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14-2

 国立図書館に入館すると、貸出カウンターに座る年老いた司書に、閉館まで後1時間だと告げられる。ジャックは彼に頷き、図書館内に歩みを進めた。

 白黒市松模様にタイルが貼られた床に、高い天井。書棚は5階建ての館内いっぱいに整然と並ぶ。吹き抜けになっているため、上を向くと5階までの様子が眺められる。


(相変わらず凄い眺めだな)


 年会費を高く設定する事で利用者の層を限定しているだけあって、館内は落ち着いた雰囲気を保てている。

 司書によると、ジャックが探している歴史書は3階にあるらしい。

 螺旋階段で目的階まで上り、教えてもらった棚番まで行く。

 歴史書のエリアはとんでもない厚みの書籍が並んでいた。


(こういう重い本を置いておくんだったら、歴史書のエリアは1階の方がいいんじゃないか?)


 床が抜けないかと余計な心配をしながらジャックは本のタイトルを眺めて行く。


 本棚の中段に探していた本の一つを見つける。『ヘルジア災害史』というタイトルだ。

 隣の本棚の中にはもう一つの探し物、魔術師の弾圧の歴史についての本も見つける。


 2冊目については読んでいるところを知人に見られたらまずいため、ジャックは本棚の影にある長椅子に座り、読む事にした。



 まずは災害史の方だ。『地震』と見出しがついたページを開く。


 この星はコアがあり、その周囲はマントルで覆われている。マントル上層部とさらにその上の地殻をプレートと呼び、地震の発生はこのプレート同士のぶつかり合いによるものが多いらしい。

 しかし筆者によると、この国はプレートの境界に位置しているわけではないため、たびたび起こる地震はプレート内地震なのではないかと考察している。

 プレート内地震とは、プレート内部の活断層が微妙にズレていく動きが原因になるはずなのだが、何故か周期が大幅に伸びる現象が起きているらしく、予測がしづらい事を嘆く心境がつづられていた。


(まぁ、そうだよな。地震は神獣によって引き起こされてるものも多いはずだし)


  次のページを開くと、年表が載ってあり、約2,000年前から記録さている。

 2,000年前から1,400年前まで、約100年刻みで地震が発生していて、1,400年前にいきなり500年間隔になる。その後長らく100年周期で地震が起こっていたようだ。

(俺が行った1400年前に行われた大魔術の後、何度かは効力の弱い封印をしたって事か?)


 再び間隔が広がったのは、ちょうど500年前からで、現在に至るまで地震は起こっていないようだ。


 ジャックは魔術師側の情報も仕入れる為、弾圧に関しての歴史書を開く。


 古の時代、魔術師は人々から尊敬を集める存在だった。それが変化したのは500年前を境にする。

 長く続く天災が世を苛む中、その原因として槍玉にあげられたのは魔術師だった。

 その時代の有力な魔術師だった12人を処刑した後、天災はピタリと止まる。

 それが何よりの証拠となり、魔術師達への迫害が始まり、魔力がある事を隠す者達が増えた。魔術師達の数は徐々に減り、本が書かれた時点で、この国の魔術師の数は1400年前に比べ三分の一程になっていたらしい。


(500年前の魔術師12人の処刑って、間違いなくあの魔術の為なんだろうな)


 なんでそれまでの弱い効力の封印から、強い封印に切り替えたのか疑問に思う。


 ジャックは考えに没頭しそうになったが、閉館の時間が近づいている事から考えるのをやめ、2冊の本を元の場所に戻した。


 閉館ギリギリに図書館を出て、家に帰り着いたのは19時半に近かった。

 エントランスまでジャックを出迎えたのは赤毛のメイドだった。


「ジャック様、お帰りなさいませ」


「ああ」


 やけに無表情なその女はジャックから荷物を受け取り、部屋へと向かう。

 ジャックが過去の時代に行っていた間に雇い入れたらしいその女を、ジャックはどこかで見た様な気がしていた。しかもどういう訳か、胸が騒めくような嫌な感覚がある。


 あまりいい出会い方をしてないのは間違いないだろう。


「なぁ、お前。以前俺と会った事があるんじゃないのか?」


 ジャックが感情を殺して声をかけると、彼女はピタリと立ち止まり、振り返った。


「それは口説き文句でございますか?」


「はぁ?」



 ジャックが睨み付けると、彼女は蠱惑的な笑みを浮かべ、立ち去った。


(なんだ、あの態度!?)


 図書館で仕入れてきた情報を忘れないうちにまとめておこうかと思っていたのだが、女の後を追いかけて、自分の部屋に戻る気にもならず、イライラしながらダイニングルームへと向かった。


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