11-7
「も、申し訳ありません……。主催者としてこの場を治めさせていただきました」
レンディング伯爵は可哀そうな程の青ざめ、アルバートに頭頂部を見せながら謝罪する。
「クス……いいんだよ。君は自分の役割を果たしただけなんだから」
アルバートは完璧な笑顔で配下に応じている。こちらの様子を伺っていた貴族達は安心したように散っていく。
もうこちらに過剰に興味を示す者がいない事を確認し、シエルはアルバートを見据えた。
「アルバート王子、少しお話したいのですが、宜しいですか?」
アルバートはシエルに嬉しそうに笑いかけた。
「勿論、大歓迎だよ。僕も君とユックリ話したいと思ってたとこなんだ」
その手放しで喜ぶ様子に面食らいながらも、シエルはぎこちなくアルバートに笑い返した。
「レンディング伯爵、僕とシエルちゃんが話せるように席を用意してもらえるかな?」
「で、では我が家のドローイングルームに案内いたしましょう」
レンディング伯爵の案内にこの場にいる4人が付いて行こうとするが、アルバートが何故か立ち止まった。
「ブレア、エレインとここに残ってくれないかな。僕はシエルちゃんと親族同士水入らずに話したいんだよね」
(え……?)
「2人きりにはさせられない。俺も行く」
アルバートと2人で会話する事は流石に抵抗があるため、ブレアの言葉にシエルも頷く。
「シエルちゃん、僕と2人きりになるのは怖いかな? 僕は魔術も使えないし、銃も所持してないんだけどな」
アルバートは悲し気にシエルを見つめる。
確かに彼は魔術が使えない。それに今回は不意打ちの様に押しかけてきている。
だから事前に暗殺を行う為の計画等立てられるはずもない。
普通に考えてシエルに危害を加える事は出来ないのだ。
そんな人物を過剰に警戒する事は、自分が臆病であると言ってしまうような気がして、シエルは唇を噛んだ。
「シエルさん、無理しなくていい」
「いえ、大丈夫です。2人で話せます。ブレアさんはエレインさんとダンスを楽しんでいてください」
シエルは戸惑いの表情を見せるブレアに微笑んだ。
「……そうですか。貴女とアルバートは親戚同士だ。俺が心配する事もないのかもしれませんね。ちなみにエレイン嬢と踊る事はあり得ませんので」
「こっちから願い下げよ!」
心配そうなブレアと鬼のような形相のエレインに見送られながら、シエルはアルバートとレンディング伯爵の後を付いて行く。
ホールを出てすぐ隣の部屋がドローイングルームだった。
レンディング伯爵が両開きの扉を開くと、室内は暖かなオレンジの光が灯され、本来であれば親密な者達が歓談するのに相応しくしつらえられている。
「レンディング伯爵は、入口付近にいてくれるかな? 僕とシエルの会話に入らなくていい」
「左様でございますか」
もしかしてレンディング伯爵も同席するのでは? と思っていたが、そうではないようで、本当に2人きりで話す事になった。
シエルはアルバートが腰を下ろしたソファの対角に位置するソファに座りながら、アルバートの様子を観察した。
彼の瞳はすぐ傍の照明の光を受け、トロリとした琥珀色に輝く。
遊び慣れた様な容姿とも相まって、田舎出身の女子が直視しがたい雰囲気を醸し出している。
シエルはなんとなく自分のドレスの胸元が気になって、引っ張り上げた。
「で? 僕に話って何かな?」
「バーデッド子爵家の事です」
「はは、そこくるのね」
何がおかしいのか、アルバートは破顔した。
「ブライアン・フォーサイズ氏の事、ご存知ですか?」
「彼の事は良く知っているよ。パブリックスクールで僕と彼は友達だったんだ。いや、今でもかな」
「今でも、ですか……」
アルバートは自らの失言に気付いていないようだ。それとも隠そうという考えすらないのだろうか。
「アルバート王子、貴方は現在もブライアンさんと交友をもたれているとおっしゃいましたね。それは一体――」
「――君はブライアンが失踪中だという事は知っているんだよね?」
明日の1時までの間にもう1、2話投稿すると思います。




