表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

164/183

14-11

 撃ち落とされたバルチャーの死骸が地面を埋め尽くす。

 上空を舞う個体数は大分減っているが、人肉を好む彼等の性質を考えると、僅かに残しておくことすら危険極まりないため、周囲からその姿が完全に消えるまで只管に攻撃を続ける。



 バルチャーの襲来により、予定よりも作業が遅延したものの、駆除後は4回程Bランク以下の魔獣に橋の修復を妨害された程度で済み、14時までには川の対岸に橋を渡す事が出来た。そして日没までの間に橋を渡ってすぐ北側に位置する鉱山街の商業地区で魔獣の駆除を完了した。

 そして2日目も、商業地区よりさらに北、バーデッド子爵家が経営する会社が所有する倉庫街とコークス加工工場の敷地内で、徹底した魔獣の駆除作戦が行われた。


 

 夕方になり、少し肌寒くなってきた風に、血の臭いが混ざっているような気がするのは、シエルの気のせいではない。


 今日は多くの命が失われた。


 魔獣だけではなく、作戦参加者にも犠牲者が出てしまい、陸軍側も魔術師協会側も重苦しい雰囲気に包まれている。

 こうした危険地帯で活動を行う事で徐々に心が疲れていく者が出てしまうのは、どうしようもない事なのかもしれない。


 シエルは鉱山街のすぐ近くで見つけた小川に沿って歩く。

 川べりに白い花を見つけ、茎から手折る。


「魔術にでも使うのか?」


 シエルの後ろからついたジャックが不思議そうに声をかけてくる。


「事故後亡くなった方々のお墓に花をお供えしようかと思ったんです」


「そうなのか。俺も行きたい」


「行きましょう!」


 1日目の鉱山街での作戦の際に、シエルは街の外れに小規模の墓地がある事に気付いた。

 良く見なければ墓地である事すら気づかない様な急ごしらえな十字架だった事に疑問を感じ、バーデッド家の執事に聞いてみたところ、2年前の事故の際に、鉱山に現れた魔獣に殺された人々をそこに埋めたのだそうだ。

 そこに故人を埋めた後、戻る事が出来なかった家族等の気持ちを考え、シエルは代理で祈りを捧げに行きたくなった。



 ジャックと共に、黒い血の染みが残る鉱山街の小路を歩く。


 沈みかける夕陽により、長く伸びるシエルとジャックの影。

 血の様に赤くそまる風景の中、墓地に向かっている事が、シエルは今更ながら怖く感じてしまう。

 ついて来てくれたジャックに感謝だ。


 余計な事を考えないようにするため、シエルはジャックに話しかける。


「ジャックさんと墓参りするのはコレで2度目ですね」


「そういえば、前も行ったよな」


「ですです。あ! 墓に行くスリルを味わいたいんじゃないですからね!」


「なんだそれ。ちゃんとシエルが亡くなった方々の事を思って足を運んでるのは分かってる」


 冗談めかしたシエルの話に、ジャックは軽く笑ってくれた。「明日からこの先に広がる森で作戦を行うんでしたよね?」


「うん」


「魔獣の中には森の中を好む強力な個体もいるので、気を付けてくださいね」


「シエルこそ、明日王都に帰るんだろ? 道中と王都内での暗殺に注意しろよ?」


「次はどんな手を使って来るんでしょうね!」


「楽しみみたいに言うな。こっから王都までかなり遠いから助けにいけないんだからな」


 シエルの頭に、ジャックがポンと手を置き、軽く力をかけられる。


「そんなに心配ですか?」


「当たり前だろ」


 頭に乗せられていたジャックの手が、そのままシエルの手に触れ、包み込んでくる。


(わ……!)


 あまりにも自然に繋がった事に、内心動揺するが、口に出してそれを指摘してしまうと、離れてしまいそうに感じられ、その事には触れないでおくことにする。

 ジャックも手を繋いだ後、何も喋らなくなったので、2人の足音のみやたら大きく聞こえ、耳障りだ。

 

 無言に耐え兼ね、シエルは必死に話題を考える。


「ジャックさん!」


「ん?」


「王都に帰ったら、私、現王に会ってみようと思ってます!」


「お、おう……。でも、あの方は寝たきりの様になっていると聞くけど、会えるのか?」


「宮内大臣に取り付いでもらおうかと。それでも無理なら、忍び込みます」


「また、無茶な事しようとしてる……」


「それだけ価値ある事だと思うんです。ジャックさんが過去の時代に見てきた大魔術について聞いてみます。それから、代々王しか伝わってない事もあるかもしれないから、それも聞いておきたくて……」


「確かにそれを聞く価値はあるだろうけど……、物凄く不安になるな」


「心配いりません! またジャックさんに相談すると思うので、その時はよろしくです!」


「勿論、俺で相談に乗れるならいくらでものる」


「有難うございます!」


 話をしているうちに街を抜けた。さらに小路を進んで行くと、不格好な十字架が見えてくる。

 あの下には多くの犠牲者が眠っているのだ。


 少しだけ小高い丘の上まで上り、十字架の下に花を置く。


 隣に立つジャックがシエルの手を放し、跪くのにならい、シエルも祈りを捧げた。

 


「明日朝10時からパレードがありますので、まずそれに出席していただきます」


 シエルはルパートと共に王都へと戻り、伯爵邸で待ち受けていた宮内大臣のハドリーと建国記念式典についての打ち合わせを行う。


「朝10時って、準備の時間も考えると結構早いですね」


「ええ、9時にはお迎えにあがりますから、それまでに準備しておいてくださいね。メイクや髪等のセットが伯爵邸の人材で補いきれないようでしたら、宮殿から派遣します」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ