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13-6

「まだ科学省とか、軍の関係者は来てない?」


 6日後にホープレスプラトゥ鉱山に行く件は、魔術師協会と科学省、陸軍を巻き込む事になった。そのため今日は合同の打ち合わせを行う予定なのだが、アルマの執務室に来るまでにそれらしき人物達はいなかった。


「もうそろそろ来る頃合いだと思うわ。まぁ話しながら待ちましょう。ソファに適当に腰かけてちょうだい」


 アルマに促され、シエル達三人は布張りのソファに座った。


「昨夜の件だけど、よくもまぁあれだけの事を起こせたものよね……」


 アルマはマホガニーのデスクに頬杖を付き、話を切り出した。恐らくエレインの事を話題にしたいのだろう。


「おばあちゃん、念のために言っておくけど、エレインさんはアルバート殿下に操られていたようなものだよ。午前中に警察にもそう伝えてきたからね」


「エレイン嬢が1人でこれだけの規模の事件を起こす事が出来たとは思ってないわ。でもね、シエル。この国では責任を取る人間が必要なのよ」


「私を殺しそびれたからエレインさんがその責任を取る事になったという事でしょ?」


「いいえ、違うわ。貴女を殺せたとしてもきっとアルバートはエレイン嬢に全ての罪を着せる気でいたでしょう。彼女も行動の意味は理解していただろうから、流石に無罪に……とは出来ない。わたくしたちは彼女の命をもってして、今後の抑止力とするのよ」


 つまりアルマは、見せしめとしてエレインを処刑し、同じような事をする者に死を与えると伝えようとしているのだ。


「王位継承者を殺害しようとした事と、神獣を王都で召喚するという行為はテロで言ってもいいくらいよね。アルバートは簡単に罰する事は出来ないから、国外追放か幽閉か、処遇案を議会に提出しておくわ」


 アルマの口振りでは、もうエレインの処刑については内々に決まっている様だった。正規ではない方法で刑罰について口添えしているんだろうか?


(私が何もしなかったら、エレインさんは処刑されてしまうんだ……)


 シエルはどうしたもんかと唇を噛んだ。


「そんな事よりも、マーシャル。フェンリルを呼び覚ました事で王都の磁場が不安定になってしまったのよね?」


「ええ、そうです。今まで王都の磁場については博物館最寄りの地点でゼロと計測されていましたが、今朝がたの調査でブレてきていますね」


 頭を悩ますシエルを放置し、アルマはマーシャルへと話しかけた。

 コツコツと机を指で叩くのはアルマが苛立っている時のクセだ。


「磁場が不安定になったの、何かまずいの?」


 エレインの事は気になるものの、マーシャルが口にした磁場ゼロについて引っかかるものを感じ、シエルも話に加わる事にした。


「ええ、かなりまずいわよ。さっき地震があったでしょう? 王都に封印している物に影響したんだと思うわ」


「封印……」


 ミッドランド伯爵家のカントリーハウスの位置がそうであったように、磁場の値がゼロを示す地点は封印に使われる事が多いと聞く。シエルは王都にもそのような場所があるとは初めて聞いた。


「あなたが王になったらやる必要がある義務について話した事があるわよね? それは王都に封印されている神獣の再封印よ」


「え!?」


 シエルは唐突に知らされた事実に、腰を半分浮かせた。隣に座るルパートも身を乗り出しているので、自分だけが知らないわけではなさそうだ。


「ちょっと待って。王都に神獣がいたなんて初めて聞いたよ」


「これはトップシークレットだから、貴女が王位についてから伝えるべき事だと思っていたの。でも事態が悪くなってきて、そうも言ってられなくなったみたい。端的に言うと、昨夜フェンリルが召喚された事で、王都の神獣の封印に影響してしまったようなの。たぶん封印が解けるのはかなり早まったかもしれない。それを裏付ける様に先ほど地震が起こっていたし……。今、国王陛下が病に臥せっているから少しマズイわ。まさか死にかけている魔術師を引きづりだして再封印をしろなんていえないでしょう? 国王の生前に王位を貴女に譲ってもらう事になるかもしれないわ」


「前に言っていた、王家の秘術をするために?」


「ええ、そうよ」


 国王の病状が芳しくないという話を聞いていたため、シエルは王位につく心の準備をしていたつもりだったが、ついにその時がやってくるという話に、緊張してきていた。


(私はこの国を背負いきれるのかな? エレインさん一人助けられないのに……)


 プレッシャーに押しつぶされそうなシエルの耳に、貧乏ゆすりの音が聞こえてきた。

 少し腹が立って音の方を向くと、マーシャルと目が合う。彼はすぐに作り笑いを浮かべたが、いつも感じのいい紳士なので違和感を感じた。


――コンコン


「どうしたの?」


 ドアをノックされ、アルマが応える。

 室内に入って来たのは、魔術師協会の職員の男性だった。


「科学省からお客様がいらっしゃったので、三階のB会議室に案内しておきました」


「すぐに行くわ。さぁ、三人共会議室に行くわよ」


 アルマに案内され、B会議室に入ると、高齢の官僚達にまじり、ブレアがいた。

 シエルと目が合うと席から立ち上がり、ツカツカと近づいて来た。


 近寄って来るブレアの顔を見て、シエルは彼が昨日口にしていた言葉を思い出す。


(確か、フェンリルの召喚の事で、何か詫びをしてくれると言っていたような……)


 シエルはいい事を思いつき、ブレアにニヤリと笑ってみせた。


「シエルさん! 少しだけお時間ください!」


「私もブレアさんとお話したかったんです。喜んで」





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