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10-2


――カタ……カタカタカタ


(揺れてるな……)


 ブレアは目の前の水差しに波紋が広がるのをジッと見つめた。

 地震をほとんど経験した事のないブレアは、このわずかな揺れが自然災害としての物なのか誰かの貧乏ゆすりによるものなのか自信が無かったが、自分と同じようにシャンデリアを眺める者もいるので気のせいではないだろう。


 ブレアは午前中にバルで魔術師と話した後、科学省に寄って、預かりものを秘書に託し、午後からは最寄りの公会堂に足を運んでいた。

 

 この日公会堂では元老院議員達が集められている。


 ブレアはまだ議員ではないが、昨日傍聴の申請を出し、欠席者等も居た事から同席が叶った。

 会合の目的は西ヘルジア王国次期国王にして議会の次の議長との顔合わせの為であり、円卓の奥の方にはシエル・ローサーがチョコンと座っている。


 真っ白なブラウスに紺のスカート姿の彼女はブレア好みの清楚な装いだ。普段同年代の女性と会う機会があまりないブレアはついニヨッと頬が緩みそうになる。――社交界に行く機会もそれなりにあるが、最近の風紀の乱れっぷりに嫌気が差し、あまり深入りする気がないのだ。


 ジロジロと見ていた事がバレたのか、シエルに不安そうな顔を向けられ、サッと笑顔を作って取り繕う。


(それにしても顔色悪いな……)


 昨日の話の件で彼女なりに調べ、手を尽くしているのかもしれない。

 

(ジャック・フォーサイズは彼女の恋人? 許嫁? そこまで心配する価値あるのかねぇ……)


 先日会った際の甲斐性の無い男を思い出し、心の中で笑う。


(まぁ、見た目の良さが大事って事か)


 

「――それで、国王の容体はどのような感じかしら?」


「昏睡状態が続いております」


 先ほどからシエルの隣に座るアルマ・ローサーと宮内大臣マイケル・ハドリーの会話が続いている。

 元老院の会合はアースラメント宮殿内の議場で執り行うのが常なのであるが、国会議長である現国王が臥せっており、さらに次の国王候補が直系ではない事等から、本日の会合は公会堂で開かれるようになったようだ。


「そう。国王存命中に次の王位について元老院の承認を得たいのだけど」


 大きめの声量で発せられたアルマの主張に、雑談気味だった場が静まり返った。


「アルマ様、ご存知の通り元老院は今分断されております。国王の意向の通りシエル様を国王にと考える者達と、王弟レオナルド様の主張に同意し、国王陛下の子息であるアルバート殿下を王位に就かせるべきと考える者達がいます」


 元老院議長であるブレアの父ヒューゴ・ダグラスが元老院代表として沈黙を破った。


(タヌキ親父はソロソロどっちに付くか決めたのか? つーか、顔見るだけでまた殴りたくなるな)


 ヒューゴはこの場ではだれがどう見ても完璧な紳士なのだが、このオッサンは普段複数の愛人に囲まれ、ただれた生活を送っているのだ。

 ブレアが公爵家の邸宅で暮らさないのは、ヒューゴと衝突が絶えなかったのが原因である。


「あら? 国王陛下と王弟のどちらに任命権があるのか忘れてしまった方々がいらっしゃると?」


 アルマがアルバート側に就く貴族を煽るような事を言うと、すかさず食いついて来る者が現れる。


「国政について充分に学んで来ていないシエル様を王位に就かせるのは、如何なものかと……。アルバート様を国王に出来ない明確な理由がなければ我々は首を縦に振る事が難しいのです」


「最近リークが有ったのですが、アルバート様は反社会的組織に属しておられるそうですね。次の国王になるお方がその様な汚点を残すのは望ましくないのでは?」


(あーもしかして『地獄の門』……)


 宮内大臣の発言から最近の社交界の乱れの原因の一つにもなっている秘密結社を思い浮かべる。午前中に会った魔術師もこの秘密結社の息がかかった者なのだ。

 この組織と国の関係は徐々に深くなっていると言える。


――だが。


(潰していいよな? 役にたたねーし)


 組織の存在意義は、動かしづらい魔術師協会の代わりと言えたし、件のエネルギー実験での成功から価値が高まった面もあった。だが本日午前にはもうブレアにとってはゴミ屑程度の価値しか無くなってしまった。


「一国の王子が反社会団体へ出入りしている事実は、年若い貴族達の追従者を生みだしているんですよね。この国の未来を考えるなら、腐敗の原因となる事は歓迎すべきではないかと」


 ブレアの気まぐれの発言に、何人かの議員の目がコチラに向く。

 その中には父の物もあり、性質の悪い笑顔を浮かべた。


(俺とアンタは別物だ。同じ様に振る舞う必要はないんでね)


「魔術について、誤認を招くような団体は、私としても歓迎すべきものではありません。私は王位に就きこの国の魔術についての在り方を変えたいんです」


 これまで黙っていたシエルが主張しだす。


「ご存知ないかもしれませんが、この国の魔術研究は他の国を引き離す程に進んでおります。それをこの国の売りにするんです。近年目覚ましい発達を見せる科学技術と魔術を組み合わせ、魔導国家に成長させるつもりです。他に目立った産業がないこの国の生き残る道でもあるかと」


(ふーん……、なるほどね)


 シエルの造りたい国の姿はブレアにとって、中々魅力あるように感じられた。


――悪くない。


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