12-9
背中の固定具から杖を取り外し、先端に明かりを灯す。
そうしているうちに、シエルの周囲に変化が起きた。ルパートが防御の魔術をかけてくれたのだ。
「暗がりで襲い掛かられたら、充分にお守りする事は出来ませんから」
「有難う」
シエルとルパートが建物の中に入ると、暗いエントランスの中、1点だけ明かりが見える。どうやらすぐ隣にガラスで隔てられた小部屋があり、そこにエレイン達一行は入ったようだ。
エレインの侍女が持つ光は複数のガラスに反射している様に見える。内部は特殊な物が置かれているんだろうか?
シエルも用心深くそこに向かう。
部屋の入口で止まり、内部を明かりで照らす。
そこには不思議な光景が広がっていた。
床から天井に届く程巨大な円筒形のガラスの容器。
その内部にはコイル状の金属が入っているようだ。
容器の中に明かりを向けると、モヤモヤとした粒子が見えた。
(何これ……)
その粒子を見ていると何故か不安になり、目を反らした。
ここに有ってはいけない物の様に思えるのだ。だが、国が管理する物に対してアレコレ思ってもしょうがないだろうと、シエルは思考と切り替えた。
(っていうか、この部屋当然ブライアンさんいないよね?)
部屋の四隅等に光を向けてみるものの、それらしき人物は見当たらない。
「このガラス容器、『地獄の門』の召喚の儀で見た事があります。もっとも以前見た物の何倍も大きいのですが」
ルパートが言っているのは、パラサイト隕石を利用した召喚の儀の事だろうか?
(でも何でこんな時に見せる必要があるの?)
シエルは流石にウンザリとしてくる。
「エレインさん、ブライアンさんはどこです? 寄り道はやめていただきます?」
「あら? わたくしちゃんと案内しましたわ。何を隠そう。このガラスケースに入っているのがブライアンなのです」
「は……? 何言って……」
シエルは改めて円筒形の容器を見た。粒子の揺らめぎがシエルの恐怖を煽る。
(人間を、分解したの……? 嘘でしょ……。それって殺人って事じゃ……)
混乱しそうになる頭に必死で喝を入れる。
(でも…‥でもこの粒子は本当にブライアンさんなの?)
そもそもの事に気付き、シエルはルパートに目を向けた。
「ルパート、ここに入ってる中身について、聞き覚えは?」
「俺が秘密結社に潜入したのは一年程前ですけど、そこからの調査では科学省にコレがあるという情報は入ってきてません」
潜入調査していたルパートなら知っているかと聞いてみたが、宛てがハズレてしまった。
「ラムジー君が知ってるわけないわ。この事を知るのはわたくしの他はお父様とアルバート様くらいだもの。まぁそんな事どうでもいいのですけど、ブライアンを目覚めさせる時にちょっとした魔術が必要になりますの。アルバート様は魔術はシエル様が行うと言っておりましたけど、それでいいのですわよね?」
確かにアルバートと話した時、魔術が必要になるという事は言っていたかもしれない。
てっきりロンゴミニアドに乗っ取られた意識を引き上げる事に魔術を必要とするのかと思ったが、そういう事ではないようだ。
恐らくこの粒子の主を再形成しろという事なのだろう。
本当にこの存在がブライアンであるなら問題はないが……。
シエルはエレインに笑いかけた。
「エレインさん、術式を事前に見せていただけます?」
一般的な魔術師と違い、シエルは魔術式に書かれている事から、何が起こすものかだいたい読み取れる。アルマからの英才教育の賜物なのだ。




