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11-10

「ブライアンさんとほんの少しだけでも会話したいです」


 ここで話を打ち切られては困るため、シエルは食い下がった。


「うーん、厳しいかもね」


「でも……」


 無理なんだろうか? 完全には意識を乗っ取られていないなら、会話できる余地があるのではないだろうか?

 会っても無駄かもしれないのに希望を捨てられない。


 どんな話を持ち掛けたらアルバートは首を振るのか、シエルは考えを巡らす。


(アルバート王子は何でも持っている人だから、うまい話をぶら下げてもあまり意味がなさそうだよね、一体どうしたら……)


 悩むシエルの耳に、アルバートの苦笑するような声が聞こえた。


「ブライアンがどういう状態でも会いたい? 覚悟出来る?」



 アルバートは困ったように微笑んでいた。



「覚悟はとっくにしています! 会わせてください」


「いいよ、会わせてあげても。ただし、君の魔力を貸してもらう事になるかな」


 アルバートの了解を得た事が、意外すぎる。

 でも疑うよりまず、喜びが沸き上がり、シエルは何度もうなずいた。


「勿論、私の魔力を使う事は問題ありません! 有難うございます!」


「アハハ、シエルちゃんてちょっと……、いや、何でもない。明日の夜8時に博物館前の広場に来てもらえるかな? エレインを迎えにやるから」


「分かりました。有難うございます」


 アルバートは話しは終わりとばかりに立ち上がる。


(何て言おうとしたんだろ?)


 アルバートが言いかけた言葉が気になりはするが、彼はさっさとレンディング伯爵の元まで歩いて行ってしまい、聞けずじまいになってしまった。


 アルバートへの違和感やブライアンとの会話に対して不安はあるものの、ジャックを救う光が見えた様な気がして、シエルの胸は少しだけ軽くなった。


(うまく行くといいな。ブライアンさんの事はちょっと心配だからルパートにもついて来てもらおう。ていうか、エレインさんも同行するのか……はぁ……)


 シエルは明日の事を悩みながら、アルバートとレンディング伯爵と共にホールに戻った。


「シエルさん!」


 ホールの扉を開けると、ブレアが心配顔で駆け寄って来た。その後方にはエレインもいる。



「アルバートに何もされませんでしたか?」


「何もされてないです。むしろユックリお話出来て良かったです」


 シエルはブレアを安心させるためにニコリと微笑んだ。


「シエルちゃん、エレインに話をしておくよ」


「はい。エレインさん、明日宜しくお願いします」


 アルバートとシエルの話を当然聞いていないエレインは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。


「宜しくってどういう事?」


「まぁ僕がユックリ説明してあげるから」


「はぁ……」


 アルバートは、不思議そうな表情を浮かべるエレインを伴って、ホールの奥に戻って行った。

 2人の姿が他の貴族達によって見えなくなり、レンディング伯爵も別の来客の対応の為に離れて行く。ブレアと2人になってようやくシエルの緊張は解けた。


「どういう話をしていたんですか?」


「ブライアンさんと明日会わせてもらえそうです」


「え!? 何か要求されませんでした?」


「いえ、何も」


「そんなアッサリ会わせるなんて、胡散臭いな」


「そうですかね……」


 アルバートと直接話してみた感じだと、それほど悪い人だと思わなかった。

 むしろ、死んだ妹の事を今でも弔う様な温かい人の様だった。

 だけど、秘密結社を通して行った数々の行為は、許されるものではないはずだ。

 心の準備もなく聞いた話は、シエルの中でどの様に考え、他に働きかけていいのかすぐに分類する事が出来ていない。だからその一つ一つの意味を良く考えたい。


 目の前でワルツを踊る男女の姿を考え事をしながら見ていると、何となく白けてしまう。


(ここに居てももうやる事はなさそう)


「今日はもう帰りませんか? 少し疲れました」


「シエルさんは今日が夜会のデビューでしたよね。他の貴族と会話したり、踊ったりしなくてもいいんですか?」


「それはまた日を改めようと思います。そもそも踊りは下手ですし、それに私……」


 初めて参加した夜会が味気ない物に感じられたのは、踊りたい人がここにはいなかったからだ。でもそんな事をエスコートしてくれた人に言えるわけがない。




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