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フェンリル母さんとあったかご飯 ~異世界もふもふ生活~  作者: はらくろ
第六章 海を越えた東の空の下。
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エピローグ ~穏やかな人ほど、怒らせると怖い~

 ルードの目に映ったのその姿。

 灰色みを帯びた金髪(アッシュブロンド)の長い髪を三つ編みにして肩口に流し、その頭頂部には同じ髪色の毛の生えた耳を。

 腰の後ろから見える、耳と同じ毛質の長いふさふさした尻尾を携える。


 どこからどう見ても、彼女のシルエットは、錬金術師のタバサそっくりの狼人族。

 逆光になっていたから顔が見えなかったが、目が慣れるとそこには見覚えのある女性の輪郭があった。


 彼女の瞳が伝えるのは、『やっと逢えた』という安堵感。よく見ると、リーダとエリスに何となく似ているのだが、知っている匂いが全く感じられない。


「あれ? あれ? もしかして、母さん?」


 髪の色と瞳の色が違うと、ここまで印象が変わるものなのか?

 変装しているのは予想していたが、ここまでリーダ本人と見た目が違っているとは思っていなかった。


「あ、ごめんなさいね。わたし、偽装していたんだったわ」

「ルードちゃん。この人が、そう、なのですね?」

「あ、はい。オリヴィアお母さん」


 リーダは、ルードの肩口から両腕でぎゅっと抱きしめる。

 オリヴィアは、ルードの肩から腕に逃げるように回り込む。


 リーダはルードの頭に顔を埋める。

 その仕草は、間違いなくリーダだった。


「――んーっ。これよこれ久しぶり。ほんっと、気力が湧いてくるわぁ」

「僕の母さんです。母さん、この人が、お姉ちゃんのお婆さんで、オリヴィアお母さんです」

「あら? あらあらあら? ……んー? それなら、ヘンルーダのお母様ということ? まさか、生きていらしたのですか?」

「えぇ。ルードちゃんに助られたのですよぉ」

「わたし、ルードの母で――」

「知ってますよぉ。フェルリーダちゃん、ですよねぇ?」

「そんな、『ちゃん』づけされる歳じゃ、ありませんって……」


 照れるリーダ。

 そんなリーダを見てなのか? 


「「フェ?」」


 今まで、突然現れたリーダと、これまでのやりとりを、うどんを食べつつ聞いていたリンゼとリエルの二人は目を丸くして驚きつつ、声に詰まってしまう。


「「フェ?」」


 ルードとリーダは二人の声に合わせて、一緒に振り向く。


「「フェルリーダ?」」

「…………」


 驚く二人を見てリーダもまた、声を失う。

 そうしながらも、歴戦の二人。

 目を見合わせて、頷き合うと、残っていたうどんをかっこみ、出汁を飲み干す。

 『ごちそうさま』と声を揃えて笑顔で言うと、椅子から立ち上がり、くるりと回れ右。彼女たちは今にも走り出そうとしていた。


「あ、はい。お粗末様です――ってあれ? あ、やっぱり僕の伯母様だっ――」


 ルードはやはり二人が、自分の伯母たちだと思って声をかけるが。


「ルード、『動かないように』お願いしてっ!」

「あ、うん」


 ルードはリーダに言われたように、右目を右手のひらで覆う。

 何度となく繰り返したこの動作。

 慣れたように、左目の奥の白い色に魔力を流す。

 あっという間に目の前にいる、リンゼとリエルを白い靄で覆ってしまった。


『動かないでくださいね? リンゼ伯母様、リエル伯母様』


 そう、最高の笑顔でお願いした。

 さすがの二人も、この情報は掴んでいなかったのだろう。

 逃げようとして、片足を勢いよく蹴ろうとしたその格好で、固まってしまっていた。


「ルード、偉いわ。ありがとう。……さーて、どうしてくれようかしらん?」


 氷のような、リーダの笑顔は凄く怖かった。


 ▼


 ルードの前に、ウォルガード王国の第一王女、第二王女、第三王女が揃っていた。

 もちろん、そう説明を受けた、周りにいる冒険者たちも驚いている。

 それは、リンゼとリエルが、ウルラと並ぶ、最上級の冒険者でもあったからなのだろう。


 同じ席にオブザーバーとして同席しているウルラも、海の向こうにある大国の王女三人がいると思うと、何かやりにくそうにしている。

 平然としていたのは、ルードとオリヴィア。

 あとは、後ろに控えるキャメリアくらいだっただろう。


「リンゼお姉さんと、リエルお姉さん。双子だったんですね?」


 ついさっきリンゼがお願いしたからか。

 ルードは二人を『伯母様』と呼ぶのをやめた。


 リエルは『伯母様』と呼ばれるのを喜んではいたが、リンゼはそうではなかった。

 リーダよりどれだけ年上かは知らないが、リーダの義妹でもあるイリスと同じ意味合いと同じなのかもしれない。


 ルードはリーダから、二人の姉がいるとしか聞いていなかった。

 確かに見た目もリーダそっくり。ただこう、並んでみると、リーダの方が年上に見えてしまうのである。


 ただ、フェリスから受けていた『魔法制御の習得具合による容姿の固定について』で、ある程度理解はしていた。

 リーダは魔法が大の苦手だが、リンゼとリエルは得意なのだろう。

 だから、リーダの方が年上に見えてしまう。実に納得できる理由だった。


「えぇ。そうよ。でもね、私はリエルより数分早かっただけなのよね」

「いいえ。数分とはいえ、わたくしは姉様の妹ですので」

「ほら、そうやってすぐに逃げようとする」

「いいえぇ。姉様だって、わたくしに何もかも押しつけて――」

「わたしに『戻るまでお願いね』と残し、外遊に出たまま百年以上戻らなかった姉様たちが、今更何をどの口でおっしゃるのでしょうか?」


 言い争いというか、姉妹喧嘩というか。

 そんな二人に厳しいツッコミを入れるリーダ。


「あー、うん。それはそれよ。ねぇ? リエル」

「え? わたくしは戻ろうと言ったのですよ? 姉様」

「――はぁ……」


 仲の良い姉妹なのだが、すぐに言い争いをしようとする二人。

 仲が良いからこそ、姉妹喧嘩を始めてしまうのは仕方のないことだろう。

 リーダはついため息をついてしまった。


「こほん」


 リーダが咳払いをひとつ。これはまずいと思ったのだろう。


「「ごめんなさい」」


 リンゼもリエルも、平謝りをする。

 ルードとの出会いから、これまでのことをリーダは、二人に詳しく説明をした。


「フェルリーダ。その、なんだ」

「何です? リンゼ姉様」

「あの男、消してこようか?」


 おそらくは、ルードの兄フェムルードの父親であり、イリスの兄であった、あの男のことを言っているのだろう。


「大丈夫よ。ルードが全部やり返してくれたの。フェリスお母さまがね――」


 あのときにあったことを気持ちよさそうにぶちまける。

 それはもう、痛快に。そんなリーダの表情は、実にすっきりしたものだった。


「それにあの子はね、今もルードの中にいるの。もちろん、ルードの双子の弟、エルシードちゃんもね。並んで両目の裏にいるのよ? こうして抱いているとね、まるで三つ子の男の子がね、わたしの腕の中にいるようなものなの。ね? 可愛らしいでしょう?」

「えぇ。本当に。わたくしたちに、甥ができていたなんて、思ってもいなかったですよね? 姉様」

「あぁ、うん。可愛い甥っ子だね。目元なんて、リーダそっくりだし」

「くくくく……。あはははは。(なーに)が甥っ子だよ。そのルード君に『伯母様』って呼ばれて、嬉しいけど物凄く微妙な顔してたのは、どこの誰だい? なぁ? お・ば・さ・ま」

「うるさい黙れおばさん」


 獣同士が覇権を争うかのように、額をぴたりと付け合わせてにらみ合う。

 そんなウルラとリンゼは旧知の仲なのだろう。リエルも呆れて、苦笑していた。


「そうそうそれはそれとして。何よあのずるい能力(ちから)。聞いてないわよ。無敵じゃないのさ?」


 話題を変えようとしたのか?

 ルードに出し抜かれ、ちょっと複雑な気持ちだったのだろうか?

 プリプリと機嫌悪そうに振る舞うリンゼ。


「いえ、そんなことありませんよ」


 『支配の能力』の恐ろしさをよくわかっていないルードは、きっぱりと否定する。


「姉様もわたくしも、手も足も出なかった。素晴らしい能力ですね。我々フェンリラの始祖であったとされる女性の領主様が、同じ白の能力を持っていたと聞いたことがあります」


 ウォルガードの血を、深く研究していたのか?

 素直に感動するリエル。


 解釈も感じ方も違うふたりだが、双子だと納得してしまう今の姿。

 何杯目のお代わりだろうか?

 高く積み上げられる、味噌うどんの入っていた器。

 スリムな彼女たちの身体のどこに、その量が入るのかと思えるほどの物凄い食欲。


「おかわりっ」

「おかわりをお願いできますか?」

「あ、はいはい」


 リーダも負けじと食べてはいたが、二杯が精一杯。

 黙々と食べ続ける姉たちを見て、呆れてしまう。


 ▼


 リンゼたち二人の小腹が落ちついたあと、冒険者互助会(ギルド)の受付奥にある会議室として使っていた部屋に場所を移す。

 そこで、ギルドの長としてウルラが現状をリーダたち三人に説明する。


 リングベルで何が起きたか。

 ルードの身に、クロケットの身に何が起きたか。

 旧グルツ共和国で起きた大捕物などのことを。


「リーダ様。申し訳ございません。私がついていながら……」

「いいえ。キャメリアちゃんが悪いわけではないわ。もちろん、ルードもね。……そう。クロケットちゃんが。ウルラさん。ルードたちをありがとうございます。フェリスお母さまたちったら、何も教えてくれないんだもの……」


 もちろん、昨日イエッタやフェリスから聞いた話も、ルードはリーダに話した。

 あの三人がそう判断したのなら、リーダはこれ以上何も言えない。


「お婆様、いえ、フェリスお母さま? あれ? お婆様と呼んでも、怒られなかったと思うんだけど」

「あー、うん。あのですね――」


 なぜルードが、フェリスやイエッタを『お母さん』と呼ぶようになったか。

 リーダもフェリスを『お母さま』と呼ぶようになった理由を説明する。


「……なるほどね。『瞳』のイエッタさんが。そう。それは怖いわ。私のお婆様じゃなくてほんと、よかったわ」


 リンゼは『イエッタのいつ終わるとも知れない、笑顔の無限尻叩き』を耳にし、両腕で自分をぎゅっと抱きしめ、身震いをしてしまう。


「あの。リンゼお姉さん」

「何?」

「イエッタお母さん、きっと今も『見て』ますよ?」

「ご、ごめんなさいっ」


 ここにいないイエッタに平謝りをするリンゼだった。


「リンゼ姉様」

「何? リーダちゃん」

「あの、ルードの前なのでその……」

「はいはい。リーダ。これでいい?」

「えぇ。それでね、リンゼ姉様たちは、あの名前に心当たりはどうかしら?」


 オリヴィアが教えてくれた、件の魔道具開発者。『アーライト・ヴァレンテン』のことだ。


「わたしが姉様たちを探して回ったときには、その名前は出てこなかったんです」

「そうねぇ。確かあれよね? リエル」

「はい。ヴァレント教を興した人物が、そのような名前だったと聞いています。ですが何分、千年以上前の話ですので。定かではないのですよね」


 二人はこれまでに、旧グルツ共和国やヴァレント教の背景。

 『人族至上主義』を掲げる国家などを調べてきたそうだ。


 冒険者互助会の長、ウルラですら耳にしなかった情報を手に入れていた二人。

 彼女らの情報収集能力は、流石としか言えない。


 甥であるルードを気に入ったからか?

 それとも戻ってこなかったことによる、リーダへの謝罪の意もあったのか?

 ルードへ冒険譚を語るように、話をしてくれる二人。


「私はね、リエルが背中を守ってくれたなら、誰にも負けやしないんだ」


 妹の自慢をしつつ、ドヤ顔をしながら話を続けるリンゼ。


「はい。母さんからも、フェリスお母さんからも聞いていました」


 リンゼの風の能力。

 リエルの癒やしの能力。

 二人が一緒ならば、魔力が続く限りいつまでも戦い続けることが可能だ。

 最上位の冒険者は経験だけではなく、強さも持ち合わせていないといけない。

 ウルラからもそう、話を聞いている。


 おまけにリンゼの能力は、リーダが自分よりも強いと褒めていたイリスの更に上を行くと、フェリスが話してくれた。

 強さに憧れるルードは、尊敬の眼差しを二人に向けた。


 リーダと再会を約束して、ウォルガードを出てすぐ、彼女らはこの大陸へと渡った。

 リンゼもリエルも、ルードのように魔法に長けている。

 そのおかげもあり、リーダとは違って人の姿で旅を続けた。


 リンゼとリエルが魔法に長けていた理由は単純明快。

 二人は大好きな祖母フェリスを尊敬しており、幼いころから魔法の鍛錬を続けてきたからだと教えてくれる。


 そのフェリスの身に起きた『消滅』の悲劇。

 事件がなぜ起きたか、その背景を調べる。

 もし正体が判明したならば、祖父と伯母の敵を取るつもりだったと教えてくれた。


 ルードも『消滅』に関する話は、フェリスから直接聞いていた。

 もちろんルードの右目の能力により、曾祖父フェンガルドと、叔祖母フェリシルとも直接会うことができたから、かなり詳しい話を知っていた。


「そう。だったんですね……」

「大好きなお婆様、いえ、フェリスお母さまを苦しめた者がいるのです。それを討つのは孫であるわたくしたちの使命だからと、姉様はいつも言っていました」

「まぁ正直言えば、王位を継ぎたくなかったというのもあるんだけどね。お母様もお父様も、まだ若いから。リーダちゃんがいれば大丈夫だと思ったのよ。ルードちゃん、ありがと。そして、ごめんね」


 良い話を何気にぶち壊すリンゼ。

 ぽかーんとした、ルードの表情を見て、不憫に思ったリエル。


「わたくしがせっかく持ち上げていたのに……。本当にごめんなさい。愚かな姉様を許してくださいね? ルードちゃん」

「あ、リエル。あんただって、継ぎたくないって言ってたじゃないのさ?」

「いえ? そのようなことは、言った覚えがありませんけれど?」

「……こんな姉様たちだと思わなかったのよ。信じて待ち続けたわたしが、それこそ愚かだったわ……」

「不憫ねぇ」


 ぼそっと本音を呟くオリヴィア。


「あははは」


 ルードはただただ、笑うしかできなかった。



「――うわ。すっごいすっごい」

「でしょう? 最高(さいっこう)なのよね」


 先頭で、身を乗り出すように楽しんでいる、リーダとリエル。


「キャメリアちゃん。もう少し、ゆっくり飛んで、も、もらえないかしら? ルードちゃん。私を絶対に、離さないでください、ね?」


 そうかと思えば、イリスやイエッタのように、高い場所が苦手なリンゼ。

 口調まで違ってしまうほど怖がり、ルードにぎゅっとしがみついて震えていた。


 ウォルガードへ向けて、大空を飛ぶキャメリアの背中の上。

 双子とはいえ、ここまで違うと笑えてくる。


 あのあと、リンゼとリエルの二人は、『調査を継続するから』と、リーダの前から逃げようとした。

 もちろん、リーダは姉たちを逃がすわけがない。

 ルードに『お願い』をしてもらい、一度ウォルガードに連れて帰ることとなった。


 王城へ着くと、やはり逃げ出そうとするリエル。

 その場にしゃがみ込み、キャメリアの背中にいるときより何かに怯えているリンゼ。

 その理由は、このあとすぐ判明するのだった。


「そこに座りなさい」

「「は、はひぃっ!」」

「座るときは正座でしょう?」

「「ど、どうすればいいんでしょうか? お母様っ」」


 正座そのものを知らないから、困り果てるリンゼとリエル。

 両の拳を腰にあて、般若のような形相で二人を叱りつける、ウォルガード王国現女王であり、母親でもあるフェリシア。

 『フェリスが怒るだろうな』とは思っていたが、まさかのこの展開は、ルードもリーダも予想し得なかった。


「あなたたちは何を考えていたのですか? お母様のことを思ってというのは、ある程度理解はできます。ですが、一度や二度、戻って来ても良いとは思わないのですか? フェルリーダがどれだけ大変だったか。ルードちゃんがいなければ、今ごろ――」


 優しいイメージとは正反対。

 まるでルードやエリスを叱るイエッタのような、勢いまで感じられた。


 リーダはある意味優等生だった。

 フェリシアから窘められることはあっても、ここまで叱られることもなかったのだという。


「あら? 知らなかった? フェリシアは私の娘だもの。案外、私以上に苛烈なところがあるのよね」


 そう、コロコロと笑うフェリス。

 そのまま、夕食の時間までこってりと絞られる二人だった。


 ▼


「う、ウルラと申しますっ」

「はいはい。ルードちゃんから聞いてるわ。私はフェリス。私の命より大事な子たちの命を救ってくれて、ありがとう」

「はい。そのっ、ありがとうございます」

 緊張しまくってしまい、会話がおかしくなってしまう。


 グリムヘイズ冒険者互助会、ギルド長としてウルラが。

 補佐としてナイアターナが、ウォルガードに招待された。


「ほら、しっかりしてください。ご招待にあずかり、恐悦至極にございます」

「ナイアターナさんだったわね。ルードちゃんがお世話になってると聞いたわ」

「いえ、こちらこそ。王太子殿下に、そのっ」


 何気にナイアターナもガチガチに緊張してしまっていた。


「いいのよ。リラックスリラックス」

「は、はひっ」


 二人がここへ来た理由は、ウォルガードとグリムヘイズが交易を開始するための調印。


 クロケットを救うため。

 オリヴィアを元の姿へ戻すために、フェリスも流石に、これ以上後手に回るわけにはいかない。

 その足ががりにと、冒険者互助会をウォルガード王国が全面的にバックアップすることになったのだ。


 同時に、現状における魔法の限界を感じ始めていたフェリスは、精霊に紹介してもらい、協力を得ようと思ったそうだ。

 そのためフェリスたちもいずれ、あの大陸へ再び渡る予定になっている。


 精霊の使う魔術は、フェリスもシルヴィネも知らないオーバーテクノロジーのようなもの。

 フェリスが研究開発を進めている、『時空間制御の魔法』発展の手がかりになると思っているそうだ。


 ルードが運営するウォルメルド空路カンパニーに、冒険者互助会ウォルガード支部が創設されることになった。

 ルードがグリムヘイズに拠点を移すことになったので、ルードの使っていたカンパニーの私室が、イエッタの書斎として使われることになる。

 フェリスとシルヴィネの魔法で、一瞬のうちに和室へと模様替えも終わり、見事な和室に様変わりしていた。


 そこでオリヴィアと双方向通信を行い、情報を精査することになった。

 リンゼとリエルの二人は、自由に動くことを許可された。

 リーダは『二人がまたいなくなってしまうのでは?』と、危惧したのだが。


「大丈夫よ。オリヴィアちゃんが、ルードちゃんかリーダちゃんの『備考欄』を『読む』だけで、二人がどこにいるかある程度わかっちゃうんだって」

「えぇ。〝GPS〟がないのでぇ、〝緯度や経度〟というわけには、いきませんけどねぇ」

「我と、オリヴィアちゃんがいたら、家族を見守るのは難しくはないのです」


 イエッタも、胸を張ってそう言い切るほどの自信だった。


 最早、逃げられないと理解したリンゼとリエルは、定期的にグリムヘイズに戻ることを約束して、大陸へ戻っていった。


 今後はリーダもルードも、グリムヘイズに居を構え、目標を探すことになる。

 リーダはエリスを連れ、黒色飛龍のラリーズニアに乗せられて、先にグリムヘイズへ。

 家と店舗を購入して、ルードの生活の準備をしてくれるそうだ。エリス商会グリムヘイズ支部を作るつもりでもあるのだろう。


 ルードもウルラたちへ恩を返すため、何か手伝いができないか模索していくつもりだ。

 グリムヘイズに戻ったあと、リンゼたちから魔法の手ほどきを受けることになっている。


 グリムヘイズへ戻る前に、ケティーシャ村にある、ヘンルーダの屋敷の軒先で日向ぼっこ。

 キャメリアはルードの隣に座り、膝の上にクロケットを乗せている。


「大丈夫です。ルード様は、クロケットと同じ、『お姉ちゃん』の私が守りますので」


 目の細かい、ルード手製のブラシを、ゆっくりとクロケットの毛を梳くように、地肌をマッサージするかのように優しく動かす。

 その度に『うにゃぁ』と、気持ちよさそうな寝言が聞こえてくる。


「キャメリアに守られてばかりじゃ駄目だって、僕もわかったんだからね」

「わかっております。ですが、ご無理はなさらないように。クロケットを目覚めさせるのが、第一なのですからね?」

「そうだね。僕ももっとしっかりしなきゃ」

「――うにゃぁ。おにゃかいっぱい、ですにゃ……」

「ほんと、クロケットったら」

「うん。お姉ちゃんだもん」


 寝言を言ったあと、クロケットは規則正しい寝息をたてている。

 そんな彼女の背を並んで撫でながら、『クロケットの目を覚まさせる』のだと、心に誓う二人だった。


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