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2-6

 シエルとジャックは9時を少し過ぎたくらいの時刻に玄関のポーチの下で会い、ちょうど市長の邸宅に現れたルパートに自動車でメインストリートにある大聖堂前まで送ってもらった。


 ローズウォール市は、駅を境にして新市街と旧市街が分かれていて、そのちょうど中間に位置するメインストリートはショップが立ち並び、休日や夕方になると買い物客でごった返す。

 大聖堂はメインストリートの西端の立地にあるから、東に向かって進んで行く予定だ。



「まだ若いのに結婚相手が決まってるって窮屈そうだな」


「何の事ですか?」


 2人で大聖堂の前に集まる鳩を蹴り飛ばさないように歩き出すと、ジャックは不思議な事を言い始めた。


「さっきの市長の息子と結婚するんだろ?」


「し、しませんよ!オリバーが勝手に言ってるだけです」


「へぇ?」


「私の場合はちょっと特殊な家庭の事情があるので……。というか、それがなくてもオリバーと結婚するくらいなら孤独死を選びます!」


 先程のやりとりを思い出して、イライラがぶり返してきそうだ。


「オリバー少年とのやり取りを聞いてる感じだと、割と相性良さそうなのにな」


「ぜんっぜん良くないです!」


 あんなに酷い暴言を吐かれたのに、相性がいいとはどういう事なのかと、シエルは腹が立ってしまう。たぶんジャックの感性がズレているのだとシエルは思うことにした。


 石畳を歩いていくと、ちょっとした広場が見えてくる。

 広場の中央には大きな銅像が立っている。


「うわ……、あいつ……」


 ジャックはゲンナリした様子だ。

 銅像は大剣を携えた人物をかたどっている。


「あー古代王ですか」


 良く見ると人物は全然似てない銅像なのだが、大剣は精緻に模されていた。


「古代王って女性不信だったのか?」


「伝説が正しいなら女性不信になってもおかしくないかもしれないですね。何でそう思うんですか?」


 昨日戦闘した相手の銅像を見て、まず気になった点がそこなのかと、シエルは内心首を傾げた。


「あいつ、俺と女性不信という点で共感したから呼んだらしいんだ」


「むむ……、ジャックさんて女性不信なんですね意外です」


 長身で顔立ちが整っていて、しかも貴族なら恋愛相手に困る事など無さそうなのでちょっと意外だった。


「まぁ、色々有ってな……」


 ジャックはサッとシエルから視線を外した。

 ちょっと気になってしまうが、シエルは深く聞かない事にした。大人になると面倒ごとがあるのかもしれない。


「古代王は、忠臣に王妃を奪われちゃったんですよ。そしてそれを機会に戦争が起こり、古代王はその時に負った傷で瀕死になって、その後消息が途絶えたみたいですね」


「え、体臭が臭いと言われたわけじゃないのか」


「体臭?」


「あー、いや何でもない忘れてくれ」


 匂いで思い出したが、今日はジャックは昨日の香水をつけていない。

 市長の家でシャワーを借りたのか、石鹸の香りがしているので近くを歩いても苦痛がなく好ましい。


「結局権力とか名誉とか金とか、そういうのだけじゃ心は繋ぎとめられないって事なんだろうな」


「そうかもしれないですね」


 古代王の伝説によれば、王妃と忠臣は初めて二人が会った瞬間恋に落ちてしまったそうだ。運命というものだろうか?

 自分もそういう恋が出来たら!と憧れるが、逆に、将来の夫に浮気される場合を考えると、心を繋ぎ止める何かが自分には何かあるのかと考えてしまう。



 二人とも無言になり、気まずくなったので、古代王の銅像を離れメインストリートを進む事にした。

 シエルが足の歩幅が違うジャックに苦痛もなく並んで歩けるのは、ジャックが気を遣って歩いてくれているからだ。

 若い男性に追い抜かれた事でシエルはそれに気づけた。


(ジャックさんの優しさが、昨日エクスカリバーにも伝わったのかな……?)




「シエル」


「何ですか?」


「昨日は有難う。自分一人だったらたぶんみっともなく死んでた」


「私は大した事はしてないですよ。ジャックさんの心の強さが、エクスカリバーに通じたから、マスターになれたんです」


「そんな事ない。あの時、シエルがいたから、剣を最後まで抜こうという気力が湧いてきたんだ」




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