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お姉さん、たくらむ。



☆ ☆ ☆


『お姉さんへ』


『今月の「お姉さんへの質問50」への投書ですが、やはり(かんば)しくありません。達成ノルマまで、あと21件です。前月、前々月に続き未達成の場合、本コーナーを打ち切ることが、本日の会議で決定したしましたので、その(むね)了承(りょうしょう)ください』


『児童文芸信社 こどもたちへ編集部』


☆ ☆ ☆




「あああああああああああああ……」

 私は盛大(せいだい)にため息をついた。あと21件……いや、いま届いた2件を引いて、19件か。

 ちょっと待て。

 今月って、残り6日じゃないか。絶望だ。



 児童学習誌「こどもたちへ」。

 定期購読型の教材誌(きょうざいし)である。


 そのうちの1コーナー……「お姉さんへの質問50」への投書(とうしょ)は、数年前までは名物企画だった。数ページにわたって特集が組まれるほどの。


 しかしこのネット時代、ちょっとした疑問は検索(けんさく)すれば、たいてい答えがすぐわかる。それでもスマートホンを持っていないであろう子供たちに向けて、コーナー自体は継続(けいぞく)している。

 

 だが、寄せられる質問は大きく変化した。


 ひとつに数が激減した。


 これまでは、50個に(しぼ)らねばならなかったお便(たよ)りの山。だが、とうとう先月、先々月と質問は50件に満たず、コーナーは休載(きゅうさい)した。

 その時の名目(めいもく)たるや(すさ)まじいもので「お姉さんは(くま)を捕まえに、熊本県に行きました」だ。

 熊本県にクマがいてたまるか!



 2つ目の変化だが……こっちのほうも厄介(やっかい)だ。

 マニアックなのだ。


 かつては「なぜ四季があるの?」「どうして海の水はしょっぱいの?」など、基礎(きそ)的な科学知識で対応できた質問ばかりだった。


 だが情報化にともない、子供たちの疑問のレベルは特殊(とくしゅ)化したと言わざるを得ない。いまの時代、日常の疑問など、すぐにネットで検索できてしまう。

 つまり、ネットで調べても出てこなかった疑問ばかりがお姉さんに寄せられるわけで……ああ、なんと難易(なんい)度の高いコーナーになってしまったのか。  

 

 いや、そんなこと愚痴(ぐち)ってる場合じゃない。なんとかしなければ。しかし私にできることは、質問が来るのを待つことだけだ。

 

 出来ることがあるとすれば……


 不正。

 質問を、私自身が送る。水増(みずま)してやるのだ!



 ―――できないのだ。


 そもそもこの質問メールは、子どもたちから直接送られてくるわけではない。


 「こどもたちへ」誌に、アンケートはがきが1冊につき1枚、添付(てんぷ)されている。それに質問を書いて児童文芸信社に送るのだ。

 すなわち出版社がハガキを受け取り、それを編集部がまとめて、私のパソコンにメールしているのだ。質問者と私のあいだを、編集者が仲介(ちゅうかい)している。


 なぜ、ウェブ上で質問を受けつけないのか、と思われるだろう。まったく同感だ。だが、しない。 



「小学生にパソコン、スマートホンを使わせることに反対」


 これが雑誌のカラーだからだ。

 時代錯誤(じだいさくご)と思われるかもしれないが、この精神に共感してくれる保護者がいるからこそ、「こどもたちへ」誌の販売実績は安定していると言える。なのにお姉さんへの質問だけが減少しているのだ。


 失職(しっしょく)―――


 冗談じゃない!

 このまま指をくわえて黙っていられるか!




★ ★ ★


『お姉さんの回答ッ!』


『お豆腐は昔の中国でつくられたんだッ。中国語の「(くさ)る」っていう漢字には、(やわ)らかいものを(かた)めるって意味があるんだよッ。豆を()て、()まして固めるから「豆腐」だねッ』


『納豆は、平安時代に日本のお寺で発明されたんだッ。それで、お寺の台所のことは「納所(なっしょ)」って呼ばれてたんだよッ。納所でつくられたから、納豆って言うんだッ』


★ ★ ★




★ ★ ★


『お姉さんの回答ッ!』


『平安時代の書物に、はじめてコンニャクのことが紹介(しょうかい)されてるんだよッ』


『「蒟蒻(こんにゃく)、その根は白く、灰汁をもって煮れば、すなわち凝成(ぎょうな)す」だってッ』


『コンニャクの根っこは白いよって書いてあるね。つまり、コンニャク(イモ)のことを、コンニャクって呼んでいたんだッ。それがいつの間にか、根っこを煮たものをコンニャク、(いも)のことをコンニャク芋って呼ぶようになったんだねッ』


★ ★ ★




 ふう……

 私は商店街に行き、豆腐屋で仕入(しい)れた知識をそのまま送信した。おかげで木綿(もめん)豆腐と糸こんにゃくを買うハメになった。晩御飯は(なべ)に決まった。


 ぐつぐつ。

 ハフハフ。

 季節外れの寄せ鍋に、私は舌鼓(したつづみ)を打つ。熱い。


 鍋をつつきながらも、私は5分おきにメールボックスをチェックする。質問が来ていないかを確かめずにはいられない……来た!




☆ ☆ ☆


『お姉さんへ』


『僕のお父さんは、しょっちゅう頭が痛いと言って、頭痛薬(ずつうやく)を飲んでいるッテンテン。どうして頭が痛いのに、飲み薬が()くんですかッテンテン? 頭に()るほうがいいと思うッテンテン』


『静岡県 スッテンテンプリンセスくん(8歳)』


☆ ☆ ☆




 育毛剤(いくもうざい)じゃないぞ。ていうか、こいつの父親が頭痛薬を飲んでる理由がよくわかる。気の毒に。


 だがスッテンテンプリンセスのおかげで、残りのノルマは18件……さっそく返信する。


 質問そのものは比較(ひかく)的まともだ。だが薬学は、私の専門中の専門。これでも薬学部を卒業してるんだからな、私は。


 そもそも在学中にクイズ研究会に所属して、テレビ番組で優勝したことがこの仕事をするに(いた)った経緯(いきさつ)だ。薬に関する質問なら大歓迎だ。




★ ★ ★


『お姉さんの回答ッ!』


『頭痛薬はねッ、おなかで()けたあと血液にのって、全身に運ばれるんだ。つまり、体中(からだじゅう)に頭痛薬が(とど)くんだよッ。頭だけに、お薬のちからを効かせることは出来ないんだねッ』


『それが原因(げんいん)で頭以外の、手、足、内臓なんかに届いた成分が、副作用(ふくさよう)っていう体によくない症状も引き出してしまうんだねッ。みんなはお医者さんの言いつけを守って、お薬を飲んでねッ』


★ ★ ★




 送信…………待てよ。


 待て、待て待て待て。


 頭痛薬? 

 副作用? 

 引き出す?


 ―――原因?


「あ、あははははは、あはははははは!」


 出来る。

 出来るぞ、不正が!


 質問を自作できる!

 水増しできる!


 いや、いやいやいや!

 これは不正ではない。

 そうだ、不正じゃないぞ。


 私のほうから子どもたちに、疑問を投げかければいいんだ!

 子どもたちに、質問するように呼びかければいいんだ!


「あははははは、あはあははははは……」

 私の高笑いは、深夜まで続いた。




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イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン



チャッカマン

― 新着の感想 ―
[良い点]  最初から最後まで笑いっぱなしでした。子供の突き抜けた想像力に最初から最後まで振り回される大人たち。読ませて頂けたこと本当に有難かったです。有難う御座います。 [気になる点]  ※気に…
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