第九話 『ウォルメルド空路カンパニー』の設立
更新遅れ気味ですが、一生懸命書いています(;^_^A
空の移動というのは本当に洒落にならないものだった。
何故かというと、エミリアーナ、ダリルドラン夫妻。
けだまとこマリアーヌのお母さんとお父さんであり。
先日ウォルガードと国交を結んで交易が開始されたメルドラード王国の女王陛下と王配殿下だ。
その二人がほぼ毎日、メルドラードの王城をこっそり抜け出しては朝ごはんを一緒に食べているのだ。
けだまも気にしていないのか、寝ぼけまなこで『あ、まま。ぱぱ、おはよ』と二人の前を素通りしてルードの膝にちょこんと乗っかる。
横にいるクロケットが、寝起きで顔を洗ったばかりの、寝ぐせだらけのけだまの髪を、櫛で梳かしてあげると気持ちよさそうにしていた。
ルードの近くに控えるイリスが、けだまに見惚れていたのは言うまでもない。
そんな三人を、朝ごはんを待ちながらエミリアーナ、ダリルドランの二人は嬉しそうに見つめている。
二人の視線を感じたルードは、笑顔で応えることにした。
もうルードは慣れてしまったみたいだ。
食後にエミリアーナが。
「毎日美味しいごはんをありがとうございます。私も夫も少し体重が増えてしまいまして、毎日運動を兼ねてこちらへ──」
「エミリ姉さん。違います。報告じゃなかったんですか?」
「……そうでした。忘れていましたわ……。ルード様」
「はい」
「人材の選別が終わりました。同時にですね、指輪の研究者が決まりまして。明日にでもこちらへ来させようと思うのですが」
「はいっ。是非お願いします」
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翌朝もいつも通り、エミリアーナとダリルドランが玄関に立っていた。
「るーどさま。えみりあーなさまがおみえになりました」
キッチンにいたルードにキャメリアが教えてくれる。
「あ、そういえば、今日からだったよね。うん。今行きます。お姉ちゃん、あとお願いね」
「はいですにゃ」
今日はやっとできたタバサ工房謹製のしょう油が手に入ったのだ。
まだ量産体制には入っていないが、少量をサンプルとして持ってきてくれた。
それで朝から生姜に似た根野菜を使って、魚の煮物を作っている最中だった。
既に味付けは終わっていて、あとは煮あがるのを待つばかり。
仕上げはクロケットに任せて、ルードは玄関に迎えにいくことにした。
玄関に迎えに行くと、ルードの希望に沿った人が来てくれたのだと一目でわかった。
居間に来てもらって、まだ『言語変換の指輪』が用意できていないから、ルードが力で居間を包んでいた。
一人は男性で、身の丈二メートルを超える。
『リューザです。本国では王宮付きの庭師をしていました』
ルードの倍近い大きな手で、庭木をいじくることができるのだという。
同じようにリューザより少し低いのだが、軽く一メートル八十はあるだろうと思われる女性が二人。
『エライダです。王宮で調理を担当していました』
『シュミラナです。同じく調理担当でした』
この三人は、ヒュージドラグナ、ヒュージドラグリーナという、龍の姿のときでは、メルドラードで一番大きな種族らしい。
最後の一人はと思ったのだが、ルードの斜め後ろでキャメリアが固まっていた。
その女性は、キャメリアと同じ真紅の髪を持っているのだが、身長はルードとあまり変わらない。
硬直がやっと解けたキャメリアが。
『お、お、お』
『あら? キャメリアちゃん、元気でしたか?』
『お母様っ!』
『そんなに大声を出さないで。ルード様、娘がお世話になってます。シルヴィネと呼んでくださいね』
「は、はい……」
なんと、背の低い女性。
フレアドラグリーナのシルヴィネは、キャメリアの母親だったのだ。
ここにいるとはキャメリアも思わなかっただろう。
『私がこの指輪の元になるものを作ってたんです。あの高名なフェリス様に師事できるなんて、思ってもみなかったわ。娘共々、よろしくお願いしますね』
「は、はい。よろしくお願いします」
簡単な紹介も終わり、ルードが味付けしてクロケットが仕上げた朝食のおかず。
「ルードちゃん。お煮つけ、最高よっ! 我、ごはん何杯も食べられてしまうわ……」
「あはは。喜んでもらえてよかったです」
「これであの、TKGが食べられるわ」
「てぃーけーじー?」
「卵かけごはんよ。生卵をね、ほかほかごはんの上にかけて、少し割って、しょう油をかけるの。卵の味が濃厚になってね、とても美味しいのよ……」
ルードは卵を生で食べるのはさすがにしたことがなかった。
まぁ最悪お腹を壊しても、治癒の魔法でどうにかなるからと席を立ってキッチンに向かった。
「えっ? ルードちゃん、呆れちゃったの? ごめんなさい……」
イエッタは落ち込んだが。
ルードが小さい器に生卵を持ってきてくれた。
「イエッタお母さん、器貸して」
「は、はいっ」
ルードはイエッタに言われた通り、ほかほかあつあつのごはんに、生卵を乗せる。
それをイエッタの前に置き、しょう油も小さな容器に入れて一緒に置いた。
「本当に美味しいのかなぁ……」
「絶対に美味しいわ」
イエッタは卵を箸で割ると、上からとろりとしょう油を少し垂らす。
軽くかき混ぜて、器用に箸で口の中へ。
すると、満面の笑みで。
「……はぁ。夢見てるみたい……。ルードちゃん、美味しいわ」
食事が終わりさてお茶でもと思ったときだった。
リューザ、エライダ、シュミラナはルードの前に片膝を付き。
『私たち(我々)は、ルード様に忠誠を誓います』と言ってくるのだ。
なんでも、煮魚の味に驚いたらしいのだ。
こんなに美味しいものが毎日食べられるのであれば、本国に戻らず、こちらで骨を埋めたいとまで言い出した。
そこまで言ったのは、リューザだったのだが。
エライダとシュミラナも、こちらで料理を覚えて、本国に伝えたらまた戻ってきますと言う始末。
「あはは。とにかく、僕の手伝いをしてくれるなら、この程度の料理なら、毎日でも大丈夫ですよ」
『よろしくお願いします、ルード様』と声を揃えて三人は応えるのだった。
さて、フェリスが王宮に帰るというので、シルヴィネも一緒について行くことになった。
食事のときにある程度話をしていたのだろう。
シルヴィネも、エミリアーナとほぼ同じ年だということなのだ。
「シルヴィネちゃん。私のことはフェリスちゃんって呼んでね」
『はい。フェリスちゃん。私もシルヴィちゃんって呼んで欲しいです』
「いいわよ。シルヴィちゃん。仲良くしてね」
『こちらこそ、お願いします』
何やら、魔術関連の話で意気投合したらしいのだ。
途中聞こえてきた話は、正直ルードにも理解できないほど難しい話だったのだ。
「じゃ、ルードちゃん。ごちそうさま。またねっ」
「はい。フェリスお母さん」
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ルードは空路を定期便としてできないかをリューザ、エライダとシュミラナの三人と話あっていた。
大量の物資の輸送は可能だが、いずれ人の輸送も考えなければならない。
そんなことの意見を出し合っていたとき。
「ルードちゃん、ルードちゃん」
「ど、どうしたんですか? フェリスお母さん」
「あのね、シルヴィちゃんったら凄いの。『言語変換の指輪』できちゃった。完成しちゃったのよ。ね、シルヴィちゃん」
「はい。まさかこんな考え方があるとは思いませんでした。一つ一つが勉強になります。フェリスちゃんに師事して、ずっと作り続けたいですよ」
「それはそうよ。私が誰だと、思ってるの? ……嬉しかったね。問題が解決したときって」
「えぇ。開発者としてこれ程嬉しいことはありませんね」
複数の指輪の入った袋をフェリスから受け取った。
「じゃ、私たち帰るわ。頑張ってね、じゃ、行きましょ。シルヴィちゃん」
「えぇ」
シルヴィネの身体が瞬間的に光ると、あっという間に飛龍の姿になっていた。
おまけにその指には細く巻き付いたかたちで『言語変換の指輪』が残っているではないか。
かなりの改良が進められたのだろう。
フェリスは真紅の姿。
キャメリアよりは一回り小さめなフレアドラグリーナのシルヴィネにひょいと軽く飛び上がって跨る。
「じゃ、散歩してから帰るわよ、いっけーっ!」
「はいっ」
シルヴィネは、あっという間に飛び去ってしまう。
キャメリアとは違い、その場にホバリングしないで一気に上昇していった。
「凄いよ、ね。キャメリア」
「はい。お母様はちょっと活動的すぎるのが困りものなんですけどね」
そう言うキャメリアの指には新しい指輪が光っていた。
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その日の午後。
「リューザさん。ここで元の姿に戻ってくれる?」
「リューザとお呼びください」
「じゃ、リューザ。お願いね」
「いえ。ここでは少々無理があるかと」
どういう意味だろうか。
ルードは場所を変える。
前にルードが力の鍛錬をしたときに来た森の手前。
「ここならいい?」
「はい。流石に屋敷や町中では」
するとリューザはシルヴィネと同じように瞬間的に飛龍の姿になった。
「……ほぇえええ」
ルードはとにかくリューザの大きさに驚く。
これは予想外だった。
と、同時に、ルードは人の輸送は間違いなく可能だと確信した。
リューザの大きさは、キャメリアのおおよそ倍以上ある。
それに色味が良かった。
リューザたち、ヒュージ種の髪の色は大好きなリーダやフェリスと同じ緑色だったのだ。
ウォルガードを代表する色。
これならいいかも、とルードは思う。
ただ背に座ったとして何人座れるだろう。
ルードが横に三人、いや、四人は座れるくらいだった。
「エライダとシュミラナも同じくらいなの?」
「私たちはもう少し小さいですね」
「えぇ、ドラグナの方と比べるのは無理があるというようなものです」
とりあえず、リューザの背に乗って、飛んでもらうことにした。
エライダとシュミラナはルードと一緒に人の姿で乗ってもらう。
これはあることを考えていたからだった。
「リューザ、もう少し揺れないように飛べる?」
「はい。少々速度は落ちますが、よろしいでしょうか?」
「うん。構わないよ。それでも十分速いと思うし」
「では、揺れに気を付けて飛んでみます」
リューザの背の上での空の散歩は快適だった。
キャメリアが通常飛ぶ速度よりはかなり遅いが、それでも十分な速さだろう。
ただ、困ったことがあった。
やはりルードが思っていたことの通り。
お尻が痛いのだ。
跨るというより、座る感じで背に乗るものだから。
そして、ヒュージドラグナの大きさに比例して、固いのだ。
「これさ、風よけの魔法。どれくらいの高さにできる?」
「そうですね。これくらいの速度であれば、ルード様の身長の倍くらいまでは」
「そっか、ならいけるかも。うん、ありがと。じゃ、戻ろうか」
「はい、かしこまりました」
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ルードが考えたのは乗馬の鞍。
馬車を蔵の形に作り替えて、それを縦に二台並べる長さにする。
そこに簡易的な横に長い座席を作り、二人並んで座れるようにする。
「こんな感じ?」
「うん。ママって絵上手だよね」
「そうかしら? ルードちゃんの頼みだもの。これくらいいくらでも書いちゃうわよ」
ルードはエリス商会に来て、エリスに『こんな感じ』と説明して座席の絵を書いてもらっていた。
出来上がった絵を持って、次には。
「ママ、ありがと。じゃ僕、タバサさんの工房に行ってくるね」
「ルードちゃん、出来上がったら私も乗せてね」
「うん。一緒にシーウェールズに、アルフェお父さんに会いに行こうね」
「えぇ。楽しみにしてるわ」
タバサの工房には、木工関係に強い研究者もいるのだ。
「そうね。ここ、どうするかしらね?」
「はい、工房長。これなら私が作れます」
「そう? ルード君。出来るって」
「本当ですか? なるべく早くお願いできます?」
「では、工房長。二日ほど仕事できませんが、よろしいですか?」
「えぇ。ルード君の頼みだもの。頑張ってね」
「はい。それでは今から取り掛かりますので」
こうして、鞍型の馬車の製造が始まった。
馬車の製造を待つ間、ルードはエライダとシュミラナにあるものを教えていた。
ルードが考案してタバサが開発した、天然酵母のパン作りだった。
メルドラードの主食は現在小麦などを使用したパン。
すぐのすぐに米を伝えられるほど収穫量は多くはない。
あたたかいごはんはエミリアーナもお気に入りなのだが、それよりも驚いたのはこの柔らかいパンだったのだ。
メルドラードでは、比較的身体の大きな女性も多いため、ここはあえてヒュージドラグリーナである彼女らを希望したのだ。
パン作りでは体力が必要。
それに彼女らは王室の料理人。
それなら技術を、天然酵母を交易の一部にしよう、ルードはそう思ったのだ。
塩やこしょうなどの基礎になる調味料はある程度確保できるが、それよりも料理の知識の方がエミリアーナはありがたいと言っている。
「そうです。そのまままとめて一晩置いたのが。こちらに」
ルードは発酵が既に終わっているパンの生地を持ってくる。
それを食べやすい形にまとめて、竈に入れていく。
ちなみにここはタバサの工房。
今、パンを大量に焼いているから、ここで教えたほうのが材料も酵母も揃っているからやりやすい。
窯に入れて暫く待つと、焼きたてのやわらかいパンが出来上がった。
「これは同じ工程で作ったパン生地からできたものです。同じ比率の分量。同じ工程を守れば、あとは焼き加減ですね。そうすれば、全く同じものが焼きあがります。窯の温度は、このフェリスお母さんが作った、温度を測る魔道具を持って行ってもらいます。これは交易品としてメルドラードに提供するつもりでしたので」
「……何の魔法も使わないでこれができるんですね」
「柔らかくて、ほのかに甘いです。これを本国にも伝えてよろしいのですか?」
「えぇ。これは僕たちウォルガードとあなたたちのメルドラードとの、友好の証のひとつになればいいと考えています。あとですね、これに……」
パンを割って、そこにバターと粒あんを挟んで二人に渡した。
「こうすると、主食だけでなく、お菓子にもなるんですよ」
「っ!」
「うわっ、これ。絶対ダメな奴です……」
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パン焼きを教えた次の日、タバサの工房から試作品が仕上がったとの連絡が入った。
ルードたちは現物を見に行く。
そこにあったのは、ルードがお願いしてエリスが書いた絵、そっくりのものが出来上がっていた。
前部分はなるべく風の影響を受けにくいように。
横は人が落ちないように、小窓が各席の両側に設けられている。
こうして準備が整ったことで、ルードは空路の定期便の商会を立ち上げることにした。
名前を『ウォルメルド空路カンパニー』。
ウォルガードとメルドラードから文字を取った商会の名前。
ヘンルーダのいる猫人の村と、タバサの故郷の狼人の村。
そこは既にアルフェルが空路での交易を開始していると聞いていた。
シーウェールズからウォルガードの流通は、孫に会いたいというアルフェルが暫くは自分でやりたいと言っていた。
そのため、ルードはまずメルドラードとエランズリルドとの定期便から開始することにした。
エランズリルドや猫人の村など、シーウェールズにいる家族同然の人たちをウォルガードの自分の屋敷に呼びたいという夢もあったのだが、クロケットがかかってしまった魔力酔いが怖かった。
フェリスに魔力酔いにならないような、取り込んでしまった余計な魔力を消費するような魔道具を作ってもらうことになっている。
なので、屋敷への招待はもう少し先になるだろう。
こうして空路が確保できた。
新しい商会『ウォルメルド空路カンパニー』の最初の空路。
メルドラードへは、ルードとクロケット、エリスとリーダ。
留守番を嫌がったけだまの五人で行くことになったのである。




