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14-7

 ローズォールでのんびりと暮らしていた頃と違い、次々と事件が起こるし、行事にも立て続けに参加しなければならない。そのたびに助けてくれる周囲の人達には感謝してもしきれない。


「シエル様、ホープレスプラトゥ掃討作戦でのご自分のスケジュール把握してますよね?」


 ルパートが思い出したように声をかけてくる。


「大丈夫だよ。明日から二日間作戦に参加して、一度王都に戻って建国記念式典に出席、またホープレスプラトゥに戻って来て、残り3日間魔獣と戦うって感じだよね?」


「ええ、コチラの目的も大事ですけど、貴女は建国記念式典で存在感をアピールしないといけませんし、予定は厳守したほうがいいでしょうね」


「それは分かってるよ」


 ルパートはいかにもシエルがスケジュールを守らなそうな言い方をする。

 確かに現王室との微妙な関係を思うと、この国の行事の中で最も大事ともいえるイベントに参加するのは気が引ける。

 国王が危篤中であるため、式典は小規模で行われるそうなのだが、シエルは国王代理で他国のゲストをお迎えしなければならない。

 ハドリーから貰った、ゲストの名簿を見ると、国外の王族や有力貴族や軍人の名前がズラリと書いてあり、シエルは胃が痛くなる。

 

「大役だなぁ……」


「シエル様はなかなか神経が図太いですし、堂々として、余計な事を喋らなければ大丈夫なんじゃないですか? ゲストの大半が男性なので、大体の御仁は貴女の見た目に騙されてくれるでしょう」


「別に興味ない人にアレコレ言ったりはしないよ」


 本当はアルバート殿下がこの役割を担うはずだったのだが、先日のフェンリルの件でアルマが議会側に抗議した効果なのか、王家の一員としての活動を抑制される事になったらしい。

 だから建国記念式典という一大イベントにも参加出来なくなったわけだが、それだと他国へ見せる体面が良くないため、急遽シエルが祭り上げられる事になったという経緯なのだ。


(建国記念日とか、今までただの祝日としか思ってなかったのになぁ……)


 ルパートとその後も数日間の予定の確認や、魔術の事、王都での他愛無い噂話を話しているうちに、車窓から見える景色は緑多い森林から、赤土が目立つ大地へと移り変わっていった。


「この辺りはもうバーデッド子爵領です」


「森林が少なく見えるね」


「鉱山が多く、古くから採掘していたみたいなんで、かなり伐採されてしまっているみたいですよ」


 ルパートの言う様に、山地は人工的な足場が作られているのが確認できる。

 バーデッド子爵領の中でも、トラブルに見舞われ無かった場所は平常運転で採掘しているのだろう。


「改めて言う事でもないんだけど、随分収入が多い領地なんだろうね」


「ですね。ジャック氏はああ見えて相当裕福な家のお坊ちゃまですよ」



 大昔に定められた爵位により、この国は細切れに分断され、領主に分け与えられた。

 爵位の高低に従い、与えられる土地の大小が決まったそうなのだが、例え土地が狭くても、中に埋まった物如何によっては大金持ちになれる。時代の変遷によって、特に鉱物は価値が大きく変動したものもあるし、それを元に経済界で絶対的な位置についている者もいる。現在では爵位の高さだけで人や家の価値を決めつけれなくなってきている事は耳だこになるくらい聞かされている。


「納税額に沿って爵位をつけ直した方が良くない? そうしたら財政も潤うし、貴族社会の不満も少しは解消されない?」


「この国って、ノブリシュオブリージュを地でいってるんで、与えられた領地を守れるだけの強さに従って階級、爵位が決まってたりするんじゃないですかね? まーそれすら現在は揺らいでるわけですけど……。経済的な立場だけで物事考えたら、うまくいかなくなる事もあるんじゃないかなって思ってたり」


「難しそうだなぁ……」


 シエルには政治的な手腕は皆無なのだ。思った事を軽率に実行しようとしたらすぐに信用を失うのだろう。

 せっかくやりたい事を実行しやすい地位に就くのに、やれる事は少なそうだと、シエルはため息をついた。


 列車のスピードが緩まり、停止する。


「到着かな?」


 停車した駅の看板をみると、『ホープレスプラトゥ』と書かれている。


「ひとまず様子を見てましょう」


 魔獣蔓延る地ホープレスプラトゥ。シエルは少し緊張して駅の外観を観察する。

 レンガで作られた駅舎は、上部がやや崩れたり、血の付着の様に黒ずんだりしていて、魔獣がたびたび襲来している事が伺える。


 先頭車両から次々に軍人達が下車し、貨物車から馬車や馬等を運び出しているのだが、その光景が妙に無防備に見えてハラハラする。


「この辺ってどのくらい魔獣が着ているのかな? 私達も降りて作業している人達を守った方が良くない?」


「駅や、その南側に建つバーデッド家のカントリーハウスは割と安全と聞きましたよ。俺達が出て行ってもただ気を遣わせるだけだと思いますし、大人しく待ってましょう」


「黙って見てるだけっていうのも辛いな」


「これから貴女はそういう場面が多くなりますよ。自分の価値を自覚してくださいね」


「そっか……」


 ルパートはコンパートメントの棚に入れておいていた自分のバッグとシエルのトランクを出しながら、彼にしては少し怖い顔で釘をさす。

 シエルはその顔から緊張感を読み取り、黙って従う事にした。


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