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プロローグ。

四章再開です。

ゆっくりになりますが、よろしくお願いします。

 人間や獣人の住む場所から遠く離れた飛龍の住む国、メルドラード。

 けだまというあだ名のつけられたマリアーヌ。

 この子はメルドラードの女王の娘。

 王女ということになる。

 ルードとクロケットが偶然助けて、しばしの間楽しい生活を送った。

 どんな楽しい時間にも別れのときが必ず来る。

 意を決して、親元に帰そうとちょっと反則的な方法で母親を見つけた。

 それが女王のエミリアーナだったのだ。


 けだまが言った『ごはん、おいしくないから、いや』。

 その一言も原因のひとつではあったが、外の世界をしっかりと見せてあげたいというエミリアーナの希望もあり、ルードたちに再び預けることになった。

 メルドラードは飛龍の国。

 けだまとの会話が難ありだったことからわかってはいたが、言葉の壁があって他国との交易が全くできない状態だったのだ。

 メルドラードは山間部にある国。

 岩塩もほとんど取れないことから、慢性的な『味不足』に陥っていたのだ。

 そこでルードは自分の素性を明かしたうえで、交易を結ばないかと提案する。

 女王エミリアーナは強国であるウォルガードとの縁を結べるのであればと快諾してくれた。

 言葉と姿の問題があったのだが、フェリスが解決してしまう。

 そうしてキャメリアを始めとした三人のドラグリーナを、ルードは預かることとなった。


 ルードたちが新しい家族になる二人を連れて、シーウェールズに戻ってから数日が経った。

 アミライルもラリーズニアも人間の姿にやっと慣れたようで、ラリーズニアはタバサの工房を手伝い、アミライルはエリス商会を手伝うことになった。


 ルードが見る限り、言葉が通じるようになって、けだまは本当の家族のようになった気がする。

 クロケットが料理をするときはルードが膝の上に抱き、そうでないときはクロケットの後ろをついて回る。

 時折リーダが抱いていたり、イエッタの膝の上で寝ていたり。

 エリスに至っては彼女の動かす尻尾を追って、けだまが遊んでいたりするのだ。


 クレアーナとキャメリアは『侍女はこうあるべき』のような話で盛り上がっているのを見ることがある。

 仕えるもの同士という親近感があるのだろうか。

 たまに二人が姉妹ではないかと思ってしまうときだってあるのだ。


 タバサにウォルガードのことを話すと、凄く乗り気のようだった。

 研究職としての仲間が増えるのが嬉しいのだろう。

 彼女は『あたし、ウォルガードに行くわ』と即答してくれた。


 エリスは『私がいないと商会の立ち上げなんてできないでしょ? それにね、ルードちゃんがいるところが私のいるところなのよ。あなたのいない生活なんて、もう考えられないわ』と言ってくれた。

 まだ見ぬ強国でもあり、大国でもあるウォルガードで自分の商人としての力がどこまでいけるのか。

 それを確かめたいのが本音なのだろう。


 リーダはこちらに残る人たちが心配だったのだが、一度キャメリアの本気の飛行を体験してから考え方が変わったようだ。

 ウォルガードからシーウェールズ、エランズリルドあたりであれば、何があっても駆けつけることができる。

 それにイエッタの力で何が起きているかが手に取るようにわかることから、とりあえずは安心してウォルガードに行けると思ったのだろう。


 イエッタはさらに美味しいものが食べられるのと、フェリスとの約束もある。

 まだ読み終わっていない書物も沢山あることから、ウォルガード行は二つ返事で決まってしまった。


 そこで困ったのが、アルフェルとローズだった。

 特にアルフェルはマイルスたちが心配だからとシーウェールズに残る決意をしたようなのだ。

 マイルスはミケーリエルと離れるわけにはいかない。

 主であるルードと離れたくはないと言ってはいたが、ミケーリエル、ミケーラ、ミケルと離れて暮らすことは難しいだろう。

 リカルドとシモンズもここでの生活が成り立ってしまったため、マイルスと共に残りたいと言っていた。

 そこで、アミライルがこちらに残ることになったのだ。

 彼女は思ったよりもアルフェルとローズに懐いていた。

 二人もエリスの妹のような感じで接してくれていたのだ。

 もちろんアミライルも荷物を『隠す』ことができる。

 だからこそ、アルフェルの元で手伝いをしたいとルードに願ったのだ。

 ルードは『僕からこそ、アルフェルお父さんとローズお母さんをお願いね』と笑顔で応えた。

 アルフェルもアミライルの力を借りてシーウェールズを起点とした交易を続けていくつもりらしい。


 ▼


 アルフェルとローズは商会の建物の二階に住んでいたのだが、今回、ルードたちの住んでいた家に移ることに決めたのだった。

 アミライルも一緒に住むことになるので、商会の二階では手狭になってしまう。

 それに誰が戻ってきてもゆっくりできる場所は必要だということもあった。


 慌てないペースで引っ越しの準備を始めることになったのだが、ルードとクロケットはやることがなくなってしまった。

 それもそのはず、あまりにもキャメリアたちの手際が良すぎて、下手に手を出すと『ルード様とクロケット様はそちらでお茶を飲んでゆっくりしていてください』と怒られてしまうのだ。


 仕方なくルードとクロケットは、タバサの工房から天然酵母を持ってミケーリエル亭に来ていた。

 もちろん、やわらかいパンの焼き方を伝授するため。


「そうです。そうして寝かせておくとこうなるんです」


 ルードはあらかじめ発酵の終わっている生地を持ってきていた。

 それをミケーリエルに渡した。


「これを好きな大きさに分けて焼くわけですね?」

「はい。とにかく焼いてください。これは僕じゃなくお姉ちゃんが作った生地です。ミケーリエルさんがさっき作った手順で間違いなくでき上がるはずですから」

「た、大変でしたにゃ……」


 クロケットは覚えるまで本当に苦労したのだ。

 もちろん今回、ルードは説明だけ。

 クロケットが手本を見せて、それを真似るかたちで教えているのだ。


 パンが焼きあがる頃合いになった。


「そろそろいいと思います。窯から出してみてください」

「わぁ、いい匂いがするね、ルードお兄ちゃん」

「そうね。美味しそうね。ほら、ミケル。手、洗ってきてしまいましょう」

「うん。お姉ちゃん」


 少しだけお姉さんになったミケーラはミケルに手洗いを促す。

 二人はキッチンのシンクで手を洗い始めた。

 それは焼きたてのパンを試食するためなのだろう。


 ミケーリエルが汗だくでパンを窯から出す。

 少しだけ焦げた感じがするが、それは糖分が多いからかもしれない。

 クロケットに焼けたパンの具合を見てもらう。

 ちょっとだけちぎって口に入れる。


「うにゃ。いい感じですにゃ。ルードちゃん、どう?」


 ルードに『あーん』させて食べさせる。


「うん。大丈夫だと思うよ。よく焼けてる」

「やりましたにゃ、ミケーさん」


 クロケットはミケーリエルのことをこう呼んでいるようだ。


「はい。私でもできました。ミケーラ、ミケル。食べましょうか」

「やたー」

「ほら、ルードお兄ちゃんとクロケットお姉ちゃんに笑われちゃうよ」

「う、うん……」


 朝早くから生地作りをし始めて、やっとパンが焼けた。

 宿の仕事をしながら長い間かかって焼いたパンは感慨深いものがあっただろう。

 今は数名の従業員もいるからある程度時間に余裕があるとはいえ、キッチンを占有してしまうのは辛いものがある。


 行儀よくテーブルについて大人しく待っている姉弟。

 焼きたてのパンを皿に盛って持ってくるミケーリエル。

 彼女は料理の腕はルードも認めるくらいに確かなものを持っている。

 パンも焼いたことがあると言っていたからそれほど心配はしていなかった。


「じゃ、いただきましょう」

「いただきます」

「いただきまーす」


 そのままかじりついた姉弟。

 目を丸くして驚いていた。


「ふわふわだー」

「うん。もちもちしてて柔らかい」

「美味しいね、お姉ちゃん」

「そうね。美味しい……」


 二人の笑顔を見てからミケーリエルも食べてみた。

 今までのパンとは正反対。

 ほとんど噛む必要がないくらいに柔らかくてほのかに甘い。

 ルードは驚いている親子に鞄から瓶を二つ取り出して。


「これで驚いてちゃ駄目だよ。ミケーリエルさん、これがこれの作り方です」


 取り出しましたる瓶の中身は、赤とオレンジ色のジャム。


「ミケーラちゃん。ミケル君。これを塗ったらもっと美味しくにゃりますにゃ」


 クロケットは二人のかじったところにジャムを塗ってあげる。


「はい、どうぞですにゃ」


 ミケーラとミケルはいっせいにかじった。


「「んーーーーーーーっ!」」


 もう、二人の表情が全てを物語っていた。

 ふたりともかじった場所をクロケットに差し出して『塗って』という目をしている。

 ここはどっさりと塗ってあげる。

 またかじって、声にならない声をあげる。


「こうして甘いものを間に挟んでもいいですし、肉とか野菜とかを味付けして挟んでも美味しくなるんです」

「これ、今までのパン、食べられなくなりますね……」

「そうですにゃ。もう、固いのは嫌ですにゃ」


 その後、ルードは酵母の増やし方を教えた。

 十本くらいの瓶をミケーリエルに渡して、他言無用を約束してもらう。


「ルード君。このパン、他のパンを作ってる人には」

「はい。教えません。もし、誰かが作ってしまうまで秘密にするつもりです。これは僕が考えたものですから、お金を積まれても教えませんよ。ここに食べに来るか、買いに来ればいいんですから」

「それでは、なぜ私に?」


 そこはクロケットが答える。


「ミケーさんは家族だからですにゃ」

「うん」


 家族と言われて、嬉しかったのだろう。

 ミケーリエルの目にうっすらと涙が浮かんできていた。


「僕たちは近いうちにウォルガードへ移り住みます。もちろん、これからも僕は新しいものを作ります。広めてもいいものはすべてアルフェルお父さんを通じて、マイルスさんにお願いして持ってきてもらいますよ。いつまでもシーウェールズでは、ここが僕の作ったものの発信基地なんです」

「……ありがとうございます。主人も喜ぶと思います」

「お母さん、泣いちゃ駄目」

「そうよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんに笑われちゃうよ?」

「そうね。お母さん、頑張るわ」


 ▼


 パンの焼き方を教え終わったルードとクロケット。

 ちょっとだけ時間を持て余してしまったため、海岸を散歩していた。


「そういえばさ、初めてここに来たときが、この海岸だったよね」

「そうですにゃね」

「そのとき、お姉ちゃん……」

「や、やめてくさいにゃ。あれは油断していただけですにゃっ!」

「あははは。僕も調子に乗りすぎちゃったんだ、あのときはごめんね」

「ううん。違いますにゃ。わたしがルードちゃんを煽ったからですにゃ」


 二人がそうしてじゃれあっているときに、海面から変な音が聞こえた。

 それは何かが飛び込むような音だった。

 ルードはこの冷たい海に人が泳いでいるのに気づく。

 ルードだって泳ぎたくないくらい海水温は冷たいはず。

 事故かもしれないと思ったルードは波打ち際へ走っていく。

 だが、近づけば近づくほど、その人は力強く泳いでいるようにしか見えない。

 ルードたちはしばし時間を忘れ、その美しい泳ぎをしている女性に見惚れてしまっていた。


「あ、もしかして人魚さんかな?」

「にんぎょ? ですかにゃ?」

「うん。海の獣人さんみたいな感じかな」

「うにゃぁ。それはまた凄いですにゃ……」


 という感じで二人で話し込んでいると。


「いいえ、獣人ではありませんよ。私はネレイドと言って……、あら? ルード様とクロケットさんではありませんか?」

「あれ? どこかで聞いたことがあるような……」

「ですにゃ……」

「お忘れだなんて、酷いですわ。私です。レアリエールですわ」


 海から滑るように飛び出すと、岩場の上に乗っていた。

 そこに腰掛けるようにしている彼女は、間違いなくレアリエールだった。

 ただ、彼女には驚くほどの違和感があった。

 彼女の腰から下の部分。

 足があったはずの場所にルードが知っているような、人魚にそっくりの下半身がある。

 虹色に光るきめの細かい、美し気な鱗に覆われた足であるはずの部分。

 よく見ると足を揃えたシルエットにも見えなくもない。

 綺麗な羽衣のようにも見える、足首から先にあるのは足ひれだろうか。

 骨盤あたりからも両側に二本、ひれのようなものが伸びている。

 耳が少し長くて、上半身はビスチェのような水着の上だろうか。

 それはまるでおとぎ話の人魚姫のようだった。


「あれ? レアリエールさん、人間じゃなかったの?」

「えぇ、私と母はネレイド。父と弟はネプラスという海洋種族ですよ。言っていませんでした?」

「「聞いてません(ですにゃ)」」


 獣人やその他の種族と調和の取れている国のはずだ。

 王家の人は人間ではなく、海洋種族だったのだ。


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