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30m程近づくと、エレインと思しき人影が扇子を広げ、扇ぎだした。
いい態度である。
「御機嫌ようシエル様、ブレア様」
「御機嫌ようエレインさん」
近付いてみると、エレインと侍女、屈強なが男2名いるようだった。
「この男性達は?」
「女だけで夜間歩くのは危険ですので、護衛なのですわ」
「そうなのですか。うちのルパートが優秀なので、不要だと思います」
「貴女を案内した帰りにわたくしの身が危険に晒されるでしょう?」
「まぁ、それもそうですが」
なんだか釈然としないが、後で女2人で帰らせて何か起こっても責任が取れないため、強く言えない。
「案内しますから付いて来てくださいな」
エレインは口元を扇子で隠し、歩き出す。
先頭がエレインでその次にシエル、後ろからルパートとブレア、他の者達が続く。
エレインはスタスタと広場を抜け、アースラメント宮殿方向に向かう。博物館を指定されたため、てっきりブライアンはそこに居るものだと思っていたのだが、そうではないらしい。
「どこに向かってます」
「ブライアンの所ですわよ」
エレインは聞いた事にストレートに答えない。その事にシエルは眉根を寄せた。
「それは分かってます。どの建物に向かっているか教えてほしいんです」
「ウフフ、直ぐに分かりますわ」
彼女は教える気がないのだ。
「ブライアンとは社交クラブで知り合ったの。彼の紹介でジャックと付き合う事になったのよ」
(む……)
エレインが無理矢理話を反らそうとしているのに気づき、シエルは嫌な顔をする。
その様子を嫉妬していると勘違いしたのか、エレインは嫣然と笑った。
「ジャックの事は何でもブライアンから教えてもらったわ。付き合って知った事もある。貴女が知らない彼の姿もあるのよ」
「マウント取らないと死ぬ病気です?」
エレインの面倒な絡みに呆れ、睨み上げると舌打ちされる。
シエルの大人しそうな見た目から、反撃しないだろうと予想でもしてたんだろうか?
様々な庁舎が立ち並ぶ通りに入ると、後方から突然「うっ……」という呻き声が聞こえ、シエルは振り返った。
ブレアがグラリと倒れるのが見え、慌てて走り寄ろうとした。
だがエレインに腕を掴まれ、阻まれる。
「エレインさん!?」
「侍女に麻酔を打たせてもらいましたわ」
「麻酔!?」
エレインの言葉をうなづけるかのように、女は注射器を持っていた。
(ブレアさんに仕掛けていくなんて!)
「シエル様を離してもらえます?」
ルパートはブレアの方ではなく、シエルの身を守る為い動いた。エレインの首ギリギリにナイフを寸止めしていた。
「わたくしを殺したら、ブレア様を殺させるわ」
エレインが連れて来た男達は、地面に倒れたブレアの頭に銃を突き付けている。
早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと、シエルはコートの上から銃を触る。
(男達を銃で撃つ? でも私が3人撃つよりも向うがブレアさん1人を撃ち殺す方が確実に早いよね……。というか、ブレアさんに打たれたのは麻酔なの? 既に死んでる何てことは……?)




