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10-1

「はぁ? 失敗していただと!?」


 ブレア・ダグラスは40代半ば程の痩せぎすの男を、蔑みきった眼差しで見つめた。


「ええ……、底辺魔術師の私には扱いきれない魔術だったのです」


「ふざけるなよ……。お前は科学省に虚偽の報告をしていたのか!?」


 バルの小さなテーブルを力任せに叩くと、派手な音が鳴り、何事かと他の客たちがこちらを向く。


 意図せず目立った事でさらにいらつき、ブレアは盛大に顔を顰めた。


「その事は、本当に申し訳なく思っております……」


「意味が分からない。何故お前の様な無能が関わる事になった?」


「私は魔術師協会の秘術がまとめられた魔術書の写しを所属していた組織のツテで入手し、興味本位で解読しておりました。それだけだったら良かったんですが、ある程度解読出来てしまった事が歪んだ形で科学省に伝わり、実験に関わる事を持ち掛けられました」


「提示された金に目がくらんで、出来もしない事を引き受けたってか?」


 ブレアの追及に、男は気まずそうに目を伏せる。


「私の魔術師としての活動資金は底を付きかけておりました。それにもしかしたら大魔術を成功させる事が出来るかもしれないという思いも否定出来ません」


「醜い」


 

 昨日、ブレアはミッドランド伯爵家のシエル・ローサーと初めて会い、彼女が語る奇妙な話の数々に興味を引かれた。元々変わった事象を調べる事を好んでおり、さらに今回はそれが自分も前から気にしていた件と同種の事象が絡んでいる様だったので、積極的に動く事にした次第だ。


 シエルは次期国王であるため、恩を売っておいて損する事はないだろうという打算も有った。

 

 ――――ブレアが多少の打算込みで動くかどうか考えるようになったのは、父であるノースフォール公爵に彼が持つ爵位の一つを譲り受けた時からだろうか?


 ブレアは昨日のシエルとジャックの母アイリーンの話から、ワームホールについて詳しい人物の説明が必要ではないかと考えた。

 だから数年前にホープレスプラトゥ鉱山で確認されたあの超常現象の主役とも言える魔術師に会ってみる事にした。

 だが、科学庁長官からの紹介から現れた魔術師の男は、鉱山での実験は失敗していたと言う。


 馬鹿々々しいにも程がある。


「あー、……ちなみに何で俺に正直に話そうと考えた?」


「もう、この件に関わる気が無いのです。実験に失敗していたにも関わらず、何故か成功していると思われて、科学省に細かい原理の質問を受けるんです。魔術を使わずに同様の現象を起こしたいという事の様でした。入手した魔術師協会の魔術書に書かれていた術はいくつかの穴があり、術者の裁量に任す事が多い。失敗した魔術について説明するのは心苦しいのです……」


「なるほど、魔術師協会の連中は盗用防止のために、重要な部分は空白にしていたんだな」


「そうでしょうね……」


 男は疲れたように笑い、床に置いていた革製のトランクをテーブルの上に乗せた。

 留め金を外し、中身を見せようとするので、ブレアは慌ててトランクの蓋を抑えつけた。


「場所を考えろよ!」


 男はたぶん科学省から受け取った多額の報酬をブレアづてに返そうとしている。

 だが、こんな事をされて迷惑なのはブレアだ。

 2人が今いるバルは王都でも比較的治安がいい場所ではあるが、大金を持っている事を知られたら、無駄な危険に晒されるだろう。


 ブレアは男の無神経さに呆れた。


(それにしても……だ。この男が魔術を失敗したという認識なのだとしても、成功してなきゃ起きないような現象が起こったんだよな?)


 

 魔術を行った際、大きな爆発がいくつか起きたらしい。

 その後に空間が歪み、大量の魔獣が吐き出されるという悪夢のような事が実現したのだ。誰かが何かしたのは間違いないのだ。


「何故ワームホールが開いたのか分かるか? 答え次第では虚偽の報告を続けたお前を庇ってやってもいい」


「私はあの時、自分の魔術の失敗による爆発に巻き込まれ死にかけました。目を覚ました時、自分はノースフォール公爵領にある病院に居たようです。あ、ノースフォール公爵領は貴殿のお父様の領地ですね」


「はぁ?」


 何故自分の家の領地名がいきなり出て来たのか?

 ブレアはこの実験には担当局の違いからただレポートを確認したにすぎない。ただの傍観者のつもりだったが、いきなり当事者になったような気がして、気分が悪くなってきた。


「あ、ここだけの話ですけど、私が意識を失う直前、何か人語を話す巨大な化け物がいた気がします……」


「あの時、魔獣が大量に現れた事を考えると、その中の一匹なんだろうけど……魔獣が人語?」


(意味分かんねーな)



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