10-14
ここまで来たルートは火事になっており、戻れる様な状態ではない。
「下がっていろ」
ハーディングが右手を上げると、上空に巨大な古代文字が浮かび上がった。
水色に輝くそれは、グルリと光の輪になり、強く光を発した。
青空の中、ここだけに黒い雲が発生する。
――ザァァア……
雲はバケツをひっくり返したような雨を降らせた。
「なるほど、炎を鎮火させるんですね」
「これで歩き道に危険は無くなるだろう」
森を燃やす炎は徐々に収まり、小道を進んでいけそうだ。
2人で来た道を戻る。
――ズゥゥゥン!!
30m程離れて、タローンの姿が見えた。
巨人は、人間と称するにはややシンプルな造形の青銅色の身体をしている。
顔のノッペリ具合などもあり、間抜けなルックスだ。
タローンはジャック達2人を見つけると、歩みを止め、周囲の木々を腕で薙ぎ払った。
簡単に吹き飛ぶ木々を見ながら、ジャックは眉根を寄せる。
(何て力だ……。巨木をいとも容易く飛ばせるのか。それに身体を構成するのは金属か? 真正面から突っ込んだらまずそうだな……)
ジャックは神獣について無知だ。
どうしたもんかとタローンを見つめたまま、考えるうちに、奴はドンドン近寄って来る。
こちらに意識を向けさせておけば、コーネリアに危害は加えられないだろうが、このままではまずいだろう。
「ハーディングさん。奴を倒そうと考えてます?」
「全力でいかせてもらう。コーネリア様の封印に期待、と言いたいが、そもそも可能なのかすら不明なのだからな」
「そうですよね。では俺もそのつもりで、向かいます」
――ドゥン……ドゥン……ギギギィ
タローンはすぐそばまで迫っていた。
(改めてみると……半端なく巨大だな)
人に近い姿をしているからか、タローンの姿がやたら不気味に見える。
ジャックはエクスカリバーを正眼に構えた。
「地面に引き倒しませんか? 急所がどこなのか、それから探りましょう」
「了解だ。俺の魔術で奴の足を止める」
ハーディングは右手に白い光を宿すと、それをタローンに向けた。
奴の足元に白い輪が現れ、一瞬にして現れた氷が両足を凍らせた。
――グォォオオオオ!!!
森にタローンの雄叫びが響き渡った。
「俺は右に行く。ジャックは左へ。同時に足を打ちち払うぞ。打ち込む直前に氷を消す!」
「分かりました!」
2人でタローンに向かって走る。
巨木の幹の様な足は見事なまでに凍り付いている……ハズだった。
ジャックた辿り着く前にタローンの足は突如として赤く染まり、みるみるうちに足を固定していた氷が解け始めたのだ。
(な!? 高温になっているのか!?)
タローンの足は自由になり、足元に走って来た2人を蹴り飛ばそうとしてくる。
あの丸太の様に太い足に蹴られたら、骨折してもおかしくはない。
「自分で身体表面の温度を操る事が出来るのか……、とんでもないな……」
「あの足の色が青銅に戻ったら、もう一度チャレンジするぞ。今は後退しよう!」
「はい!」
タローンしを機敏に避けながら後退していく2人に苛立ちを募らせたのか、もう1度野太い雄叫びを上げた。
何かを仕掛けてきそうな気配がして、ジャックがタローンの方を確認すると、両腕を胸の前で組み合わせ、ブルブルと震えている。
(何やってんだアイツ……)
タローンの胸が光出す。
「ジャック! 後ろに下がれ!」
タローンは胸から何かを引き抜き、それを力任せにジャックに振り下ろした。
――ギィィィイイイイン!!
咄嗟に構えたエクスカリバーが食い止めたのは、巨大な斧だった――刃の長さはジャックの身長を優に超える。
「武器を使えるのか……!」
「ぐ……うっ……、の……ようですね……」
とんでもない重さだった。
巨大な斧の重さにタローン自体の腕力と、振り下ろされるエネルギーの衝撃を受け、腕がどうにかなりそうな程の痛みを感じ、喋る事すらままならない。
肩や腕、背中の筋肉や節々が悲鳴を上げ、このままの状態でいると、身体がイカれてしまいそうだった。潰されずに済んでいるのはエクスカリバーの力によるものなのだろうが、それでもジャックの身体が耐えきれない。
(まだ鍛え足りないって言うのかよ……!)
ギリリと加えられる力に、一瞬の隙が生まれる。
ジャックはそれを見逃さず、渾身の力で斧を打ち返すと、後方に下がった。
腕や肩が、重みから解放されてもなお痛みが引かない。
(あんな斧にどうやって対処すれば……!)
ハーディングを見れば、彼の周囲には、魔術による古代文字が浮かんでいた。
さっきは彼が攻撃で巨人の注意を引いてくれたのかもしれない。
――何故……だ……
(え?)
頭に直接響くような声が聞こえた気がして、周囲を見渡す。
「俺の魔術を食らいな」
ハーディングによるものかと思ったが、彼の意識は魔術に向いている。
頭上に巨大なプラズマの塊を作ると、いくつもの矢の様なものがそこから、タローンに向かい発射される。
タローンはコバエを払うようにプラズマの矢を振り落とす。
「くっそ! 効かないのか! もっときついやつをお見舞いしてやらないといけないらしいな!」
――キサ……マ……何故その剣を……
ハーディングの攻撃魔術をもろともせず、タローンは間の抜けた顔でジャックを見つめる。
(アイツが俺に語り掛けてるのか?)




