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「ところでさ、ホープレスプラトゥには本当に行くのか? かなり危険だと思うけど」
「行きます! アルバート殿下との取引の件もありますし、ジャックさんのお宅の領地を見てみたいんです」
アルバートにはもう関わらない方がいいんじゃないかと思うが、やろうとしている交渉の重要性はジャックには分からないため、口に出さないでおく事にした。
「そっか。ホープレスプラトゥは今はかなり酷い景観になってるみたいだけど、元はそこそこ発展した都市だった。今見ても面白い所はないかな……。でも昔の活気が戻る様に手伝ってくれるのは嬉しい」
「頑張ります!」
「ただ、本当に命だけは大事にしてな。……俺も出来るだけ……その……守るから。君を」
言葉にしてみると、なかなか恥ずかしい。
(軍人として当然の言葉だし!)
そう言い聞かせても、やはり恥ずかしい。
シエルが何も返事を返してくれないので、白けられたかと、彼女をチラ見してみると、見事なほど顔が真っ赤になっていた。
(お?)
「コッチ見ないでください!」
「だめなのか……」
「そうですよ! でも、あの……有難うございます。無理はしないでください」
「あぁ」
シエルはホッとした様に微笑んだ。顔の赤みは引いて行っているみたいだ。
「ジャックさんと過ごす時間は、私にとって特別です。私が即位しても、こうやってたまに会ってください」
「それは、許されるのか?」
シエルが国王になったら、今と比べ物にならないくらいガードがきつくなるだろう。
彼女と会えるのは、期限が決まっている。そんな風に思わざるをえない。
「私が許します! ジャックさんが会わないって言うなら、王命使っちゃいますからね!」
王命とはこの国で一番強制力の強い命令なのだが、ジャックに会う為に使っていいものではない。
「俺なんかに会うためだけに使ったらまずいだろ」
「そんな事ないです! 出来るだけ一緒にいたいんです」
彼女の表情を見ると、その言葉が冗談でもなんでもないのが伝わってくる。ジャックの迷いが消えそうだ。
「陸軍内で、実績を上げやすい部署に異動する。階級を上げるから、それまで待っててほしい。今の俺にはそれしか言えない」
「階級?」
彼女はジャックの言葉の意図を理解したのか、してないのか、判別し難いおとぼけ顔だ。
「そういう事だから宜しく! そーだ! あのさ、もう1つ話をしていいか?」
この話を長引かせると、自分へのダメージで潰れてしまうだろうから、ジャックは無理やり話題を変える事にした。
「え? どうぞです」
「過去の時代で、俺が見てきた事で、もう1つ伝えなきゃいけない事がある」
「なんですか?」
「神獣についてだ。王都地下に眠る神獣を俺は見てきた。その封印の方法も」
ジャックの話に、シエルの顔も引き締まった。
「聞かせてください」
「俺が飛ばされた1400年前、時の支配者ハロルド・アースラメントはアストロブレームに眠る神獣を封印する魔術を考えていた。それは、魔術師の命を使うものの様だったんだ」
「え? 待ってください。魔術師の命を使う魔術は確かにあります。でもそれは最大の禁忌のはずです」
「そうなんだ? でもハロルドは実行させた。自らの命を使って」
「後世に伝わっている史実と違っているみたいです。始祖は65歳で亡くなっていますから」
「たぶん、彼の妹が、彼の名前で統治していたんじゃないかな? ハロルドは彼女に後は任せると言って死んだから……」
アリシアの事は、時間が出来た時にでもその足跡を調べたいと思っている。
友人になれた彼女を残してこの時代に戻ってきたが、やはりどのような人生を送ったのか気になる。
「最近、王都で地震が相次いでるよな? 神獣の活動が活発化している気がするんだ。封印についての詳細をアルマさんに確かめた方がいいんじゃないかな?」
「魔術師の命を使う魔術をやる予定かどうかですか?」
「うん。念のために」
「そう……ですね。おばあちゃんに限って、そんな事考えていないとは思いますが」
シエルの表情が暗く沈む。その表情を見つめていると、少し心配になってくる。
シエルとアルマの関係の歪さは、彼女の心に孤独感を生み出しているのかもしれない。
ジャックは彼女の手を握り直した。
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