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13-7

 陸軍の面々が到着するまでまだ時間があるとの事だったため、シエルはブレアと共に一度会議室を出て、階段付近まで戻った。


「シエルさん、体はもう大丈夫なんですか? 昨夜は魔力の使い過ぎでだいぶ弱ってましたけど」


「魔力はもう戻ってるんで、問題ないです。そういうブレアさんはどうなんですか? 神獣の肉体の再形成のための魔術はかなり魔力を使いますよね? それ以前に魔力をお持ちだった事に吃驚してますが」


「平気です。よく分からないんですけど、魔力量だけはそこそこ多いらしいので」


「どうして魔力があるのに魔術を学ばなかったんです?」


 シエルの質問に、ブレアの目が泳いだ。


「ええと……、幼少期に一度魔術を習ってたんです。でも恥ずかしながら制御できなくてですね……。ほんの小さな炎を出そうとするだけなのに建物ごと爆破させたりしました。何度か死にそうになりながらも1年程粘ったんですが、親父に見込みがないからやめろと止められたんです」


「成る程」


 ブレアの様に自らの魔力を抑制する事が出来ず、魔術師になる道を諦める者は結構いる。

 シエルが魔術師学校の臨時講師を務めた時にも、力を暴走させがちな生徒を何人か見た事があった。その人達は現在では立派な魔術師になっているが、もし暴走度合いが酷ければ、そのまま断念させなければならなかっただろう。


「でもまた訓練してもいいかもしれないと思ってます。昨夜の事、俺が魔術を使いこなせてたら何とか出来たかもしれなかったのに……」


「終わった事は仕方がないですよ。それを言うなら私だってアルバート殿下に騙されてしまいましたし」


「でも、何らかの形でお詫びさせてください。俺の気が済まないので」


 悔しそうに唇を噛むブレアを見て、シエルは目を輝かせた。


(ブレアさんを共犯に……フフフ)


「実はブレアさんにお願いしたい事があるんです」


「何でも言ってください」


 力強く頷くブレアに願いを告げようとした時、階下が少し騒がしくなった。


「もしかしたら陸軍の関係者が来たかもしれません」


 ブレアの言葉の通り、軍服姿の体格の良い人々が螺旋階段を上って来る。


(あ! ジャックさん!)


 軍服に大量の徽章を付けた人々の最後尾となり、ヒョロリと背の高い青年が現れた。

 シエルと居る時とは少し雰囲気が異なり、引き締まった表情だ。


(朝会ったばかりなのに、また会えてうれしいとか……)


 視線を感じたのか、ジャックが顔を上げた。シエルの姿を見て、彼は驚いた様だったが、口の端を少しだけ上げ、軍帽を目深に被ってしまった。

(むむ……、仕事中だから絡むなって事なのかな?)


「お久しぶりです。パリエロ閣下」


 挨拶を始めたブレアの方を見ると、灰色の髪の男性と握手を交わしていた。軍服の徽章は最も多い為、今日訪れた人々の中で最も階級が高いのかもしれない。


「ダグラス局長、お久しぶりです。……そちらのご令嬢はもしや……」


 パリエロと呼ばれた男性の興味が自分に移ったため、シエルは微笑みを浮かべた。


「こちらはシエル・ローサー様です。現在王位継承権第1位、次期西ヘルジア国王最有力のお方になります」


 シエルが口を開くより先に、ブレアが淀みない口調で紹介してくれる。

 陸軍関係者の視線がシエルへと集まり、大変居心地が悪い。


「貴女がシエル様ですか! ずっとお会いしたかったのです!」


 パリエロが片膝を床に付ける騎士の礼を取ったため、シエルは大いに慌てた。


「お立ちになってください! 困ります、そんな!」


 令嬢として育てられたため、大人に傅かれる事には慣れてはいたが、相手は陸軍の官僚だ。敬われているはずなのに、何故だか威圧されているように感じる。


「私は西ヘルジア陸軍王室師団副師団長を務めるパリエロと申します。シエル様が改良して下さった魔導銃は魔獣討伐に大いに役立っております。貴女様のお陰で命を落とす者が減ったのです。陸軍を代表してお礼を申し上げたく!」



「わ、私が出来る事ならいくらでも協力いたしますので!!」


 活舌の良いパリエロの弾丸の様な喋りに大いに慌て、シエルは叫ぶように返事をした。

 ジャックに変に思われていないかと様子を伺うと、笑いをこらえるかのように口元を抑えている。


(酷い! 他人事だと思って!)


 シエルが軽く睨むと、彼はニッと笑い、視線を外した。


「パリエロ閣下、魔術師協会と科学省の面々がお待ちなので、この辺で……」


 シエルの様子を見かねたのか、ブレアが割って入ってくれる。

 そのまま会議室に案内しようとする彼の袖をシエルはひっぱった。


「ブレアさん。先程の件、後で連絡しますので」


「お待ちしてますよ」


◇◇◇

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