13-11
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馬車もどきは駅に着き、エレインは馬車に積み込まれていたトランクを運び出そうとする。
大きなトランクだが、中身は服や化粧品等なのでそこまで重たくはない。でも2つもあると少し身動きがしづらい。
「1つ持ちます」
シエルが客車のドアの傍まで来て、エレインの手からトランクを1つ奪った。
「ありが――」
「エレイン・ボーナム。シャバの空気はどうだ?」
ツカツカと近寄って来たブレアは、エレインの言葉を遮る。冷笑を浮かべたその顔は、いつものようにエレインを見下す感情が透けて見える。
(相変わらずムカツク男だわ)
3日前のあの日、エレインはブレアを利用した。
嫌いな奴だからいいかと思ったのに、事後にこうして向かい合うと、罪悪感が湧いて来る。
しかし素直に謝るという選択肢はエレインにはないのだ。
「シャバって何の事ですの? わたくしの辞書にそんな言葉は載っていませんの」
「あれだけ手を汚しておいて、今更淑女面か」
「ほっといて下さる?」
「お前の事など放っておきたいに決まってるだろう!? 誰が好きこのんでこんな事……」
急にキレだしたブレアを、シエルは「まぁまぁ、キレ芸はほどほどに」等と宥める。
「ブレアさんにリバーエンド市までエレインさんを送ってもらうように頼んだんです」
「はぁ……?」
エレインは盛大に顔を顰めてシエルの顔を見つめた。
リバーエンド市とは西ヘルジアの貿易拠点の一つとして大きな港を有しており、シュラルトーハへ行く際にはこの港からの出航が一般的だ。
目的地はいいにしても、何故この男と共にそこへ向かわねばならないのか? これが分からない。
「わたくし一人で行けますわ!」
「お前の意志などその辺のゴミ程に興味がない。……いいから黙って俺の荷物として運ばれろ。これはお前の為じゃなく、俺の贖罪の為にやるんだから勘違いするなよ?」
「意味が分かりませんわ……」
ここからリバーエンドまでは半日以上かかるだろう。その間ずっとこの男と同じ列車に閉じ込められるなんて、拷問だ。
「細かい事なんてどうでもいいじゃないですか。そろそろプラットホームへ向かいましょう」
シエルは言い争う二人に声をかけ、ズンズンと駅舎の方へ歩いて行く。
「あ! シエルさん。トランクは俺が持ちますよ!」
ブレアがシエルの方に慌てて駆け寄り、トランクを彼女の手から受け取った。
それを見ながらエレインは呆れる。
(ブレア・ダグラスって、絶対シエル・ローサーをか弱い乙女と思ってるわよね。本性知ったら泣くのかしら?)
エレインはその想像をして軽く噴き出した。
駅舎の中は暗かったが、プラットホームに停車する一両編成の蒸気機関車の車両の窓から漏れるオレンジ色の明かりで、歩くには問題なかった。
しかしこんな遅い時間に普通列車は走らないはずなので、エレイン首を傾げる。
「シエル様~!」
エレインの疑問は、車両から出て来た人物の姿を見て解消した。
黒いシルクハットに燕尾服姿の男は西ヘルジア中央鉄道会社の経営に携わる人物のはずだ。
記憶がたしかなら、ブレア・ダグラスの異母兄弟。名前はケインズだっただろうか?
この男の権限があれば、変な時間に臨時列車を走らせる事は容易いだろう。
「お早い到着でございますね!」




