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12-13

 驚いた様にシエルを凝視する顔に手を伸ばす。その頬に触れると確かな温かさがあり、凍えそうだった指先が解けそうに感じられた。シエルは慌てて手を離す。


「本物のジャックさん?」


「別の何かに見えるか?」


「見えないです……」


 暗がりの中で見るジャックは記憶していた髪色では無いような気がするし、痩せたようだ。

 一体どういう生活だったんだろうかと心配になる。


「風景が変わったなと思ったら、周りは雪景色だし、君は倒れるし、心臓に悪い」


「これには深い事情がありまして……」


「オイ! オレヲ ワスレルナ!」


「ヨウム!」


 ジャックとほぼ同時に姿をくらませていたヨウムが、ジャックの頭に乗っかっていた。

 もしかしたらずっとジャックと一緒だったのかもしれない。


「どうやって戻って来れたんですか? というか今まで一体どこに?」


「じっくり話したい所だけど、ヤバそうなのがいるよな……」


 ジャックが向けた視線の先にはフェンリルがいる。

 折角また会えたのに、命の危機が無くなっていないのが歯がゆい。


――お前が持つ剣、聖剣に見えるな。


「ああ、これはエクスカリバーだ」


「ジャックさん、その獣はフェンリルという神獣です」


「また神獣!?」


 「また」とはどういう事なのだろうか? 少し会わなかっただけで、ジャックの価値観が色々変わってしまったようだ。


「ジャックさんの元カノさんが、そこで氷漬けにされているブレアさんを利用して召喚しちゃったんです」


「は!? エレインが!?」 「シエルさん、申し訳ない。お詫びは後程……」


 男2人がそれぞれ微妙な顔をしてシエルから視線を外した。


「ドイツモ コイツモ ナサケネー」


 ヨウムの相変わらずの毒舌に、シエルは笑った。


「エレインさんのバックにはアルバート殿下が付いているようなので、彼女一人だけを責める事も出来ないんですけどね」


「そうなのか……。戻って来て早々に憂鬱になるな……」

 ジャックは重い溜息をついてから、シエルを街路樹に寄りかかれる様に地面に置き、フェンリルに相対した。


――お前の力とよく似た者と2年程前に戦った事がある。その者もまた聖なる武器を携えていた。


「ジャック・フォーサイズ! フェンリルと2年前に戦ったのはお前の兄ブライアンだ!」


「兄貴と……?」


 ブレアはヨウムの魔術で氷を解かされていた。

 彼なりにジャックに伝えたい事があるらしい。


「ああ……。うちの父親の馬鹿な取引の為にな。だが、フェンリルの所有はまだウチに残ったままだ。アルバートもブライアンもフェンリルとの盟約を結ぶことが出来なかったんだ」


――たかが武器ごときに、心を乗っ取られた哀れな男と盟約を結ぶはずがなかろう。


「兄貴の事を知っているのか? 一体今どこに?」


――知らぬ。


「どんな些細な事でもいい! 教えてくれないか?」


――我に命をくだしたければ、力を示せ。


 フェンリルの周囲に大きな氷の矢が出現していた。


「ヤバ!」


 ヨウムが魔術でシエル、ジャック、ブレアにバリアを張ってくれた。


「ヨウム有難う」


 徐々に魔力が戻っているが、戦闘に生かせる程ではないため、ヨウムの存在は有難かった。


――バリン!!


 ジャックとフェンリルの戦闘は既に始まっていて、フェンリルが放った氷の矢をジャックはエクスカリバーで真っ二つに切り裂いた。

 よく見ると、何故か刀身が赤い光を発している。


――ホゥ、他の神獣の力を剣に取り込んだと見える。


(エクスカリバーに神獣の力を取り込む……? そんな事が可能なの?)


 シエルは聞いた事が信じられない。聖剣の所有者になれた者はシエルが知っているだけでは、ジャックで2人目だ。その性能の研究等当然されておらず、謎に満ちている。


 ジャックを狙い、次々と放たれる氷の矢を全てエクスカリバーで溶かし切り、フェンリルが巻き起こす風をどういう原理なのか、無効化している。


(ジャックさん、魔術を使えなかったはずなのに……)


 フェンリルとの接近戦をしているジャックの身のこなしも、以前に比べ無駄がない。


 今見ているジャックの姿が、以前知っていた彼のものとあまりにも違い、戸惑う。

 

 ジャックに首筋を切り裂かれ、フェンリルから派手に血が飛び散る。

 既にシエルによって十発ほど銃弾を撃ち込まれているという事も助かってなのか、フェンリルがおされている。

 

 何度か辺りが真っ白に成る程の猛吹雪が吹き荒れ、背筋がヒヤリとするが、ジャックは白き獣の牙を折り、耳を裂く。

 30分程度経過しただろうか? ついにフェンリルは地面に崩れ落ちた。


 シエルはヨロヨロとジャックの方に近づいて行くと、傷だらけの顔でヘラリと笑いかけられた。


「俺の力でなんとかなるもんだな。というか、凄い寒さだ。やっぱり神獣は半端ないな」


 シエルは少しだけ身を縮めているその身体にギュッとしがみつく。


「うわ!? どうしたんだよ! 怖かったのか?」


「怖かったですよ! もうどこにも行かないでください!」


「……心配かけて悪かったな。ただいま」


「おかえりなさい……」


――お前ら、我の存在忘れているだろう……


 フェンリルが呆れた様に語り掛けてくる。


「まだ生きていたのか!?」


――当たり前だ。まぁお前の力はよく分かった。盟約を結んでやるよ。有難く思え。


 フェンリルがヤル気の無さそうに宣言すると、その身体は光に包まれ、ザラリと崩れた。


 エクスカリバの刀身が白く光る。

 触れたら凍りそうな冷気を発する様子で、フェンリルの力を取り込んだのが分かった。


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