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茨が自然の結界の様になっている場所に、甲冑を着込んだ男が倒れており、その傍らにはコーネリアが跪いている。
甲冑を着込んだ男は、ジャックが以前ミッドランド伯爵家で会ったその姿と酷似していて、
ジャックは緊張し、歩みを止めた。
「コーネリア様!」
「ハーディング!」
ハーディングが2人の元に走り寄ると、コーネリアが顔を上げた。
「ヨウ! ブジダッタカ!」
あれ? ヨウムは? と周囲を見渡したジャックの頭に鳥類の爪が突き刺さる。
「ヨウム!」
毛根に悪いからやめろ! と言いたかったが、ヨウムの爪から温かい感覚が伝わると、身体の疲労感が抜けて行く。魔術で身体疲労の回復効果のあるものを使ってくれているのかもしれない。
「有難うな」
「イマダケ サービス!」
「う……っ……」
「お父様!」
3人の方を見ると、コーネリアが慌ててアーロンに魔術をかけていた。
ヨウムとの再会で他3人から意識を離していたが、ジャックがここまで来た理由の一つが、古代王に会う為なのだ。他人事にはできない。
「アーロンさん、どこか悪いんですか?」
「お父様は、アースラメントの見回りの兵士達と一戦交えて、そこで腹を抉られて……」
「エクスカリバーを手放すのが早かったな……。それよりタローンはどうした?」
以前会った時、変なオッサンだとしか思わなかったのに、今のアーロンはまともな人物に思え、戸惑う。
「タローンは俺とハーディングさんで倒しました」
「いえ、違います。タローンはこの男一人で倒しました」
別に持ち上げてほしいわけではないジャックは眉根を寄せてハーディングを見遣るが、ニヤリと笑われてしまう。
「コーネリアから話を聞いていたところだった。オレンジ頭の男がエクスカリバーの次の所有者だと」
「……俺は、一度あなたにお会いしていますよね?」
アーロンの、初めて会ったと言わんばかりの態度に違和感があり、ジャックは恐る恐る確認をとる。
「いや、私は初めて会った。……恐らくだが、息絶えた私の身体の構成要素を使って、この剣が一時的にわたしの身体を再現したのだろう」
(シエルとかに言わせたら粒子を使ってどうこうって事なのか? うーん、やっぱ良く分からないな)
魔術的な話に慣れてきたつもりだったが、やはり理解が追い付かない。
「じゃあ、初対面という理解でいいんですね」
「そういう事になる。タローンを倒せたという事は、所有者として相応しい人物の手にエクスカリバーが渡ったのだな」
「それは、何ともいえませんが……。そもそも何故タローンの封印を解いたんですか?」
「この領地の中で、エクスカリバーを封印させる事が出来るのはちょうどタローンを封印させていた場所しかなかった。だからこの場所の見張りがいなくなった隙を見計らって忍び込み、タローンの封印を解き、エクスカリバーの封印を施した。もたもたするウチに見張りが戻ってきてこのざまよ」
「そうだったんですね……」
正直言って、迷惑極まりない神獣だったが、アーロンの状態を見ると、責める気にならない。
「鞘の石の力も無事及んでいるようだな。所有者が自ら力を引き出せたのを確認出来て良かった。これで安心して死ねる……」
「お父様! 死ぬなんておっしゃらないで。わたくし達と一緒に逃げましょう!」
「アーロン様、コーネリア様と一度国外に向かう予定です。貴方様もどうか一緒に……」
コーネリアに治療されているのに、死ぬ事を考えているという事は、アーロンは自殺するつもりなのかもしれない。でもジャックとしては、自分と関わりをもった人間に死んでほしくはない。
「アーロンさん、俺はこれからまたアストロブレームに戻ります。向うには、あなたが死んだと伝えておきます。だからどうか、逃げ伸びてください」
もしかすると、歴史が変わるのかもしれない。
でもジャックは目の前で死のうとしてる人間に生きてほしいと思うのだった。
これにて10章は終わりです!




