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10-11

 銃弾が脚をかすった痛みに顔を歪める男に、ジャックは剣を振り下ろす。

 

(あ……やばい。殺してしまうかもしれない……)


 気の迷いが剣筋を鈍らせた。

 エクスカリバーの一撃は男に易々と受け止められてしまう。


「軟弱な太刀筋だ」


 力比べは長々とは続かなかった。

 男が身体を捩じったのを目で捉えた瞬間、向こうの剣の重みが無くなった。


――ガラン……


「え……? いっ……てぇ……!」


 体制を崩すジャックの頭は渾身の力で掴まれ、壁に打ち付けられた。

 頭への衝撃で視界が砂嵐のように見えなくなる。


 ヒヤリと首に押し上げられたのは刃物だろう。


「相手を殺す事を迷うとは、とんだ間抜けだ。間抜けに免じて命だけは助けてやろう」


(よかったぁぁああああ! じゃなくてだ! 何で迎えに来ただけなのにこんな目に会わなきゃいけないんだよ)


 言いたい事が山ほどあるのに、頭の痛みで口がうまく動かせなかった。


「ミテ! トリ!」


「馬鹿な鳥だ……。貴様が鳥なのは見れば分かる」



 ヨウムの無邪気な声が男の気をひいたようだ。



「バカ ハ オマエ ウエ ダヨ!」


「はぁ? え……? あれはコーネリア様の魔術の鳥か!」

 ジャックに与えられるはずの一撃がなかなか来ず、首に当てられた刃物の感触が無くなった。


(嘘だろ……。まだメッセージを受け取ってなかったのかよ)


 ガクリ……。

 ジャックは膝をついた。


「ヨク ガンバッタナ!」


 ヨウムが頭に乗ると、次第に頭の痛みが消え、視界がクリアになった。

 良く見えるようになった視界で、フードの男は半透明の鳥を手に乗せていた。


「コーネリア・イングラム、あんたの恋人で間違いない。そうだろ?」


 ハッと男はジャックの方を向いた。


「メッセージに、オレンジ髪の男とここまで来たと記されていた。あんたはコーネリア様の仲間だったのか」


  男はフードを下ろした。薄茶色の短髪にとがった印象の顔立ちの青年だった。


「あなたはハーディングさん、なんだな?」


「ああ、そうだ。いきなり襲い掛かったりして悪かったな」


「いいよ。あんたも今まで大変だったんだろう。俺と一緒に来てくれるか? コーネリアさんが待ってるんだ」


「勿論だ。だが、俺は正門から出るわけには行かない。顔が知れ渡ってるからな。礼拝堂の奥から城壁の外に出る隠し通路があるからそこから行こう」


「分かった。案内してくれ」


 ハーディングの後を付いて行くと、何でもない壁の一部が隠し扉になっていて、そこを通り抜けると暗い用水路に出た。


「ここから外部に出られる」


 石を積み上げられただけの用水路は、デコボコとした上を歩かなければならず、ぼんやりしていると、下に落ちてしまいそうだ。


 沈黙の中歩くのが少々気まずく、ジャックは旅の途中で疑問に思った事をハーディングに聞いてみる事にした。


「何であんたはこの街に留まってるんだ? 恋人の一大事だっていうのに」


「コーネリア様との約束で、イングラム側の兵士を街の外に逃がしてたんだ。さっきようやく酷い怪我を負っていた最後の一人を逃がせた。貴様が来たのはいいタイミングだったな」


「なるほどな」


「でも本当はすぐに助けに行きたかった。ハロルドの事だから彼女をすぐに殺す事はないだろうと思っていたが、好きな女が酷い目に合ってるかもしれないと想像しただけで頭がおかしくなりそうだった」


 ハーディングとコーネリアの関係は主従関係がベースとなっているはずだ。彼女からの命令を第一に考えるという心情を分かるような気もしたが、ジャックは少しだけ歯がゆく感じる。


(俺だったら命令なんか無視するのに……、って何考えてんだ!)


 旅の出来事や、潜伏中の事を伝えあいながら歩くと、用水路の先に光が見えてきた。

 そこに1人の女性の姿がある。コーネリアだ。


「ハーディング!」


 彼女は待ちきれないとばかりに駆け寄ってくる。

 ハーディングも駆け出し、2人で抱きしめあった。


「ずっと会いたかったわ!」 「俺もです……」


 ジャックとヨウムの事等眼中にない様子の2人を見続けるのも気まずく、2人から距離を取る。


 少し離れた岩の所まで歩き、振り返ると、まだ抱きしめ合っている。


 2人の姿が眩しいのは、そこに本当の愛が見えるからなんだろう。


「よくあんなに、相手に対して無防備に感情さらけ出せるな」


「キミガ ユガンデル」


「俺がおかしいのか……」


 ちょっと前なら恋人達がイチャついてるのを見ると鬱陶しく思えたのに、今は少し違って見える。


(早く帰りたくなるな)


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