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10-10

 礼拝堂の中は一見無人の様だった。

 整然と並んでいたであろう長椅子が倒されたり、聖人像が破壊されたりしており、ここに逃げ込み、神の助けを求めたであろう人々を無慈悲に葬ったのではないかと想像してしまう。


 椅子等を足でどかしながら、ジャックは礼拝堂の内部へと足を運んだ。


「ここ以外礼拝堂はなかったよな?」


「ナイ!」


 場所を間違えたのではないかという不安からヨウムに確認する。

 誰もいないことを訝しく思いながらも、祭壇前まで足を運ぶ。


――ガタ……


 右側に伸びる通路から僅かな音が聞こえた。


(やっぱここに誰かいるな……)


 祭壇の間を抜け、音の方向へ進む。

 このまま進んだら、聖職者の住居スペースに辿り着きそうだ。

 通路の角を曲がると、その先の角をヒラリと灰色っぽい布が見えた気がした。


(いる……)


 口の前に人差し指を立て、ヨウムに喋らないように合図を送り、ゆっくりと布が見えた角の方へと歩みを進める。

 音を立てない様にエクスカリバーを抜く。


――ガン!!


 通路の角のさらに先と思われるところから何かがぶつかる音が聞こえる。


(かなり先に進んだみたいだな)


 ジャックは躊躇わずに通路の角を曲がろうとした。だがそれは、目にもとまらぬスピードで突き出された刃物によって防がれる。


「居たのか!?」


「チッ……刺し殺せたと思ったのに」


 角からユラリと出てきた人物は、ジャックと同じくらいの背丈で、フードを目深に被った男だった。フードの下から覗く眼差しはギラギラと危うい光を発している。


 さっき聞こえた音は、この男が何かを遠くに投げて、居場所を誤認させたようだ。


(この人がハーディングさんなのか?)


 王族の護衛と聞いていたから、優男を想像していたが、目の前の男は失礼ながらあまり育ちが良さそうには見えない。


(でもここに居るって事は、本人だよな?)


「あんたに話が……、……ゲ!」


 構えていない状態から素早く突き出された長剣を何とかエクスカリバーの刀身で防ぐ。


「アースラメントの犬が……」


 男は自身の右手に白い光を宿し、それを長剣に押し込む様に動かした。

 そうすると長剣の刀身が白い光に包まれた。


(魔術が使えるのかよ!)



「犬じゃない! てか、あんたがハーディングさんか?」


「だったら、どうした? ていうか、貴様の剣、どっかで見た事があるな。厄介そうだな。こっちも全力でいかせてもらう」


「話を聞けよ!」


 魔術で強化された剣とやり合うのは初めてかもしれない。この剣で耐えきれるのだろうか?

 下段に構えた状態から振られる剣をエクスカリバーで受け止めると、聖剣は男の剣をいとも容易く受け止め、砕けそうな様子もない。


 剣と剣が触れ合う箇所から白い光がはじけるように明滅する。


 男は力比べになるのを牽制するかのように、一度剣を引き、直ぐにまた鋭く突きを放つ。


(この人、パワータイプではないんだな)


 突かれた剣を避けながら、男の懐に一瞬空いた隙を狙ってエクスカリバーを振る。

 しかしそれは男が一瞬にして張ったバリアの様なものに阻まれてしまった。


(魔術使い、厄介すぎるだろ……)


 頼みの綱のヨウムに視線を投げるが、彼はこの戦闘の傍観者になる事を決めてしまったようで、木箱の上で呑気に毛づくろいをしている。


「よそ見とは、余裕だな」


 再び構え無しで素早く振り下ろされた剣をすんでの所で弾く。


「この戦闘は無駄だ」


「無駄だと言うならさっさと終わらせるまでだ!」


 一層激しさを増した突きが次々と繰り出され、剣が2つにも3つにも見えるようだった。

 ジャックは防戦一方になるが、剣を防ぎながら男の隙がないかと必死に目を凝らす。


(くっそ、こうなったら……)


 少々汚いと思うものの、背に腹は代えられないと、隠し持っている物に片手をやる。

 男の上段から振り下ろされた剣を受け止め、一瞬空いた隙に、男の脚に銃を発砲する。


「……ぐぁ……」



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