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14-12

「おばあちゃんがこの前専門の人を雇っていたから大丈夫です」


「なるほど、アルマ様は何があってもすぐに対処できるように準備されていたのですね」


「……そうみたいです」


 シエルはホープレスプラトゥから王都に帰って来て、この嘘みたいに平和な状況に気持ちが付いていけてない。地獄を見るかの様な2日間に心が疲れているし、途中で作戦を離脱しているという後ろめたさもある。

 とにかくハドリーと会話していても気持ちが乗らないのだ。


「シエル様、お疲れのご様子ですね」


 ハドリーはシエルが上の空な事を読み取ったようで、気遣いの言葉をくれる。


「いえ、大丈夫です。ごめんなさい。それより、ハドリーさんにお願いしたい事があるんですけど、言ってもいいですか?」


「内容によりますね……」


 ハドリーの表情に緊張が見てとれるが、シエルは気にせずに続ける。


「国王に会わせてもらう事は出来ますか?」


「国王に……ですか」


「はい。どうしても存命のうちに会っておきたいんです」


「そう……ですね。現王のお気持ちを汲み取っても、シエル様にお会いしたいかもしれません。調整してみます」


「有難うございます!」


 シエルが素直にお礼を言うと、ハドリーは照れた様にモノクルを引き上げ、立ち上がった。


「ではこの辺で失礼します。何かあれば連絡しますね」


「はい。足を運んでいただいて助かりました」


 シエルもハドリーを見送る為に立ち上がる。

 2人でエントランスまで行くと、何故か扉が外側から開いた。


 扉を開け、現れたのは伯爵家の下僕ロビンで、開け放たれた扉の向うにはアルマがたたずんでいた。

 ポーチに立つアルマはシエルに気付き、優美に微笑んだ。


「おばあちゃん!」


「あら、シエル。戻っていたのね。大変だったでしょう。お疲れ様」


 アルマは赤に黒い縁取りが入ったドレスを着こなしていて、人形めいた容姿が強調されている。


「ただいま。今ハドリーさんを見送ろうとしていたの」


「あら、ハドリー御機嫌よう」


「アルマ様、ご機嫌麗しく。もう宮殿に戻るのですが、私に何か用はないですか?」


 ハドリーは恭しくアルマに礼をし、問いかける。


「フフ……。まるでわたくしに使われたいみたいじゃない。職業病ね」


 アルマにクスリと笑われ、ハドリーは少年の様に顔を赤らめている。アルマの見た目と異なる大人びた台詞にやられているのだろう。

 

「それではまた明日に!」


 彼は慌てた様子で庭に出て行った。


「おばあちゃん、アースラメント宮殿に行ってたの?」


「ええ。式典の準備がどの位進んでいるか確認しなければならないの」


 アルマは現王の妹であるため、伯爵という立場での役割とは別の役割もあるのかもしれない。


「そうだったんだ……」


 階段を上るアルマの後を付いて行きながら、シエルは心を落ち着かせ、口を開く。


「ねぇ、おばあちゃん」


「なにかしら?」


「聞きたい事があるの」


 これを聞いてしまったら、シエルとアルマの関係が壊れるかもしれない。

 そう思うと、アルマが忙しいのをいいことに聞くのを先延ばしにしてしまっていた。だけど、この事はシエル達2人の問題に留まらない。国を巻き込む事なのだ。

 シエルはアルマと向かい合い、話し合わなければならない義務感を感じている。


「最近王都で続いている地震の事なんだけど、それを引き起こしているのは神獣で間違いないんだよね?」


「そうよ。以前貴女に説明したでしょう?」


「じゃあさ、その強大な存在の再封印の為の魔力は私だけで補えるのかな?」


 シエルがそれを口にすると、アルマは歩みを止め、きつい表情で振り返った。


「何を言いたいのかしら?」


「封印は本来、術者の命をかけなければならないんじゃないの?」


 ジャックが1400年前の世界で見てきた術について、シエルは自分なりに考察していた。

 王都には封印に適した磁場ゼロの地点はない。にもかかわらず、地震を多発させる事が出来る程の存在を封印するには、途方もない魔力を要するはずだ。

 それをどこから調達するのか? 答えは簡単だ。魔術師自体から、その命が尽きるまで魔力を奪い取るのだ。


「だから私の命を使うと――」


「馬鹿な事言わないでちょうだい!!」


 震える声を振り絞って言葉を紡ぐと、アルマが大声を出し、シエルの肩を掴んだ。


「おばあちゃん……?」


「わたしくしが貴女の命をかけなくて済むよう、この数年間どれだけ苦労してきたか分かっていて? 一体どれだけの罪を犯したと……?」


「急にどうしたの?」


 初めて見る程余裕の無いアルマの様子に、背中に冷たい汗が流れる。


「ハロルド様の術なら、術者は死なないのよ」


「私の命ではなく、他の魔術師の命を使うとでも言うの?」


「誰にそれを吹き込まれたの?」


 アルマの眼差しがきつくなる。


「誰に聞いたかなんてどうでもいいでしょ!? お願い答えて……」


 アルマはシエルの肩から手を放し、優雅な右手で艶やかな髪を背中に流した。


「この国に優秀な魔術師が多くないのは貴女も知っているでしょう? だったら他所の国から調達するしかないのよ」


「他所……?」


 アルマの途方も無い思惑の一端を聞かされ、シエルの胸は圧迫される様に苦しくなる。


「おばあちゃん、一体何をしようとしているの……?」


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