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13-5

「地位の高い方や、金持ちが自分の手を汚さずに相手を潰したりする事は古今東西どこでも行われている事ですよ。自分なんかその為に雇われてるもんですし。っていうか、シエル様、俺が意見する事じゃないですけど、王室や貴族と駆け引きをしたいならアルマ様を通した方がいいんじゃないですかね?」


 フェンリルの件から、ルパートはシエルの身の安全について不安になってきているのだろう。彼らしくもなく真剣な眼差しでシエルを見つめている。


「おばあちゃんの事は頼りにしているよ。でもね、頼り切るだけの人間になりたくない。おばあちゃんだけに重い判断を背負わせる事なんかしたくないよ」


「シエル様がそれを言うのは、もう少し経験を積んでからの方がいいかもしれませんね……」


「だからその経験が……。もういい。警視庁に向かって」


「了解しました」


 シエルは言いかけた言葉を飲み込んだ。


 ルパートに伝えてもきっとこの感情は理解してくれない。


 ルパートにとってアルマは絶対的な存在だ。身寄りのなかったルパートを我が子同然に育てたアルマに、ルパートは忠誠を誓っている。最近シエルの護衛をしてくれているのも、アルマの命令だからだ。

 シエルは彼の事を家族の様に感じている。でも時々酷く遠く感じた。



 シエルとルパートはバーデッド子爵家からアストロブレーム警視庁へ移動し、出迎えてくれた警視総監に昨夜の件を包み隠さずに話した。

 アルバートの事を話した時に彼は聞きたくなさそうな表情だったので、もしかしたらこの話はもみ消されるかもしれない。だが自分の口でアルバートの事を話すのは、シエルにとっては重要だった。

 アルバートを親族の一人と感じてしまっていた。だから今回隙を生んだのだ。気持ちの上で関係を切りたかった。


 彼の行った事は、王都を危険に晒す行為だ。

 シエル一人を暗殺するつもりだったのだろうが、神獣はそう甘い存在ではない。ジャックが戻って来なければ、自分も含めて死人が出ていただろう。

 生まれながらの王族として、国民の命を自らの物だという気持ちが透けて見えた。

 彼にこの国を任せてはいけないとシエルは強く思った。


 強い意志で主犯について告げ、警視庁を出ると、まだ昼だというのにシエルはぐったりと疲れてしまっていた。ジャックと朝食を一緒に食べた事でエネルギーを充電したハズなのに、初めて会う人間と国を揺るがす様な事を話すのは中々に体力と精神力をすり減らしたようだ。


 昼はルパートが買って来た軽食で済ませ、太陽が真上に差し掛かる頃にシエル達はアストロブレーム内に在る魔術師協会本部に着いた。

 魔術師協会の本部は以前はローズウォールに在ったのだが、先週王都に移った。

 それまで支部という位置づけだったので人数も限られており、小さな建物で済んでいたのだが、本部に格上げされた事で王都内部で場所を移転する事にしたようだ。

 昔王室の離宮として利用していた建物を丸々借り受け、協会本部の機能を入れると共に、魔術師養成学校を併設する。

 

 内装が宮殿だった時のままになっているため、豪華なシャンデリアや無数の絵画、鏡等がアチコチに飾られ、仕事場という感じではない。


 引っ越し作業で魔術師や運搬業者が忙しなく行き来する隙間を縫い、シエル達は中央の巨大な螺旋階段を上った。

 階段の踊り場まで来ると、見知った魔術師に出くわす。魔術師協会の副会長のマーシャルという男だ。


「マーシャルさん、御機嫌よう」


「ご機嫌ようシエルさん。いや、シエル様とお呼びすべきか」


「呼び方は今まで通りで構いません。おばあちゃんは執務室にいますか?」


「協会長は先ほどアースラメント宮殿から直接こちらにいらっしゃいましたよ」


「へぇ……、おばあちゃん宮殿に行ってたんだ……」


「これから話し合いをされるのでしたら、私もご一緒しましょう」


 今日シエルが魔術師協会に足を運んだのは、ホープレスプラトゥ鉱山の件について打ち合わせをするためでもあった。マーシャルには事前にその事を伝えていた。


 2階の最奥の部屋を2度ノックすると、中から入るようにと言われる。

 ドアを開けると、ダークグリーンのドレスを身にまとったアルマが立ち上がった。

 シエルを少し成長させた様な美しい顔は少しだけ疲れを感じさせた。


 昨夜の事できっと休む暇もないくらいに動き回っていたのだ。シエルはアルマのそんな姿に罪悪感を感じた。

 

「おばあちゃん、今から大丈夫かな?」


「ええ、待っていたわ」

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