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プロローグ1

 薄暗い地下室の中、黒い石の床に青白い魔法陣が浮かぶ。

 いくつもの古代文字が明滅する中央部には透明な水晶が浮いている。


 魔法陣が大きく光を放つと、その光は全て水晶の中に取り込まれていった。


 魔法陣の傍に立つ10代半ばくらいの少女が光の収まった水晶をためらい無く手に取る。


「まぁまぁの出来かな」


 自分の魔術の出来に満足し、少女は被っていたフードを下ろす。

 暗がりの中で、僅かな光を反射する白っぽい髪は腰まで届くほど長く、少女がテーブルの上のランタンに魔術で火を灯すと、本来の色合いはやわらかなクリーム色である事が分かる。

 ほっそりとした体に身にまとうのは魔術師が着るローブで、その下に着ているのはレースが特徴的な上等なドレスだ。


「お腹減った」


 少女はテーブルの上の大量のスコーンをモグモグと頬張りながら、水晶の管理リストにチェックマークを入れた。

 

「シエルお嬢様!」


 地下室の外側から自分を呼ぶ声が聞こえ、シエルと呼ばれた少女は返事を返す。


「ムグッ……ど、どうしたの?」


 少女は口に入れていたスコーンを喉に詰まらせそうになるものの、日々の鍛錬のおかげかすぐに冷静さを装えたようだ。 


「魔術師協会のマーシャル様がいらっしゃってます!」


「すぐに行く」


 声を掛けてくるメイドに返事を返し、少女は地下室を出た。



 魔術師協会の魔術師がシエルの祖母を通さずにシエルに話があるのは珍しい事なので、シエルは何ごとかと不安になる。


シエルが屋敷のエントランスに行くと、痩身の男がシエルを待ち構えていた。


「マーシャルさん、御機嫌よう」


 シエルは出来るだけ淑女らしく見えるように、スカートの端をつまんで挨拶した。


「シエル様、ご機嫌麗しく……」


 マーシャルは恐縮したように頭を下げた。


 マーシャルはかなり年上の男性だが、シエルに頭を下げるのはシエルの祖母が彼の上司だからだ。

 自分が偉いわけではないシエルは何となく居心地悪く感じる。


「祖母は魔術師学校での講義があるので外出してますよ」


「それは先ほどこの家のメイドに聞きました。申し訳ないですが、シエル様に協力していただきたい事があるんです」


「私に出来る事は限られていると思いますが……」


 祖母を頼れないなら自分に協力を頼まざるを得ない、という状況という事は、よほどの事が有ったのだろう。

 シエルは少し緊張してきた。


「落ち着いて聞いてください。この屋敷を含む、森全体にかけてある結界が解けてしまっているのです」


「う……嘘……?」


 予想以上に事態は深刻なようだった。


「既に魔獣達に侵入されています」


「すぐに行かないと!」


「シエル様、森の南部の呪印を復活させてください。僕は目撃情報が有った魔獣の討伐に向かいます! 既に他の魔術師達も討伐に行っておりますが、今の時間は主婦の魔術師達が主力なので数が足りません。助太刀しませんと……」



「おばあちゃんの部屋に呪印が書いてあるノートが有ったはず! 探してから結界を再生しに行くわ!」



 シエルの祖母は魔術師協会の協会長だ。

 偉大な魔術師の彼女はこの国の魔術師の頂点に立つ。



「くれぐれもお気をつけくださいね。シエル様に何か有ったら、私が協会長に殺されてしまいます」


 自分の身に何かあったらマーシャルは協会本部の塔から逆さ吊りにされてしまうかもしれない。

 恐ろしい想像に、シエルは震え上がった。


◇◆◇


 祖母の部屋から結界についてまとめられているノートを見つけ出し、描いてあった地図を頼りにシエルは呪印を調べて回る。


「12ある呪印のうち11は活性化できた。後もう1つね」


 最後の一つを活性化したら結界は復活するはずだ。

 祖母のノートの地図のうち、チェックを付けられなかったのは残り1つだけだ。


 森の様子がいつもとまるで違っている。

 木々が不安を伝えるように騒めき続けているのだ。


「マーシャルさん達、大丈夫かな……」


 出発してから一度もマーシャルとは会わなかった。

 マーシャルは優秀な魔術師だと祖母から聞いていたが、どのような魔獣と遭遇しているのか想像もつかないため心配になる。


 暫く山道を進むとシエルの背丈程の岩が見えてきた。

 地図のメモ書きによれば、岩のどこかに呪印が刻まれているようだ。

 目的場所についた事で一瞬気が抜けかけるが、ここからが本番だ。

 岩へ駆け寄り確認する。

 呪印は古代文字と山羊の絵を組み合わせた文様なのだが、夕暮れ時というやや悪条件が重なり、くまなく探しているのにどこに呪印があるのか見えない。


 場所が違うのだろうか?

 シエルは落胆しかけたが、祖母の地図に間違えはないはずだし、自分も正しく道を進んできたはずだと、もう1度目を凝らして確認する。

 シエルの膝のあたりの岩の表面に人為的に書かれたような曲線があった。


「あった!」


 文字のようなものと、山羊のとがった角のようなものがうっすらと見える。

 この辺りは森の南に位置し、工業地帯に比較的近い。工場から排出された煙が酸の雨となり石灰を多く含む岩を溶かしたのかもしれない。

 シエルは一つため息をつくと、草むらに荷物を降ろした。



小説サブタイトル番号が抜けるなどのエラー?が見受けられ、他に不備がないか探してます。何かお気付きの方いらっしゃいましたら、感想欄で教えてください。

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