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12-2

 避難所となっていた村から馬で3時間程走ると、アストロブレームと取り囲む城壁に到着した。


「そこの者! 止まれ!」


 門番をしていた兵士達はジャックの姿を確認すると槍を構え、威嚇してきた。

 ジャックは馬を降り、肩の上にヨウムを乗せたまま、兵士達に手を上げて見せた。


「怪しい者ではありません。ローズウォールで駐在してたんですけど、アリシア・アースラメント様に伝言を授かり、参りました」


 ジャックは念のために自らの目立つオレンジの髪を染料でこげ茶にしていたが、兵士は疑う様な視線を解かない。


「最近は災害に乗じた不審者の侵入が後を絶たない。アースラメントの者とするなら何か証拠を……」


「あー! ジャック! ジャーーク!」


 自分の名前を大声で呼ぶ女性の声がどこからか聞こえ、ジャックは慌てた。


「ウエ!」


 ヨウムの声に促され、上空に目をやると、城壁に隣接して設置された見張り台の上に、長い金髪の女が立っていた。溌剌とした笑顔で手をふるのはアリシアだった。


「アリシアさん! 俺の名前……!」


 こんな所で本名をバラされたらヤバいんじゃないかと焦る。

 

(でも捕まってた時に名前を明かしてないから、大丈夫か?)


「お前達、そこの男通してあげてー!!」


「仰せのままに」


 まさに鶴の一声。

 あっさりと開けられた城壁の門を、ジャックはため息を尽きつつ抜けた。


 城壁を抜けるとアースラメントの荒廃した様子が目に入る。倒壊した家屋や木々、歪に変形した大地。

 周囲には住民は見えず、兵士達しかいないようだった。


(これは……、再び住めるようになるにはもう何年間かかるんだ……?)


 アストロブレームが過去これほどまでに壊滅していた事に愕然としながら見回した。


「お疲れジャック、ヨウム。コーネリアはどうなった?」


 アリシアは見張り台を降り、ジャックの肩を軽く叩いた。


 自分が叩かれると思ったのか、ヨウムは羽ばたいて、ジャックの頭の上に移動した。

 爪が頭皮に食い込む。


「久しぶり。コーネリアさんは父上とハーディングさんの3人で一度国外に逃れるらしい」


「そうか。護衛してくれて有難う。あんたはどうだ? 何か収穫有ったのか?」


「……そうだな。エクスカリバーから新たな力を引き出せるようになったみたいだ」


 人の力を超えた何らかの作用ですさまじい衝撃派を生み出す事が出来た。

 力を欲していたジャックとしてはなかなか嬉しい変化だった。


「良かったじゃないか。あんたなら出来るって思ってたよ!」


「どーも! アリシアさんは? 避難地になってた村で、ハロルドさんから呼び出しを食らったって聞いたけど、俺達を逃がした事で何か咎められたのか?」


「あ~、別に気にしなくていい。補強する必要があった魔術の為に、頭数として呼ばれただけさ」


 本当にそれだけか? と思いはするが、アリシアは魔術師で、何等かの危害を加えられたとしても治癒出来てしまう。本人に誤魔化されたならもう何も気づけない。

 何と言っていいかと頭を悩ませながら、先導するアリシアについて行く。


 彼女は近くの木に繋がれた馬に鞍を乗せる。どこか遠くに連れて行く気なのだろう。


「どこに向かおうとしてる?」


「あんたを元の時代に戻してあげる。夜にアースラメント城に忍び込むよ」


「あ、ああ。それは助かるけど……」


「今は危険な状況なんだ。あんたは巻き込まれて死ぬべきじゃない」


 そう言ったアリシアの顔に一瞬強い疲労感や焦燥感が浮かんだ。


 そんな顔をされると、やはり状況が気になってくる。

 

「なぁ、大丈夫なのか? これって単なる地震じゃない気が……。聞く話によれば、アースラメントに恨みを持つ魔術師達が引き起こしてるとか」


「ただの天災じゃないのは確かだね……」


――オォォォォオオオオオオオオオン


 獣の遠吠えか何かだろうか?

 地鳴りにも似た音が遠くから聞こえる。

 強大な力に、本能が警鐘を鳴らすかのように、鳥肌が立つ。


「これは……?」


「地震を発生させてる奴だよ」


 アリシアは普段の明るさを消し、怖い様な顔で彼方を見つめる。



――ビシ……ビシッ……


 鳴き声が止むと、近くから何かが軋む様な音が聞こえた。


「はぁ……、嫌になるね。アストロブレームの最終結界がそろそろ破られちまう」


「以前この城壁に結界が張られてるっていってたか?」


「ああ……、ここを街にする時に、古からの結界を利用したんだけど、これは外からの魔獣の侵入と、内の神獣を封じる2重の意味を持つ物だった。内側にもっと結界が張り巡らされてたんだけど、今は全部破られて……、ここしか残ってないんだ。これが破られたら、アイツが地上に出現し、外から魔獣が入って来る。そうなったら終わりだよ」


 背筋が寒くなるような状況の様だった。あまりに紙一重。

 アリシアが勝手な行動を繰り返したにも関わらず、自由に歩き回ってるのは、アストロブレームの状況が切迫し、それどころじゃないからなのだろう。


「さっきの鳴き声は神獣の物だったのか」


 ジャックはローズウォールで遭遇したタローンを思い出した。


「俺のエクスカリバーでなんとかなるかもしれない。ローズウォールで神獣を一体倒してる」


 この時代の災厄を倒した後から帰る方が、絶対に後味はいいはずだ。この時代で知り合った人達の為にも……。


 ジャックはそういう思いで口にしたが、アリシアに慢心を感じ取られてしまったのだろうか?

 アリシアに厳しい目を向けられた。


「大人しく元の時代に帰った方がいい。ローズウォールの神獣についてはアタシも聞いた事があるけど、ここに居るのは比べ物にならない。とにかく最後の結界を破られたら、メテオを降とされ、あたし達全員あの世行きだよ」




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