お姉さん、よろこぶ。
翌々々日。
すなわち締め切り当日。私のパソコンには、メールが殺到していた。
ノルマ? 冗談じゃない!
新たに寄せられた質問は38件。余裕のよっちゃんである。私の秘策が見事に実ったと言っていい。
秘策。
すなわち小学生たちに、私のほうから疑問を投げかけたのだ!
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クイズ①
「なぜ扇風機をつかうと涼しくなる? 暑い空気をかきまわしているだけなのに」
クイズ②
「電波はまっすぐに飛ぶ。じゃあ、なぜ日本からハワイへ無線で通信できる? ハワイに向けて発信しても、地球は丸いから電波は宇宙のそとに飛んで行ってしまう。地球の丸みに沿って電波が飛んでいるのか? ありえない!」
クイズ③
「電話もテレビのリモコンも、ボタンは上から1、2、3……なのに、電卓だけどうして、下から1、2、3……なのか?」
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私は雑学クイズを3問用意した。そしてA3用紙に印刷して、各校の通学路に何十枚と貼っておいたのだ。
公園、曲がり角、アニメ映画のポスターの下……大人には気づかれにくく、子どもには見つけやすい。そんな場所を選びに選んだ。
県下の小学校は、公立私立あわせて184校。もちろん、3問のクイズは、1校1校すべてちがう問題だ。
したがって用意したクイズは552問。
クイズ王の私にとって、問題を考えるのは大した手間ではなかった。しかし2日半ではとてもすべてを掲示することは出来なかった。
わずか54校ぶん……それでも効果は絶大だった。
そう、ここからが秘策なのだ。
第4問を用意したのだ。
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クイズ④
「熊本県で、野生のクマを捕まえることは出来るか? 野生である。動物園のクマは除く」
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「こどもたちへ」誌の発行部数は、95000部。
そして全国に小学校は約22000校。
つまり単純計算でひとつの小学校に、4、5人の購読者がいるはずなのだ。必ずいずれかの読者の目に触れる……少なくとも、学校内でうわさになるはずだ!
そして第4問。
「こどもたちへ」を読んでいる子どもならば、お姉さんの休載の理由を知っているはず。必ず連想してくれると信じた!
大成功―――
最終日、私はメールの返信にてんてこ舞いだった。次から次にメールが来る。まったく追いつけない。ノルマを24通オーバーしたところで、0時を回った。
もちろん、次号に「お姉さんへの質問50」はデカデカと掲載された。まるで特集のようなあつかいだった。
★ ★ ★
『扇風機の風が、体のまわりの、温度の高い空気を吹き飛ばすんだッ。だから涼しく感じるんだよッ』
★ ★ ★
『地球の周りには、大気圏っていう空気の層があるんだッ。その中に、電離層っていう電波を反射する層があるんだよッ。上空に発射された電波が、それにハネ返ることで地球の反対側にも通信できるんだよッ』
★ ★ ★
『数字の計算をするときには、0と1をすごく使うんだッ。だから電卓は使いやすいように、0と1のボタンを近いところに配置してあるんだよッ』
★ ★ ★
私のクイズ貼り行脚は、毎日の習慣になった。北へ南へ、西へ東へ。もちろん、大反響だった。
何度か、通学路に貼りつけてあるのがネット上にアップされ、話題になったことがある。だが大した騒ぎにならずにすんだのは幸いだった。それからは反省し、第4問だけは記載から外した。
すなわち「熊本県にクマはいるか」。
もはや必要あるまい。
今後も私はお姉さんとして、子どもたちの疑問に答え続ける。そう思っていた。
数か月後―――
☆ ☆ ☆
『お姉さんへ』
『クマを捕まえました。どうしたらいいですか?』
『熊本県 龍の巫女に導かれし聖剣士くん(11歳)』
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