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「連日の会議への参加、有難うございます。明日からの計画を確認させてもらいますね。1日目はサニル川に架かる橋の修復とホープレスプラトゥ鉱山街で魔獣の掃討。2日目は倉庫街及びコークス加工工場敷地内。3日目と4日目はその奥に広がる森を、5日目から8日目にかけて鉱山外周及び内部を、魔獣は一匹残らず殺し尽くす。これで行きましょう」
上司であるパリエロの言葉を、ジャックは書記としてメモをとる。
ホープレスプラトゥへの出発を明日に控え、本日も魔術師協会で作戦会議が行われている。
日に日に会議への出席者が増えてゆき、会議最終日の今日は200名を超えるメンバーにまで膨らんだ。
この作戦は、関わるメンバー数も相当なものだが、物量的にも妥協がない。
聞く話によると、魔術師協会側で極秘に開発していた改良型のコンポジション爆薬を試験的に使用する計画もあるらしく、王都内の保管庫からは1,000発分運ぶようだ。
「人員の配置はもう確認しなくてもいいのかしら?」
口を開いたのはアルマだ。椅子にゆったりと座る彼女は、扇で顔の半分を隠しているが、猫の様に三日月形を描く目で、この会議を楽しんでいる事が伺える。
彼女はホープレスプラトゥへ行かないものの、魔術師協会の協会長という立場から連日この会議に参加している。
「シミュレートは充分かと思いますが、作戦実行初日、明後日分だけは今確認しましょう。先程渡した資料のp.5にある通り、各ポイントに名前を示しております。それぞれが爆薬をそこに設置し、陸軍が魔獣を追い立て、合図により一斉に点火。爆破から漏れた魔獣を高位魔術師達や、ウチの腕の立つ者達で狩っていく事になります」
「いいわ。科学省からの参加者は、後方で記録係をお願いね」
「了解いたしました」
数日前からやたら雰囲気が暗いブレア・ダグラスがアルマに頷く。
「作戦の前日と当日朝に細かい確認はしていくつもりですので、バーデッド子爵家のカントリーハウスの大会議室に集まってください。宜しく頼むな、ジャック」
「お任せください」
元は実家絡みの事なので、このくらいの協力は安いものだろう。
会議室だけでなく、カントリーハウス内の個室や、敷地内をキャンプ地として貸し出す予定だ。
「ジャックさん、受け入れ有難う。シエルからは何かあるかしら?」
アルマからの名指しに、彼女の隣に座ったシエルは、居住まいを正した。
淡い水色のドレス姿の彼女は、今日も可愛らしく、正直この猛者猛者とした会議室の空間から浮いている。
「ええと、魔獣の種類の把握は大丈夫でしょうか? 力量に見合わない魔獣の相手をする状況を作り出す事は、犠牲者をいたずらに増やす事になりかねません」
「陸軍側で相手に出来るのは、獣型と鳥類型の魔獣それぞれC~Fランクまでになります。文字としての説明だけであれば、お渡ししている資料の後ろに書いてあります」
150頁程ある資料の後ろから20頁は、パリエロの言う通り、魔獣の種類についての説明書になっている。
会議室内は、パラパラと紙を捲る音で騒がしくなる。
「では、この資料にB、A、Sランクの魔獣の写真、なければ絵を明日までに用意願います。襲い掛かられてからでは遅いので、すぐに危険性を把握出来た方がいいと思います」
「招致致しました。本日午後に印刷させ、明日移動中にでも配布いたします。ちなみに、把握が漏れている種類もいますから、そういう個体を見かけたら、陸軍階級伍長以下の者は近づかないように」
(伍長以下って事は、それより上の俺は討伐可能側って事か)
ジャックは王都でのフェンリル討伐の件が評価されて、階級を上げてもらい、現在は少尉だ。同年代に比べても階級がかなり高くなってしまったため、若干の気まずさがあるが、庁舎内に自室をもらえたのは、素直に嬉しかった。
(職場とはいえ、プライベートが保てるのって大きいからな)
ジャックはひとり顔が緩みかけるが、ここで笑ったら変人だと思われるため、慌てて口元を抑えた。
「もう質問のある者はいない?」
アルマの問いに答える者はいない。
「では、本日は閉会といたします。明日に備えて準備と休養を!」
パリエロの終了の挨拶で、会議室から参加者達が退出して行く。
ジャックもそれについて出て行こうとしたが、出口に向かうまでの間にシエルの姿が目に入り、歩みを止めた。
アルマと話していたらしい彼女もちょうどジャックの方を向いたタイミングだったようで、目が合う。
「あ! ジャックさん。待って下さい! おばあちゃん、後で執務室に行くからそこでまた話そう!」
シエルはアルマに詫びを入れ、ジャックの元に走り寄って来た。
「ジャックさん! ちょっとお話しませんか?!」




