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12-4

 アリシアとハロルドは、ジャックのいる丘と逆方向へと歩いて行く。

 城からは後から魔術師達が数人出てきて、そんな2人を追い越して行った。

 切迫した状態の様だ。


 篝火の光が2人の向かう方向に複数見える。

 陽の光の下では意識しなかった火が、夜の帳が降り始めた事でその存在を主張していた。


 ジャックの今いる丘の上からはそれらは綺麗に6つ円形に並べられている。

 距離があるので判断しづらいが、円の直径は1km程あるだろうか?


(あの円……中心部には何かあるのか?)


 ジャックは目を凝らして見ようとするが、ハッキリしない。


「オイ! シノビコムゾ!」


 パンを食べ終わったヨウムは羽で城を指している。


「は?」


「カエル!」


 ヨウムは元の世界に帰ろうと言いたいらしい。

 確かにそうすべきなのは分かる。でもジャックはこの天災の顛末を見届けたかった。


(この事は、後世に伝えられてない。だから俺がここで起こる事を情報として持ち帰る事は意味ある事じゃないか? 未来でこれほどの事態にならないように)


 アリシアとハロルドの後を追う事は、命の危険に晒す事になるかもしれないが、ジャックはその事を頭から振り払い、丘を駆け下りる。


「ジャック!」


「悪い! 行かせてくれ!」


 2人が歩いて行った方向にジャックは全力で走る。地面の揺れが続き、時折バランスを崩して転びそうになる。


(走りづれぇ!)


 膝に手を当て、呼吸を整えていると、身体は白い光に包まれる。


(あれ? 揺れなくなった)


「シャーナシヤゾ!」


 頭上から舞い降りたヨウムがジャックの頭をゲシゲシと蹴る。

 彼が魔術で防御してくれたという事なのだろう。


「いつも有難うな!」


 揺れに酔いかけていたのだが、足元が安定した事で気分が落ち着き、ジャックは再びアリシアとハロルドを追いかける。


 小路の角を曲がると2人の姿が見え、ジャックは慌てて倒れた柱の影に身をひそめる。


「――だからアタシが!」


「くどいぞ」


「コーネリアを逃がしたのはアタシだ! 責任を取れと言ったのは兄さんじゃないか! だからこの日まで心の準備を――」


「貴様の命を捧げろという意味で言ったんじゃない」


「じゃあ兄さんも命をかける必要なんてないだろ!? お願いだから考え直してくれ。昔からの術に変更して! 100年もてばいいだろ!」


「これ程の状態になって、以前の弱い術で済むと思うか? 命令だ。俺と他11人の命を使って、新たな術を実行しろ」



(え……? 今とんでも無い事言わなかったか? 自分の……魔術師の命で再封印を?)


 衝撃的な言葉を発したハロルドの背をジャックは物影から凝視した。


「兄さんに置いて行かれたらアタシ……。お願い。1人にしないで……」


「お前の泣き言はもう聞き飽きた。そんな事でどうする? これから貴様が国王として国を治めなければならないというのに」


「でも! ……離して!」


 何かを引き摺る様な音と共に、2人の声が遠ざかる。ハロルドはアリシアを力づくで連れて行く事にしたのだろう。


(以前、アースラメントに組しなかった魔術師達を捕らえていたのは、この時の為だったって事か?)


 寒気のする様な魔術がこれから行われようとしている。

 恐らくそれが、ハロルドの考えた封印の為の魔術だ。

 

(12人の命を犠牲に、アストロブレームを建て直すという事か)



 自らの命を差し出す事すら厭わないハロルドの合理的思考にジャックは心中穏やかではない。

 この術がこの場限りで絶えないだろうと想像するからだ。

 

(今からやろうとしている術って、アースラメント家でずっと継承されていくのか……?)



 ジャックは姿を消すのも忘れ、篝火に近寄った。


 篝火の傍には小柄な男が1人で立っている。

 彼はジャックを振り返り、馬鹿にしたような笑いを浮かべた。


「隠れてなくてもいいのか?」


「アリシアは……?」


「アイツを強制的に術を実行するように操る」


 ハロルドが向く方を見ると、アリシアが怯える様な表情でこちらを凝視していた。

 透明な何かに阻まれているのだろうか? 彼女は何もない所を叩いている。

 


「アリシアは大丈夫なのか?」


「他人の心配より自分の心配でもしたらどうだ? 俺はまだ貴様を生かしておくとは言ってないぞ?」


――ドゴォォオオオオオオオ!!


 すぐ近くから発せられた激しい轟音と共に、一瞬にして辺りは砂ぼこりに包まれた。

 

 耳をつんざくような咆哮が響き渡る。

 呆気にとられるジャックはさらに、巨大な鞭の様な物が凄まじい速度で振り回されるのを目撃する。



「あれは、尻尾か!? てことは、……神獣!?」



「なんつータイミングで。お前にとっては運がいいかもなぁ?」


 辺りに立ち込める砂ぼこりで、神獣の姿がよく見えない。だが神獣の威圧感をジャックは肌で感じ取れた。


(これは……、この存在感は……!?)


「まぁいい。見せてやるよ、今世紀最高の魔術をな!」

 

 ハロルドの姿は黒い靄に包まれ、足元に複雑な古代文字が不気味に浮かび上がった。



◇◆◇


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