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脳にダイレクトに語り掛ける様な声は、ジャックにしか聞こえていないのだろうか?
ハーディングは先ほどの倍ほどの大きさのプラズマを頭上に貯めており、タローンの声が聞こえていないように見える。
「あいつから何か話しかけられていませんか?」
「アイツは何も喋ってなどいない。気が散るから今は話しかけないでくれ」
イラついているようなハーディングは嘘をついているようには見えない。
――鞘の……青い石ころはどうした……?
「石……?」
エクスカリバーの鞘は、アストロブレームでアリシアに譲られたホルダーに括りつけ、背負っているのだが、最初から青い石は付いてなどいない。
だが、青い石と聞くと覚えがあるような気もしてくるのだ?
(青い石を、最近触ったような……)
思い出せそうで思い出せない歯がゆさを感じる。
――エクスカリバーの性能を、引き出しておらん。石もない。……その剣を、奪ったのか?
「奪った? 違う! 俺はミッドランド家当主に所有を認められている!」
タローンからの失礼な言葉に腹が立ち、ジャックは声を荒げた。
「さっきから何を独り言を言っている!」
ハーディングは頭上のプラズマを再び矢にしてタローンに向けて放った。
激しいプラズマの矢がタローンを襲い、その姿を光で覆い隠す。
「やったか……?」
攻撃の激しさに、致命的なダメージを期待したが、光が消え、タローンが姿を現すと、落胆した。
所々黒ずんだだけで、大したダメージを食らってはいなかったのだ。
「まだです……。ハーディングさん、話を聞いてください。俺はさっきからタローンに話しかけられているんです。脳に直接語り掛けられてる」
「俺には何も聞こえないが……」
――話にならぬ……やはり駆除せねば……
タローンが頭上に斧を振り上げると、奴が持つ斧は赤く染まった。
見るからに攻撃力が上がってそうな斧を、ブンブンと振り回しながら、タローンはこちらに近寄ってくる。
周囲の木々が切断され、燃えながら左右に吹っ飛んだ。
「化け物め……」
ハーディングは、2人の目の前に魔術の障壁を2重にも3重にも張る。
「タローンには魔術が効いていなそうです。神獣は普通の魔獣とはわけが違うという事なんですか?」
「俺も神獣を相手にするのは初めてなんだ。これ程までに防御力があるとはな……」
タローンが直ぐ傍まで迫った。
巨人は障壁に、燃える斧で叩きつける。
――ガン! ギギギィ……
たった一撃で障壁に亀裂が入った。
(うわ……)
思わず目を抑えて空を仰ぎたくなる。
――ガン! ガン!
――バリン!
たった3発で障壁が割れてしまった。
「ハーディングさん……」
「……数で勝負だ……」
ハーディングはムキになった様に障壁を貼り続けるが、打ち破られるスピードの方が速い。
肩で息をし、大量の汗を掻くハーディングの様子を見ると、この状態が長く続かない予想してしまう。
(何か、何か方法は……)
ジャックは必死に頭を働かす。
(一か八かでやってみるか?)
「ハーディングさん! 俺のエクスカリバーに氷の魔術を行使する事は出来ますか?」
「他人の剣を魔剣化するのはやった事がないし、成功例も聞いた事もない。だがその剣ならもしかして、可能なのか?」
ハーディングは迷うような表情を見せるが、直ぐに迷いを捨て、ジャックの方に右手を向けた。
エクスカリバーの刀身に白い魔方陣が浮かぶと、みるみるうちに刀身に霜が現れた。
手をかざしてみると、痛いくらい冷気を感じる。
「成功しているみたいです!」
「よし!」
――無駄だ。青い石ころを介したエネルギー量、足りない……。
「やってみなければ分からないだろ!」
――バリン!
最後の障壁が破られた。
「ジャック! 俺はエクスカリバーの魔術をかけ続ける。お前は戦闘に集中しろ!」
「はい!……うわ!」
本日夜もう1話投稿します。




