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11-3

「バーデッド子爵家の長男……」


 シエルはジャックと数日前に寺院で交わした会話を思い出した。


(ジャックさんのお兄さん、ブライアンという名前なんだ……。でもその人って確か――)


「私の記憶が正しければ、その方は失踪されてますよね」


 狭い貴族の社交界において、青年が一人いなくなったとあれば、そればりの騒ぎになったはずだ。シエルよりも長く王都に住んでいるブレアが知らないとは思えない。


「まぁ表向きはそうなっていますが、俺の勘では案外近くにいる様な気がするんです」


「はぁ……、勘……ですか」


 微妙に会話しずらいブレアの言葉に相槌を打ちながら、シエルはブレアの意図を考える。

 ブレアはブライアンにはジャックと同様の力を持つだろうと考えているのかもしれない。その力があれば、博物館の移転装置を起動させる事が出来る……という感じだろうか?

 でも本当にブライアンはその力を持っているのだろうか? それに近場にいると主張するブレアは何の根拠を持ってそう言っているのかもピンとこない。


「おそらくブライアンはアルバート王子の監視下に置かれていると推測しています。昨日、俺のクソ親父と話していたんですけど、王子はブライアンに強く執着しているみたいなんです」


「執着……、王子は男色なんですか?」


「は!?」


 シエルが思いついたまま言葉にすると、ブレアの顔は真っ赤に染まった。


「清楚な見た目の女の子なのに、そんなおぞましい事言わないで下さい! 俺の夢を壊さないでください!」


「あ、はい。ごめんなさい……」


 ブレアの勢いに負けて謝ったものの、シエルを非常にピュアな存在に思っているようで、落ち着かなくなってくる。


(この人のイメージ通りに振る舞えって事? なんだかな~)


 ブレアはルパートが半笑いで出した紅茶をグイッと飲み干し、手で顔を扇いだ。

 「シエルさんて腐ってるのか?」などと独り言が聞こえてくるが、無視して話を続ける事にした。


「ブライアンさんがアルバート王子に監禁されているとしたら、解放してあげたいようには思います。ですが、ジャックさんの件で協力してもらうという、先程のブレアさんのお話は少し疑問に感じます」


「確かに、シエル様のおっしゃる通り、ジャック氏と同様のタイプの力を持つのか疑問ではありますね」


 ルパートも会話に加わる気になったのか、お茶を出した後もその場にとどまった。


「まぁ、疑問に思うのも尤もでしょうね。ホープレスプラトゥ鉱山で科学実験をしたあの日の事を、先日お話した魔術師に聞く事が出来ました。その魔術師は魔術が失敗したにも関わらず、鉱山から俺の家の領地に移転していたみたいです。俺はあの実験に、ブライアンが介入したように思えて仕方がない。当日姿が見えなかったとはいえ、あの鉱山の管理者はブライアンだったわけですからね」


「少しだけ、飛躍して考えてるような気がします」


 シエルが口を挟むと、ブレアは頷いて見せた。


「以前の俺だったら、このようには考えなかったと思います。でもジャックさんの身の上に起こった事を聞き、ブライアンさんも同様の超常現象を起こすポテンシャルを持っているんじゃないかと思えてならないんです」


 シエルはホープレスプラトゥの科学実験については、結果として魔獣がはびこる地になったという事実くらいの情報しか持ってない。

 少ない情報で頭をひねり、ブレアの思考に近づける努力をする。


「ブライアンさんがワームホールを開け、魔術師と共に吸い込まれ、戻って来たポイントがノースフォール公爵領だった……という感じなんでしょうか?」


 ワームホールを開けた先が悪く、魔獣がこちらに大量に流れ込んだという感じだろうか?


「シエルさんの考えは、俺がイメージした事に近いです」


 ジャックと同様の力を持っているなら、確かに可能なのかもしれない。


(でもなぁ、うーん……)


 ここで、アレコレ考えるよりも、ブライアン本人に聞く事が大事だろう。


 もし本当に強力してもらえるなら、助かる事には違いないのだ。


「ブライアンさんに会います。アルバート王子に行方を聞いてみないとですね」


 オークション会場で一度あったアルバートは正直苦手なタイプではあったが、彼と話さないわけにはいかないだろう。


「俺も立ち会いますよ」


「有難うございます。一人で行くより心強いです」


 シエルの言い方が悪かったのか、ブレアは微妙な表情になった。


「アルバート様は案外忙しい方だと思います。面会予約をして、会えるのはもしかすると1か月くらいかかるかもしれませんよ」


 ルパートの言う通り、正攻法で会おうとしたら、いつまで待たされるか分からない。

 だったら……。


「アルバート王子が行きそうな夜会に押しかけれないかな! そこでブライアンさんの事話してみるよ」


「だったら今夜、レンディング伯爵の家が主催する夜会に出席するみたいですよ。ちょうど俺に招待状が届いてるので、俺と一緒なら参加できると思います。


「本当ですか! じゃあ宜しくお願いします!」


(あれ? もしかしてこれって、社交界デビューになるんじゃ……。ああ、夢が……)


 田舎に住んでいた時、舞踏会に憧れが無かったわけじゃなかったが、まさか初参加が交渉目的とは……、と若干凹んでしまう。

 でもこの状況で夢ばかり見てても仕方がないだろう。



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