12-3
「メテオ?」
「ああ。アイツは人類に憎しみを抱いている。大昔に禁忌を犯した人物がいたからね。封印を施されてはいるけど、強力な力を恒久的に封じ込める事は出来てない。およそ100年周期で目覚めてしまう。今がその目覚めの時なんだ」
「100年……? そんなに間隔が短いのか」
今のアストロブレームの様子を見ると、アリシアの話は本当なのだろうが、元の時代ではそこまでの災厄が頻繁に起こっているとは聞いた事が無かった。
「兄さんは封印が解けるまでの期間を延ばす為に新たな魔術を考案し、再封印の準備をしてきていたんだ。だけどアタシがコーネリアを逃したから、予定通りに実施できなくて、結果この有様になっちまってる」
「その魔術って、コーネリアさんに関係ある事なのか?」
「……絶対に彼女じゃなきゃいけないってわけじゃないよ」
そう言った後アリシアは唇を噛んだ。
「そうなのか……、俺は魔術に詳しくないから。なんとも言えないけど」
「だろうね! さぁ行くよ!」
空元気だと丸わかりの笑顔でアリシアは馬に跨り、駆けて行く。ジャックはその様子に肩を竦めながらも馬で追いかけた。
時折揺れる地面に、馬は頻繁に立ち止まる。
そのたびに宥めなければならず、大した距離でもない様なのに、アースラメント城を見下ろせる丘までかなりの時間を要した。
空を不気味な程赤く染める太陽は、山影に沈もうとしている。
夕日に照らされたアースラメント城は、立ち寄った村で聞いた通り、無事で、崩れそうな様子はない。
「城の周辺には強力な結界が張られているから、地震の影響はないよ」
アリシアはジャックの思考を読んだかの様に説明してくれる。
「そこまで守りを固めているという事は、アストロブレームに残っている兵士達の大半がこの城を拠点にしてるって事か?」
「そうなるね。アンタも体験した様に、こう揺れが頻繁に続くとノンビリ寝る事も出来ないから、集まった方がいいだろうという判断さ」
「ハラヘッタ」
空気を読まないヨウムが駄々をこねだした。
移動の間ずっとジャックの肩で船を漕いでいたヨウムは、城付近についてようやく目を覚ましたのだ。
そんなヨウムの姿を見てアリシアはクスリと笑った。
「アンタ達はここで飯でも食ってなよ。アタシは城の様子を確認しに行ってくるからさ」
「アリシアは何も食べなくていいのか?」
「最近食欲無くってねー。じゃあ行ってくるよ」
アリシアは軽く手を振り、城に歩いて行った。
その姿が何と無く気の毒に思えてくる。
アリシアはきっとコーネリアを逃した事に責任を感じているのだ。
友情を優先した結果、住民の生活基盤が失われた。アリシアの苦しい胸の内は想像に難くない。
(ハロルド・アースラメントはどうやってこの事態を治める気なんだろうな)
先日殺されかけたにも関わらず、ジャックはハロルド・アースラメントという人物に悪感情を抱いていない。幼少期に歴史の授業で教わった彼は、英雄に近い存在で、少年たちの憧れの存在だった。勿論ジャックも昔は好きな歴史上の人物を5人挙げろと言われたら、名前を出してたくらいの人物なのだ。
それだけに自然期待してしまう。
(アリシアを助けてやってくれよ)
魔術に疎い自分では封印に関して助けになれないので、他力本願にならざるを得ない。多少の力を得ても、解決できない事もあるのが歯がゆくて溜息が出た。
「オイ! メシ!」
ボンヤリと突っ立っていたジャックは、ヨウムに頭を突かれてノロノロと荷物を下ろした。
「そんな小さい身体なのに、よく食うよな」
「アタマ イッパイ ツカッテル カラネー」
「ずっと寝てるくせによく言う」
革袋からパンを取り出し、千切ってヨウムの嘴に運ぶ。
「ウマウマ」
満足そうなヨウムを眺めながら再び今後の事を考える。
(このまま帰って、俺は後悔しないかな?)
何度も考えた事を再び考える。ここに居ても役に立たないであろう事は百も承知なのだが……。
――オォォォォォオオオオオオオオオオオ!!
「……っ!」
一層大きく咆哮が聞こえると共に、未だかつて経験した事が無いくらい激しく地面が揺れる。
「ヤバ!」
ヨウムは大きく羽ばたき、白い光を生み出す。光は半球形に膨らみ、ジャックをスッポリと覆った。揺れが感じられなくなる。
「有難う」
空に羽ばたけばいいだけのヨウムが魔術を使ってくれたのは、ジャックを守る為に他ならない。
(それにしてもこの揺れ……、神獣の封印はまだ大丈夫なのか?)
周囲で激しく揺れ、倒れた木を見ると、揺れはかなり長い。
「…兄さ……っ!」
「アリ……いい加減に……!」
城の方から言い争うような声が聞こえてくる。
(この声、アリシアのか? もう1人も聞き覚えあるな)
城の入り口から姿を現したのは、アリシアとハロルドだった。ジャックは慌てて近くの岩陰に隠れる。




