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14-1

 ジャックは王都内での軍務の後、夕焼け空の下、各省庁が建ち並ぶストリートを歩く。

 目的地へと速足で歩いていたのだが、通り過ぎようとした雑貨店のウィンドウから見えた夕刊の見出しにギョッとして足を止めた。


 見間違いじゃないなら、紙面にジャックの良く知る人物の名前が載っている。

 ウィンドウに寄り、見出しに踊る文字を確認したジャックは思わず「うへぇ!?」と変な叫び声を上げてしまった。

 『ペラム男爵令嬢脱獄』と書かれている。


「う、嘘だろ? いくらなんでもアイツ……」


 エレインはジャックと付き合っている時から性格に難がある女ではあったが、最近では王都で神獣を呼び出す等のテロ行為を行い、次期国王暗殺未遂や公爵家長男傷害事件等、どれをとっても軽犯罪では済まない事をやらかしており、だんだんエスカレートしている。しかも今度は脱獄……エレインがそこまで性悪な女だったかと唖然とする。


(そーいえば、今日訓練中に俺の事変な目で見てきた奴等が何人かいたよな)


 ジャックの元恋人エレインの情報をいち早く掴み、アレコレと噂を広めているんだろう。頭痛がしてくる。


 通りがかりの人々が雑貨店に貼りつくジャックの姿をクスクスと笑う。


(げ……。つい奇行を……)


 貴族の子弟が、軍服姿の人間がしていい行動ではなかったと反省し、ジャックは雑貨店で夕刊を購入し、近くのベンチに座って目を通す事にした。


 犯行は昨日の深夜アースラメント塔という中流階級が住むエリアと上流階級が住むエリアのちょうど境にある監獄で行われたらしい。

 脱獄はエレイン単独で起こしたわけではなく、他に手引きする者がいて、それは相当な実力の魔術師だったようだ。その人物は監獄に張り巡らされた魔術のセキュリティをことごとく解除し、エレインが入れられていた牢屋の壁に大穴を開けて、そこから出るという大胆な行動をとった後に、不気味な馬車で立ち去ったと書かれている。


 挿絵は黒いローブの人物と縞々柄の囚人服姿の女、馬がついていない馬車が書かれている。馬車の行く方に矢印がかいてあり、『Hell(地獄)』とわざわざ示されている。

 エレインが所属する秘密結社『地獄の門』が脱獄を助けたという意味が込められているのだろう。


 情報量が多いその絵を見て、ジャックは思わず「まじか……」と呟かずにはいられなかった。


 エレインはこれからどうするつもりなのだろうか?

 改めて気になってくる。


 彼女は2年前ジャックを裏切っている。ジャックは女性不信になり、それ以降告白してくる女性をことごとく拒絶した。


 どうせこの女も裏切るのだろうと思えば、なかなか心を開けなかったのだ。


 でも最近になって少し状況が違ってきている。シエルという少女が自分の心の弱みみたいな存在になりつつあるのだ。


 だからなのかもしれない、以前よりもエレインの事を冷静に考えられる様になっていた。

 処刑になるかもしれないという噂を耳にし、気がかりだった。

 彼女が死ねばいいと思っていたわけではないため、脱獄した事にジャックは内心ホッとしている。


(思えばアイツはいつも何かに追い詰められてるようだったし、貴族社会に疲れてた。第2の人生では自由になれたらいいな)


 一通り目を通した夕刊をゴミ箱に突っ込み、ジャックは再びストリートを歩く。

 向かう先は国立図書館だ。


 ホープレスプラトゥ行きの件で連日の様に打ち合わせがあり、上司パリエロとの特殊訓練を再開し、家では兄ブライアンの調査の件で探偵と打ち合わせている。要するに忙しい毎日の中、調べものをする時間がなかなか取れないでいたのだ。



 一日に一回程度の頻度で発生する地震に不安が募る。


 ブライアンの事やエレインの事は勿論心配ではあるが、それよりも気にかかる人物が居る。シエルだ。


 彼女はホープレスプラトゥから帰って来た後に即位するらしい。

 だけどその前にジャックはこの国の歴史を調べ、確信がもてたら持ち掛けたい話があった。


 過去で見てきた事が今の時代で再び起こるのだとしたら、あの恐ろしい術をシエルが実行しなければならなくなるだろう。

 魔術師である事を誇りに思うあの子は、同胞の命を犠牲にこの国を守らなければならないという事に深く傷つくかもしれない。



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