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(何だこの光は……?)
身体の酷い痛みが嘘の様に消えていく。
違和感があった骨も元通りの感覚になった。
(これ、ハーディングさんが? でもなんか違うような……)
魔術を使えるハーディングが回復させているのだと考えるのが自然なのに、ジャックの勘がどういうわけか、この癒しがエクスカリバーに関連するだろうと告げている。
手に持つエクスカリバーから、大きなエネルギーが発せられ、体内に満ちてゆくような感覚だ。
(今なら、何でも出来るんじゃないか? って、んなわけないけど)
謎の万能感に戸惑い、自分で抑え込まないと暴走を始めそうでもある。
――貴様……まさか?
間近で聞こえるタローンの声にハッと我に返る。
(そうだ、今はこの状況を何とかしないとな)
ジャックは頭の内でタローンを跳ね飛ばすイメージをした。
すると、目に見えない何かに吹き飛ばされる様に、タローンの身体が大きく後ろに傾いだ。
――ぐおぉ……!
緩んだ手からジャックは身体が解放される。
どういうわけか、放り出された身体は地面に落下せず、空中に留まる事が出来ている。
(今の力は……? 何で俺、下に落ちないでいられるんだ?)
「ジャック! 何が起きてる!?」
「全く分かりません!」
エクスカリバーのお陰だろうとは思うものの、ハーディングにその事をうまく伝える自信がない。正直言って、自分でさえも頭がおかしくなって幻覚でも見ているのかと思うくらいなのだ。
――ふむ、エクスカリバーの力を引き出せつつあるのか。……貴様もしや、アーロンの子孫か?
(俺が古代王の子孫? そんな馬鹿な!)
「赤の他人だ!」
――ならばここで力を試してやろう! 我を倒してみよ! さすればこのタローンの力、お前に託そうではないか!
(なんっだそれ! 力なんかいらないから!)
タローンの身体は全身が赤く染まった。
高温になっているその身体には、指一本触れる事すら避けるべきだろう。
(コイツも本気の力を見せるって事か……)
タローンは炎が揺らめく斧をジャックに向けて大きく振った。
頭の中で、空気を斬り裂く様を思い描く。
酸素がなければ炎は消えるはずだ。
(このイメージを力に!)
青く輝く聖剣をタローンに向けて振る。
そうすると、目に見えない真空の波動がエクスカリバーから放たれた。
ジャックの力とタローンの力がぶつかり合う。
しかしそれは長くは続かなかった。
真空派が炎をみるみるうちに消し、強力な力でタローンの身体を引き裂いたのだ。
――……貴様を……認めよ……う。
タローンの身体は切り裂かれた部分から砂の様にザラリと崩れ、僅かな風で吹き飛び、後には何も残らなかった。
ジャックが持つエクスカリバーが一瞬赤い光を放った。
(なんだ?)
その光は気のせいかと思うほどすぐに消えてしまう。
(赤い光は何の意味が?)
「お前は凄い奴なんだな……、見くびってて悪かった」
ジャックが地面に降り立つと、ハーディングが近づいて来る。
「いえ、俺はあなたとの戦いの時、迷いを見せてしまった。見くびられても仕方ないと思いますよ」
「人を殺すのが怖いか?」
ハーディングに心を見抜かれ、視線を地面に落とした。
「抵抗は、有りますね」
「迷いを捨てろ。でなければ大事なモノを失うぞ」
誰も殺さずに、大切な何かを守る事だって出来るのではないか? そう言い返したくなる。でもいつかは選択を迫られる時が来るのかもしれない。
◇
ハーディングと2人でコーネリアとヨウムの後を追い、タローンが封印されていた場所まで向かう。
意外と遠い場所にあるそこは、大人の男の足で歩いても20分はかかった。




