第八話 調印式ってこんなもの?
更新が遅くなって申し訳ありません(´・ω・`)
食事も終わり、あらかた片付けも終わるとデザートの時間になった。
キャメリアの入れてくれたお茶を飲んで、ほっと一息。
すると、いつものが始まった。
「ルードちゃん」
「はい?」
「プーリーン、プーリーン」
「はいはい……。キャメリア、持ってきてくれる? あれも一緒に」
「かしこまりました」
キャメリアは片付け中の侍女たちに指示を終えるとルードの傍に戻ってきていた。
基本的にイリスとキャメリアがルードとクロケットの世話を焼いている。
イリスは実務方面、キャメリアは生活の面で。
食事を終えたイリスはルードの代わりにけだまを抱いていた。
もうメロメロ状態で、今の状態のイリスは正直使い物にならない。
普段仕事で忙しく動いてくれているから、こういうときはイリスの好きなようにさせている。
けだまも最近イリスにも懐いているようだったから。
屋敷で寛いでいるイリスが使い物にならない反面、キャメリアが一生懸命動いてくれる。
さっきあった『あれ』だけでルードが何を求めているか、推測できてしまうほどに。
キャメリアがキッチンから持ってきたのは大きなボールに入ったプリンと、もうひとつボールに入った白い液状のもの。
「べんきょうさせていただきます」
「キャメリアも大げさだなぁ」
「ですにゃね……」
ルードとクロケットは見つめ合ってちょっと苦笑い。
大きなお玉でクロケットがボールから小さな器にプリンを取り分ける。
ルードの前に置くと、キャメリアは少量の砂糖を入れた。
ルードは魔法を使うべく、目を閉じて準備する。
どう発動させるか、イメージを膨らませているのだ。
ボールの中の純白の液状のものを攪拌しながら、空気を混ぜてふわっとさせていく。
「こんなもんでいいかな」
ルードはおたまでそれを掬うと、プリンの上にどっさり乗せた。
じっと見ていたイエッタがたまらずルードに聞いた。
「ルードちゃん、それ、もしかして」
「うん、生クリームだよ。さっきね、タバサさんから量産体制に入ったからって届けてもらったらしいんだ」
「それじゃ、プリンアラモードじゃないのっ!」
「ぷりんあらもーど? よくわかんないけど。んー、……僕の知識では果物とかを一緒に盛るってあるよ」
「いいのよ。間違いなく美味しいはずよっ。生クリームをプリンに乗せてもいいんだけど、パンに塗っても美味しいわね。どうしましょう。夢が膨らむわ……。ということは、バターも?」
「うん、まだ少量だけどね」
「凄いわ。小麦粉と重曹と卵黄、砂糖を入れて焼くだけでパンケーキができるわよ。それに生クリームを挟んで……。いえ、あんを挟んでどら焼きみたいにしても、それに生クリームを。いいえ、あんとバター。あんバターよ。凄いわ、これは凄いことよ……」
イエッタは、もはや完全にトリップしてしまっていた。
ルードはイエッタの食べ物への執着心に驚きながら、なるべく再現して楽しませてあげたいと思っている。
イエッタが妄想を口にしていたことを、しっかりとキャメリアはメモをとっていた。
強かというか、そつがない侍女長だった。
目の前に置かれた、ダリルドランが先に食べてしまったウォルガード産のプリン。
それがグレードアップしてのお目見えだ。
ひと口食べてみる。
どんなに楽しい娯楽があったとしても、プリン以下だろう。
これはもう『人を駄目にする食べ物』だとエミリアーナは思った。
これを取り上げられたら、どんな無理難題でも受け入れてしまうかもしれない。
それだけ、危険な食べ物に思えてしまった。
「これは駄目だわ。絶対にダメになっちゃう……」
エミリアーナは生クリームたっぷりのプリンを用意された大きめの匙に半分半分の割合で掬って口に入れる。
その匙を咥えて頬に手を当て、蕩けそうな表情で呟いたつもりがかなり大きな声をだしていたのに気づいていない。
そのとき、イリスの膝の上にいたけだまがやっと気づいた。
「あれ? ままがいる……?」
今まで全く気づいてもらえなかったエミリアーナを、フェリスとイエッタは少し不憫に思ってしまった。
ただ、そんなことより生クリーム乗せプリンの至福の瞬間から彼女は戻ってきていないのがせめてもの救いだったかもしれない。
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「遅くなりました。私はメルドラード国女王のエミリアーナ・メルドラードと申します。こちらでお世話になっています、マリアーヌの母でございます。この度は、わが国と皆さまの国、ウォルガードとの国交を結んでいただけるとのことで、お邪魔させていただきました」
今までルードとクロケット、フェリスくらいしかエミリアーナの存在をしらなかったはずだ。
もちろん、イエッタは、ルードの瞳を通じての情報で知っていただろう。
きっとフェリスの知り合いがお昼に招待されたのだろう、と皆思っていたのかもしれない。
国交締結の調印に向けて、話し合いをすることになったのだが。
その場所は元リーダの屋敷。
現、ルードの屋敷のお茶の間。
この場に残ったのは、フェリス、イエッタ、リーダ、ルード、クロケットの五人。
けだまはイリスと一緒に庭で遊んでいる。
お願いされたイリスの表情はとても嬉しそうだったのは、触れないでおいた方がいいかもしれない。
フェリスが最初に口を開いた。
「エミリアーナちゃんの国と国交を結んで欲しいって、ルードちゃんに頼まれたのが発端なんだけど。私個人がエミリアーナちゃんを気に入ったから、国交を結ぶことに対しては賛成なのよ。でもね、エミリアーナちゃん」
「はい」
「あくまでも『ルードちゃんにお願いされたから』なの。だから、ルードちゃんを裏切ったら許さないからね?」
「は、はい。ルード様と末永く仲良くしていただけるように努力いたします」
そんなフェリスにイエッタがツッコミを入れた。
「大丈夫ですよ、エミリアーナちゃん。我はルードちゃんの目を通じてあなたの姿を見させていただきました。信頼に足る女王陛下だと思っています。それにですね、我は知っているのですよ。フェリスちゃんが『エミリアーナちゃん』とあなたを呼ぶのは、信頼の証だということをですね」
「ちょ、ちょっとイエッタちゃん。バラさないでちょうだい」
フェリスは頬を赤らめ、少し恥ずかしそうに拗ねているような表情をしていた。
さすがは『瞳のイエッタ』と言われるくらいだ。
すでにエミリアーナの人となりを知り尽くしていたのだ。
だからこうしてフォローを入れたのだろう。
「あとはルードちゃんとの話し合いね。私は見させてもらうだけにするわ。ルードちゃん、条件の調整は任せるわよ。あなたは王太子になるんですからね」
ルードは背筋を正し、フェリスに向かって真剣な眼差しを向ける。
「はい。フェリスお母さんの期待に背かないように頑張ります」
「いいわ、可愛いわね。そうでしょう、イエッタちゃん。エミリアーナちゃん」
「えぇ。我は前から知っていましたよ。ルードちゃんはできる子だって」
「そうですね。マリアーヌが懐くのも分かるような気がします」
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国交を結ぶにあたって、条件の調整を始めることになった。
もちろん、さっきと同じお茶の間会談になるのだが。
ルードの正面にはエミリアーナが座り、少し離れたところにイエッタとフェリスが様子を見ている。
ルードの右にはリーダ、左にはクロケットが座っている。
場所が場所だけに、かなりリラックスした話し合いになるのだろう。
まずはまだ挨拶を終えていない、リーダが挨拶をする。
「初めまして、けだまちゃんのお母さん。わたしはルードの母のひとり、この国の元王女のフェルリーダと申します」
「はい、いつもマリアーヌがお世話になっています」
「いえ、ルードといずれ娘になるクロケットちゃんこそ、いつも仲良くしてもらっていて助かっています。さてわたしは、わたしの都合でこの国の王位を継ぐことができませんでした。そのせいで息子にその責務を負わせることになってしまいました」
「はい……」
「わたしはルードが望むことであれば、全力で背中を押します。この度の国交締結も、ルードが望むことでした。ウォルガードは長年、その種族的奢りにより他種族との交流を避けてきました。わたしの母のひとりであるフェリス母さんが、他種族との交流なくしてウォルガードはいずれ衰退してしまうと昔から唱えてきました。それはわたしもルードのおかげでそう思うようになったのです」
「はい」
「ルードはわたしの命より大事な息子です。ですので、エミリアーナ様にもルードの願いを聞き入れてほしいと思っています」
「はい。誠心誠意、応えようと思っています」
「よろしくお願いいたします」
「はい。ご丁寧にありがとうございます」
けだまの母、ルードの母として正直な挨拶が終わったように見える。
ルードは少し涙ぐんでいたが、クロケットが気づいて目元を拭いてくれた。
皆に笑顔を見せて、ルードが口を開いた。
「僕は、けだまの生まれた国なので、仲良くしたい。それが始まりでした」
「はい。私もそう思います」
「僕はけだまの生まれた国、メルドラードと定期的な交易が結べたらいいと思っています。それを可能にするために、僕は空路を開拓しようと思っているのです」
「はい」
「ですので、僕がエミリアーナさんに望むのは、人材の提供なのです」
「はい。前向きに検討させていただきます。ルード様の求める人材を選別し、全力でお手伝いさせていただこうと思っています」
「ありがとうございます。さて、ウォルガードの王太子となる僕に望むことは何でしょうか?」
「はい。私はこの指輪をお借りさせていただいてから、物の見方が若干変わってきたのです」
「はい」
「私たちメルドラードの者も、あなたたちウォルガードと同じでした。言葉の壁により、他国との交流をしたくてもできない状況が長年続いていたのです」
「はい」
「私たちの国でとれる資源は無限ではありません。今は大丈夫なのかもしれませんが、マリアーヌの世代になったとき、今と同じ状態であるかどうかわからないのです」
「はい」
エミリアーナはここが正念場だと思っただろう。
ひとつ深呼吸をして言葉を続けた。
「この指輪のおかげで、食への概念が変わったのです。恥ずかしい話ですが、元の姿で、ルード様に作っていただいたバケツに入ったプリン、ございましたよね?」
「えぇ」
「あれを全部食べたのですが」
「全部ですか……」
「はい。とてもおいしゅうございました。それなのに、満足感が得られなかったのです。ですが、この姿で、先ほど昼食をいただいたあと、元の姿の一部の量しか食べていないにもかかわらず、満足感が得られたのです。それは口や舌の形状や大きさ、胃の大きさもあるのでしょうが。とても繊細な味わいを楽しむことができているのです。食べるということは生きるために、ただ必要な行為でしかありませんでした。それを今は、この姿になれたことによって、食べる楽しみを感じることにより、少量でも満足感、満腹感を味わえることができたのです」
「それはよかった、と思います」
「はい。ですので、この姿であれば、わが国の資源が枯渇する心配がなくなると思います。それと同時に、今までただ消費していたものを交易に回すこともできるはずなのです。私からルード様に望むことは、二つございます。ひとつはこの指輪の製法です。もし製法をお教え願えないのであれば、ルード様が望む人材との交換としていただければいいと考えています。もうひとつは、調理方法の伝授と定期的な塩などの調味料。その交易です」
「調理方法は教えられます。調味料などは任せてください。ですが、指輪に関しては、フェリスお母さん」
ルードはフェリスに伺いを立てる。
フェリスは『やっと私の出番ね』という感じにエミリアーナの横に座った。
「指輪でしょう? いいわよ」
「はい?」
「だーかーら。教えてあげるわ。その代わり、わかってるわよね?」
「はい。人と話せるようになるからといって、ルード様を蔑ろにすることはございません。フェリス様──」
「違うでしょ? フェリスちゃんよ」
「……フェリス、ちゃんと、イエッタ、ちゃん、そしてフェルリーダ様にも誓わせていただきます。我が国メルドラードはウォルガード意外と国交、交易を結ぶことはございません。このご縁を無くすなど、考えられませんから」
「いいでしょ。指輪を作れる子を連れてくるといいわ。私の持てる技術を教えてあげる。それでいいかしら?」
「はい。十分でございます」
リーダもクロケットも、イエッタもルードを立ててくれたことに満足していた。
「よかったですにゃね、ルードちゃん」
「うん。そうだねお姉ちゃん」
こうして国交締結に向けたお茶の間会談は終わりを迎えた。
その後、翌日には国交締結の調印が行われたのだが。
調印に関してはフェリスは行わない。
現女王であるフェリシアとエミリアーナの間に行われることになった。
「初めまして、フェルリーダの母、フェリスお母さんの娘のフェリシアと申します」
「初めまして。メルドラード王国女王、そしてマリアーヌの母のエミリアーナと申します」
「すみませんね、こんな場所での調印になってしまって」
「いえ。朝食までご馳走になってしまいましたので、贅沢は申しません」
「そうですよね。ルードちゃんとクロケットちゃんのごはん、美味しいですものね」
「はい。とても美味しかったですわ」
調印式はもちろん、ルードの屋敷のお茶の間で行われた。
共にサインをして、魔道具である用紙に二人同時に魔力を流した。
すると、調印の終わった用紙が二枚の金属の板に変わった。
きっとフェリスが作ったのだろう。
一枚はフェリシアが、一枚はエミリアーナが保管することになった。
調印を終えたことで、フェリスが今後のことを話した。
交易に関してはルードが全責任を負うこと。
その際、フェリスとフェリシアがまだ王太子となっていないルードの後ろ盾となる。
リーダはエリスと一緒にルードを支えること。
『龍人化の指輪』と命名された指輪は、作り方を教えるから早急に人材を寄こしてほしい。
『言語変換の指輪』は教えない。
理由は『まだ完成してないから』だそうだ。
要はフェリスのプライドの問題なのだろう。
▼
無事調印も終わり、エミリアーナがメルドラードに帰ることとなった。
フェリスは布の袋をエミリアーナに『おみやげ』と言って渡した。
そこには、まるで金貨が山ほど入っているかのように、沢山の『龍人化の指輪』が入っていたのだ。
エミリアーナがお礼を言うと、フェリスは照れながらさっさと逃げてしまった。
エミリアーナはけだまとの別れも終えて、ルードと向き合った。
「この度は本当にありがとうございました。マリアーヌも元気に成長していて安心しています。これからもマリアーヌ、いえ、けだまをよろしくお願いいたします」
「はい。あの」
「何でしょうか?」
「キャメロットさんとヘレリナさんには、キャメリアが簡単な料理を教えてくれたそうです」
「それは本当ですか?」
「はい。結構きつく教えられたみたいで、大丈夫だったか心配なんですけどね。ほら、キャメリアは真面目過ぎて」
「えぇ。そうですね。よく知っています」
「エミリアーナさん。また遊びに来てくださいね。今度はダリルドランさんと一緒に」
「よろしいのですか?」
「はい。いつでも歓迎しますよ」
こうしてエミリアーナは帰国していった。
ウォルガードの空に悠然と舞い上がるエミリアーナを乗せたフレアドラグリーナのキャメロット。
その後ろからこちらを一度見て、一度旋回してから後ろをついていくホワイトドラグリーナのヘレリナ。
慌ただしい二日だったが、ルードの夢に一歩近づいたのだ。
二人の飛龍はすぐに見えなくなっていった。
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翌日。
寝坊して朝食の時間に遅れてきたルードが見たものは。
「おはようございます。お邪魔してますわ」
「申し訳ありません。お邪魔させていただきました」
「ぱぱ、まま。おいしいでしょ?」
「そうね、マリアーヌ」
「そうだね、マリアーヌ」
なんと、朝から乱入していたエミリアーナとダリルドランの夫婦であった。
ルードは。
「えっ? えぇええええええっ?」
「にゃはははは」
驚くしかなかった。




