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12-12

 ルパートが後方に飛び、シエルのシールドに身を隠したのと、フェンリルの身体から無数の氷の矢が放たれたのはほぼ同時だった。

 壁に、天井に、容赦なく氷は突き刺さっていく。

 激しい音を立てるそれは、とどまる事を知らない。


「水晶のエネルギーが切れる。シールドもたないよ」


「俺に任せてください」


 ルパートが、魔術でドーム型の障壁を作る。

 フェンリルの放った氷の矢は、徐々に膨張しいき、天井に亀裂を作った。壁も同じくだ。


 ミシミシという嫌な音が聞こえた後、建物の一部が崩落した。

 落ちて来る瓦礫や砂ぼこりで周囲が全く見えなくなる。


「すっごい破壊力……」


「最近の建物って強度が足りないって聞くんですけど、これは想像以上に紙ですね」


 シエルとルパートはこの状況を半ば呆れて、見つめるしかない。

 強風が巻き起こり、部屋に積みあがった瓦礫等が吹き飛ぶ。サッパリした空間に、フェンリルが悠々と座っている。


――これで自由に動けるな


 狭い空間という制約が無くなってフェンリルは、獣としての俊敏さを見せるだろう。

 シエルは嫌な汗をかきながら、魔導銃を構える。


「俺が隙を作りますから、シエル様は射程ギリギリから魔術なり、銃なりで援護してください」


「分かった。気を付けてね」


 ルパートはナイフにプラズマを纏わせ、フェンリルに切りかかる。

 白き獣はそれをヒラリヒラリと、俊敏に避ける。やはり尋常ではない反応速度だ。


 シエルは魔導銃をフェンリルの胴に撃ち込む。

 しかし銃弾はフェンリルの胴を傷つけはしない。シエルは焦りを抑え込みながら、トリガーの術式を魔術で書き換え、銃に供給させる魔力量を引き上げていく。


 5度、6度と書き換えては撃ち、7度目で漸くシエルが放った銃弾がフェンリルの身体にめり込んだ。白い毛皮にはドロリとした血が流れているのが見える。


(や、やった……!)


 自分が改良した兵器が伝説の神獣に効いた事に高揚感を覚える。だが、たった一発で抜き取られる魔力があまりにも大量だ。


(早く決着つけないと……)


 気を抜くとふらついてしまいそうな身体を何とか気合で耐え、銃弾を2発、3発、と続けて撃ち込む。


 ルパートに向けられていたフェンリルの視線がユックリとこちらを向く。


――オォォォォオオオオオン……


 フェンリルの遠吠えに合わせ、周囲が凍りついていく。

 建物も、木も、道も。大気中の水分を集め、地上のありとあらゆる物を凍らせる。


 低下する気温にシエルは震える。


(寒い……、でも撃たなきゃ……)


 寒さと魔力不足で霞む視界で、ルパートがフェンリルにより吹っ飛ばされるのが見えた。


「ルパート!!」


(嘘!? 今ので死んでないよね? 駄目だ動揺するな! 私がしっかりしないと皆死んじゃう……)


 こちらに向かって猛スピードで突進してくる白い獣に、シエルは無茶苦茶に発砲する。

 もう避ける事も出来ず、シールドも張る事も出来ない程まで接近された時、横から何かにタックルされた。


「シエルさん!」


 氷ついた道路に庇われるように転がると、フェンリルがその横を通りすぎた。


「ブ、ブレアさん……?」


「すいません。アノクソ女にだいたいの事は聞きました。俺が早いとこあの容器を、フェンリルを領地に持って行ってたらこんなことにならなかったんです!」


「一体何の話を?」


――ダグラス家の血を継ぐ者か。先程の情けない姿は流石に呆れたぞ


「フェンリル! ダグラス家との盟約を守り、領地に戻り、封印させてくれ!」


――お前の父に我は一度売られた


「それは……! 俺が謝る。だから!」


――このまま盟約を破棄し、自由の身になるのも良いと思わぬか?


 フェンリルは歯をむき出して笑い、ブレアの両足を凍らせた。


――そこで大人しく見ているがいい


「見ていられるか! くそ! この氷どうやって!」


 シエルは力の入らない身体でノロノロと立ち上がった。

 地面に転がった時に破けてしまったポシェットからポロリと青い石が転がり落ち、光を放つ。

 徐々に強くなる輝きを見ていると、どうしようもなく悲しくなった。


(ジャックさん……)


 このままジャックとは会えず、死ぬのだろう。 

 泣きそうになるのをグッとこらえ、両手に魔力を集中させる。

 自分はもう駄目だろうが、少しでも時間を稼ぎたい。

 先ほど張った障壁を強化し、フェンリルを外に出さないという条件を書き加えていく。


 これでシエルが死んでも数日は有効なはずだ。


 体内の魔力が無くなり、立っている事が出来なくなる。

 氷の地面に再び強く打ち付けられるかと思ったのに、倒れ込んだのは誰かの腕の中だった。


「シエル!」


 聞き覚えがありすぎる声に、ハッと目を瞠る。ずっと会いたかった人の姿がそこにあった。


「ジャック……さん?」


今日はこれで投稿終わりです。

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