしてならない……。
ブライアンを診察していた軍医が軽くため息をつきながら立ち上がる。
「過去に付いたと思われる火傷の跡は酷いし、今でも後遺症に苦しんでいるのは確かだろう。だが、ブライアン氏が倒れる原因になったわけではなさそうだ。火傷の他に外傷がないのだから、問題は脳にあるのかもしれんが、今この地で出来る事はなにもない」
「そうですか……。心配ではありますが、どうする事も出来ないですね。今日こんなに遅くに来ていただいただけでも有難いです」
同じ軍属の大先輩である彼に深々と礼をすると、「仕事だから問題ない」と優し気な笑顔を向けられる。
部屋を出て行く彼を見送ると、入れ替わりにパリエロが入って来た。
「パリエロ副師団長……」
「ブライアン・フォーサイズを拾ったとお前の家の執事が伝えに来た」
パリエロはジャックにぶつかる様に部屋に入り、ベッドに近寄った。
「彼はどこに居た?」
「橋のたもとです……一日目に修復した」
「今日森での掃討作戦の帰りに橋を通ったが、異常は見られなかったな」
何故か自分が詰問されている様な気分になり、ジャックは憂鬱になる。
「兄貴は橋の方向からは見えづらい岩陰にいたので、俺達が森から帰って来る時に川岸で倒れていたとしても気づかなかったと思います」
「そうか……。何故この男は2年間姿をくらましていたにも関わらず、今更急に現れたんだ?」
ブライアンを見るパリエロの目に警戒の色が浮かんでいた。
ブライアンはこの2年の間、まずノースフォールの診療所に居て、その後アルバート殿下の下に居たらしい。
しかもロンゴミニアドが彼に懐く様子も確認しているのだ。そう考えると、ブライアンは警戒すべき対象なのかもしれない。
「執事に兄貴を王都まで遅らせます。明日列車の手配をするので、それまでこの部屋におかせてください。兄貴を警戒しているんでしたら、魔術師に結界を張ってもらいます」
ブライアンは確かに不審極まりない。だが、両親に彼を会わせてやりたいという強い想いがある。パリエロの考えは分からないものの、ジャックはブライアンを守りたかった。
厳しい表情のパリエロを強く見つめる。
「……分かった。ただし、魔術師をここに派遣して結界は張ってもらう。もしかしたらブライアン氏に化けた魔獣かもしれないからな」
「了解いたしました」
魔獣が変異したわけではないのは明白だ。ロンゴミニアドの存在が何よりの証拠だった。
だがジャックは大人しくパリエロに頭を下げた。
◇
翌日、早朝にケインズに対して連絡したジャックだったが、あまり色よい返事を貰えなかった。
建国記念式典のタイミングでもあり、ホープレスプラトゥへと来るときに使った列車は今リバーエンド市まで要人を迎えに行っているらしく、王都に戻って来るのは明日の昼になるらしい。また、他の列車にも空きは無いらしい。出せそうな列車があればすぐに出してほしいとは伝えたが、いつになるのか見当もつかない。
ブライアンの事を執事に頼み、ジャックは森での魔獣掃討活動に参加した。しかし、ブライアンについて考えれば考える程、懸念する事が多すぎて、目の前の事に集中出来ない。
「気合を入れろ、ジャック!」
ハッとして、横を向くと、巨大な鎌が振り下ろされようとしてた。その一撃をギリギリでかわす。注意を促したパリエロが、魔獣とジャックの間に身体を滑り込ませ、弱点である魔獣の目を剣でつらぬいた。
パリエロはジャックに厳しい檄を飛ばす。
「死にたいのか!? ここをどこだと思ってる!」
魔獣はCランクではあるが、けして気を抜いていい魔獣ではない。
(クソ! 兄貴の事は一度忘れて、まずはコッチだ!)
ジャックはエクスカリバーを構え直した。




