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14-10

 10m程の深さはあるだろうか? 

 川底まで深く、向う岸まで50m程度離れているらしい。流れの速いこの川に落ちたら、魔獣の中にも命を落とす種類が多いかもしれない。


「足を踏み外さないよう、慎重に作業を進めるように!」


 魔術で橋を組み上げて行く下位の魔術師達に注意を促すのは、魔術師協会の副会長マーシャルだ。橋はまた何かあった時にすぐに壊しやすいようにと、今壊れている部分を簡易につなぎ合わせるだけにするという説明を聞かされた。

 壊された部分、と言っても25m程の長さを繋ぎ合わせなければならないため、魔術を使ってもそれなりの時間はかかる。

 橋の修復の材料は、バーデッド子爵家と橋の中間に位置する住宅街のうち、倒壊した家屋の廃材を利用しようという事になり、陸軍は今、住宅街から馬車で使えそうな物を運んでくる作業を行っている。


 シエルも橋の修復に協力しようか迷ったものの、ルパートに魔獣が襲来した時に撃退する側の方が良いと言われたため、魔導銃の銃弾に魔力を込めながら待機する事にした。


 乾いた赤土の大地の上に銃弾を5つ置き、白く輝く術式を描く。

 フワリと浮き上がった銃弾は回転し、それぞれが強く光を放った後に地面に落下する。


 シエルはそれらを拾い集め、魔導銃の中に詰める。


 毎日少しずつでも時間を作り、銃の訓練をしていたため、体の大きな個体なら問題なく倒せるだろう。


「シエル! 作業状態はどうだ?」


 住宅街から戻って来たジャックがシエルの元に走ってくる。


「ジャックさん、お疲れ様です。作業は6割は済んだみたいです。街はどうです? 材料足りそうですか?」


 ジャックの軍服には砂ぼこりや木の屑が付着していて、廃材を運ぶ作業を行っていた事が伺える。


「ああ、意外と壊れた建物が多かったからな。一応場所は控えておいたから、後から所有者が生存しているかどうか調べてもらうつもりだ」


「なるほど、丁寧な対応ですね。魔獣はどうです? 出現しましたか?」


 昨日見かけた新種の魔獣の事が気になり、確認を取りたくなる。


「今の所14匹現れている。そのうち一匹が新種みたいだった」


「そうでしたか。新種が出てきたら、その情報を集めて持ち帰りたいですね。何かの役に立つかもしれませんし」


「そうしよう」


「おばあちゃんが以前ここに討伐隊として来た時、住宅街方面を中心に魔獣駆除にあたったらしいです。それでも新種が現れているって事は、何か問題があるからなのかな……?」


「この川の向こう側を主戦場と考えていたけど、こちら側にも問題はありそうって事か」


「そんな気もします。まぁ、ただたんに、魔獣自らが川を渡って来ただけなのかもしれませんけど」


「それは、実際に見てみないとなんとも言えないな。む、……あれは何だ?」


「え……?」


 ジャックが指さす方に目を向けると、向こう岸の方に低空で浮かぶ黒い雲の様なモノが見えた。ここから50m以上離れているため、ハッキリと見えないものの、黒っぽい鳥型の生き物がうごめいているのは見て取れた。


「飛行タイプの魔獣が集団で群れていますね!」


「鳥っぽい姿をしているな……」


 シエルとジャックの声に気付いた魔術師達は騒ぎ始める。


「橋を架ける俺達の行動に気付きやがったか!」 「なんて数だ……」


 黒い雲は、見ている間にどんどん膨らんでゆく。

 一体どれだけの数の魔獣がひしめいているのだろうか?


「修復はいったん中止だ! こちら側の川岸幅100m、高さ20m程度に障壁を張るぞ!」


 マーシャルが声を張り上げ、魔術師達に指示を飛ばす。


「私もやります!」


「ああ……、俺はパリエロ副師団長に知らせて来る! すぐ戻る!」


 川岸に並ぶ魔術師達に混ざり、術式を展開し、既に張られつつある障壁にプラズマの効果を与えていく。


「シエル様、あれはバルチャーの様に見えますね」


 川岸周辺の見回りに行っていたルパートが戻り、シエルに声をかけてきた。


「うん。低級の魔獣だけど、いくら何でも数が多すぎる!」


「Dランクの魔獣でも、これだけ集まると厄介ですね……、奴らは人間の肉を好みますから。障壁を張り終えたら、銃をいつでも撃てるよう、準備してくださいね」


「分かってるよ」


 バルチャーの集団は、ゆっくりとこちらに近づいて来る。

 個体は全て眼が赤く染まっているのが見て取れ、何百という数がひしめいている様子がかなり不気味だ。


 障壁のプラズマの効果で、バルチャーの大半はこちらに辿り着く事なく、川に落ちる。

 しかし、かなり上空から障壁をこえてくる個体もあるため、それらを銃や魔術で迎撃し、撃ち落としてゆく。


 この場は完全に人と魔獣との戦場と化してしまったのだ。


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