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フェンリル母さんとあったかご飯 ~異世界もふもふ生活~  作者: はらくろ
第六章 海を越えた東の空の下。
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第二十六話 誰がおばちゃんだっ!

 ルードがグリムヘイズを拠点に活動を始めて、半月が経とうとしていた。

 遠い母国のウォルガードも、ここグリムヘイズも、暖かな春の日差しに包まれている。


 『躾の首輪』が『隷属の首輪』と名を変えて悪用されていたことを、オリヴィアのおかげでルードは知ることとなった。

 『アーライト・ヴァレンテン』、『ヴァレント教』、『イヴォーネ村』。

 魔道具へのヒントを手に入れることは出てきたが、そこへたどり着くための情報が足りないため、今は地道な調査を続けるしかない。


 ルードが囚われの身となり、彼が移送されようとしていた方角を調べたところ、複数の人族至上主義を掲げる国家、町、村があることが判明した。

 だが、彼がクロケットとは別の場所に移されようとしていた理由はわかってはいない。

 ただ少なくとも、彼女とは別の理由があったと思われるのだ。


 この世界の正確な地図を見たわけではないのではっきりとは言えないが、ギルド受付のナイアターナから聞いた話から察するに、ウォルガードのある大陸と比べると、この地の面積は数倍はあると思われる。

 リーダの姉たちがしばらく戻ってこない理由。それがそこにあったのだろう。


 リーダも未だこの地の各所を巡っているようで、ウォルガードに戻ってはいないとのことだ。

 ルードはリーダのことを心配はしていない。

 その理由は、冒険者互助会(ギルド)に入ってくるある情報があったからだ。


 『フェリスリーゼ』と名乗る女性の冒険者がいると、ナイアターナから教えてもらった。

 彼女は商人であり、アッシュブロンドの毛を持つ狼人族なのだという。


 ルードはピンときた、というよりバレバレな名前だった。

 偉人に憧れ、似た名前をつけることもあるだろう。

 『消滅』の伝説の残るこの地で、フェリスの名は恐怖、悲劇のとして伝わっている。

 そのため、フェリスと似た名前を名乗るということは、ある意味悪目立ちをしてしまうのだ。


 その上彼女は、訪れる先にあるギルドの支所で情報を得るために顔を出している。

 必ず尋ねる事柄がある。それは『正義の味方リンゼと冒険者リエル』のことだ。

 履歴を辿ると、ルードがリングベルの地を踏んだあとすぐだったことから、ほぼ間違いなくリーダが変装しているだろうと思ったのだという。


 何より、オリヴィアがルードの『備考欄』を読んだ際、リーダの情報の場所に『フェリスリーゼ』という単語が出てきた。

 もはや疑いの余地がないと、ルードは安心したのだった。


 ▼


「せーの。どっこいしょっ」


 ルードは両手を地面について、地の魔法で整地をする。

 シーウェールズなどにある空港を造る前のような、見渡す限り広大な何もない場所が見える。


「――ふぅ。こんなもんかな? オリヴィアお母さん、ここには何と刻めばいいですか?」

「そうねぇ。『可愛いお馬鹿さん』でもいいのだけれどぉ。『ラズナード』でお願いできるかしらぁ?」


 それは、オリヴィアの亡き夫の名だった。


「はい。『ラズナード・ケティーシャ。ここに眠る』でいいですね?」

「ありがとぉ。でもほんと、……馬鹿よねぇ。結局私は、殺されることなどなかったのだから。置いて逃げてしまえばよかったのにねぇ……」


 ルードは指先でそっと撫でるように、墓石に名を刻んでいった。


 旧グルツ共和国から、フェンリル姿のルードの足で、山間の道をしばらく登ったあたりにある。

 ここはその昔、ケティーシャ王国が栄えていた地であった。


 ルードとキャメリアは、オリヴィアの道案内でここへ訪れることになった。

 亡国となって、早数百年。人だろうが物だろうが、利用可能なものは全て持ち出されてしまったようだ。

 そのため、ルードたちの目に入った光景は、瓦礫と消し炭しか残っていなかった。


 オリヴィアの一存で、瓦礫などは全て土へ還すようお願いされた。

 ルードは整地を終えると、王城があったあたりに墓地を造った。


 一週間ほど前に、旧グルツの地域を回り、あらゆる場所でオリヴィアは両手をついて『読み』歩いた。

 細かな情報を辿って、夫であるラズナード国王や、家臣たちの変わり果ててしまった遺骸(いがい)を回収していった。


 その間にルードは聞いた。オリヴィアが目を覚ましたとき、自らの情報を『読み』自分の身に何が起きたのかを悟った。

 その際、ラズナードが亡くなっていたことも知ったのだと。


「キャメリア、ここにお願い」

「かしこまりました」


 ルードがこしらえた墓石の下に、キャメリアが『隠して』おいた、遺骨を半分だけ納めた壺を納めていく。


「オリヴィアお母さん。半分は、ケティーシャ村の墓地でいいんですよね?」

「えぇ。あの子とも仲が良かったものね。その方が安心して眠れると思うわぁ。そうよね、あなた……」


 あの子というのは、クロケットの亡くなった父親のことなのだろう。

 オリヴィアは、つかの間のお別れを済ませる。

 ラズナードの墓石を取り囲むように接地された墓石に、残りの家臣たちの名を刻み、遺骨を納めていく。


 これらのことは、ルードも聞いた、オルトレットが望んでいた後始末のひとつだった。

 彼らの遺骨の一部もまた、ケティーシャ村の墓地へ納められることになっている。


 ▼


「ここでいいですか?」

「ありがとぉ、ルード君」


 旧ケティシャー王国王城跡で納骨が終わった後、ルードたちはウォルガードへ戻って来た。

 ケティーシャ村にある、ヘンルーダの屋敷の裏手。

 クロケットの父が眠る場所の横に、ラズナードたちの遺骨が納められた。ルードの魔法があれば、無駄に掘り起こすことはない。


「ほら、クロケット。あなたのお爺様よ」


 その場に膝をついたヘンルーダは、腕にクロケットを抱いて目をつむる。

 あれから毎晩、クロケットがそうしたいだろうからと、こうして墓地へ連れてきてくれていた。


 オルトレットもオリヴィアから、納骨の報告を受けて、感涙を流していた。

 彼の、長年の悲願を達成できたからだろう。


「ルード様、本当にありがとうございまする」

「いえ。僕は何もしていません。オリヴィアお母さんが、探したんですから」


 謙遜するルード。

 このあたりは相変わらずであった。


 ヘンルーダの屋敷、彼女とクロケットが過ごしていた部屋――。


 クロケットは未だ眠りから目覚めてはいない。

 だが、ウォルガードにいる以上、彼女の身に危険が及ぶことはもうないだろう。


「眠っているだけで、健康だと思いますよ。首のところの接合部分も、炎症を起こしていないようですからね」


 ルードの祖母であり、この国の女王フェリシアはそう言う。


 学園研究室より医療に携わるスタッフおよび、彼女が自らこうして毎日、クロケットの体調管理をするために足を運んでくれている。

 ルードがこうして活動できているのも、家族のバックアップあってこそだ。


「お忙しいところ、本当に申し訳ございません」


 ヘンルーダは、フェリシアに礼を述べる。


「いいのですよ。クロケットちゃんは、いずれルードちゃんのお嫁さんになるのです。フェルリーダの娘になるのですもの。それこそ私の娘みたいなものですからね。毎日こうして、顔を見られるのは、私も安心できるというものなのですよ」


 イリスが御者をつとめる馬車に乗り込む際、コロコロとした笑顔でそう答えるフェリシア。


「ありがとうございます。フェリシアお母さん」

「いいえ。私こそフェルリーダが、……フェルリンゼとフェルリエルも。娘たちが気苦労をかけてしまって、ごめんなさいね」

「大丈夫です。僕も、伯母様たちに会える日を、楽しみにしてますから」


 フェリシアを見送ると、ルードはクロケットの背中を愛おしそうに擦る。

 ヘンルーダに彼女を託し、出立を伝える。


「じゃ、お姉ちゃん。行ってくるね。ヘンルーダお母さん、お願いします」

「えぇ、こっちこそお母様をお願いね」


 ルードはその後、フェリスに報告を終え、商会に顔を出し、キャメリアの待つ屋敷の庭へ戻っていく。


 ▼


 ルードはウォルガードを出ると、シーウェールズへ寄り、食材などを物色してきた。

 ついでに、温泉まんじゅうなども大量に購入。

 その後、ネレイティールズへ寄り、シーウェールズよりもこちらの大陸に近いことから、カンパニーの支社を置くことを王女のレラマリンに伝えてきた。


 グリムヘイズへ戻ってくると、冒険者互助会の建物にある、食堂の厨房へ篭って料理をつくり始める。

 大鍋からおたまで小皿に少し、出し汁を掬い、味を見て首を傾げる。


「こんな感じかな?」


 同じように掬うと、小皿をキャメリアに渡した。


「はい。あのときにいただいた、おうどんの味で間違いないと思います。いえ、あのとき以上に、美味しゅうございます」


 ルードの隣で、味見をするキャメリア。


「そっかうん。ありがと」


 ルードは厨房を借りて、ナイアターナとの約束を果たすべく、『味噌うどん』を作っていた。


 具材は、あのとき冷凍保存しておいた、大猪のすね肉を解凍し、角切りにしてとろとろになるまで煮込んだもの。

 それに、解体したときの骨から煮出した骨髄のスープを合わせ、タバサの工房で作った味噌で味をつけた。

 グリムヘイズ周辺の農家で収穫された、葉野菜や根野菜も一緒に軽く煮込んである。


 大猪の骨は加工の際、骨髄を取り出してから乾燥させた後に利用されるらしい。

 それならばとルードは、料理に使わせてもらった。

 煮出したあとに、水の魔法で綺麗に洗ってあるので、問題はなかったのだという。

 ついでだからと魔法を使って水分を抜き、乾燥までやってしまい、ナイアターナが驚いたというおまけがついてしまった。


 骨髄のスープは大量に作ってあり、それをルードが魔法でフリーズドライ化してある。

 いずれこの製法は、タバサが検証して定番化する予定だ。


 魔獣の肉は、魔力を大量に含んでいる。

 どの部位も非常に美味で、捨てるところがない。

 そのため、キャメリアが言うように旨味も増している。

 うどんは、冒険者たちが交代で踏んでコシを出した手作り。

 これを太めに切り、湯がいて軽く湯切りをしたあと、たっぷりつゆを絡ませる。

 これが美味しくならないわけがない。


「では皆さん、お待たせしました。これは僕からのお礼の一部です。お代わりもできます。沢山食べてくださいね?」

「じゃ、いただこうじゃないか」


 ウルラが音頭をとる。

 冒険者たちはまるで、酒を乾杯するかのように、一斉に食べ始める。


「ルード君ルード君」

「はい?」


 うどんの入った容器を両手で持ちながら、テーブルに座ったナイアターナは満面の笑みをルードに向ける。


「これ、しゅっごく美味しいで――」

「あ……」


 ルードは『噛みましたね』と言いそうになったが、ぐっと堪えた。


「あははは。こいつ噛みやがった。落ちついて食えって。誰も逃げやしないから」

「そんな。酷いですよ……」


 彼女の隣で食べていたウルラは遠慮なし。

 ストレートにツッコミを入れる。

 すると、ギルドの食堂からホールにかけて、あちこちで笑いが起きた。


 そんな中、目立たぬように黙々とうどんを食べる二人がいた。


「これは、美味です。いくらでも入ってしまいますね」

「そうね。お肉も野菜もぎゅっと味が濃くて。この深い味の調味料。なんだろね?」


 グリムヘイズは旧グルツ共和国のように、源泉から漂う硫黄臭で獣人の嗅覚を邪魔することはない。

 だからだろう。ルードの嗅覚センサーにも感知することとなってしまう。


「あ――この匂い」


 ルードは厨房から出てくると、『馴染みある懐かしい匂い』に引かれて、食堂の端へと歩いて来た。


「母さんっ。いつこっち――に、ってあれ? 母さんが、若くて可愛いくなってる。でもそっくりなんだよね? ……ってあれあれっ? でもなんで二人もいるの?」

「――誰がお母さんよっ! 私は子供なんていないわよっ。それにまだその、……ごにょごにょにょ……」

「えぇ。お姉様はまだ、生娘ですものね」

「あなただってそうでしょう?」


 『お姉様』と呼ばれた彼女は、新緑色のベリーショート。

 『お姉様』と呼んだ彼女は、同じ新緑色の髪だが、くるくるもこもこのボリュームある髪型。

 髪が白かったらまるで、けだまをボブにしたような感じだ。


 お姉様と呼ばれた方も呼んだ方も、顔の作りは双子のようによく似ている。

 身長も身体の細さもそっくりな感じ。

 今までの経験上、間違いなく外の世界を見て回っているフェンリラたちだと思われた。

 ルードからしたら、ウォルガードのどこかで会ってもおかしくないように感じただろう。


 二人はまるで、リーダを少し幼くしたような感じ顔の作り。

 十五歳を前から、見た目的に全く成長をしていないルードを基準とするならば、彼女たちはルードよりは年上に見える。


 二人ともどちらかというと、ここにいるキャメリアよりは年下に見えるのだ。

 見た目の年齢的に言えば、ネレイティールズの王女、レラマリンと同じ感じだろう。


 髪型こそ違えど、毛の色はリーダそっくりの艶やかな新緑の色。

 二カ所ほど違う感じのするところがある。


 ひとつは彼女たちの目元だ。

 『お姉様と呼ばれた』彼女は、やや勝ち気な大きな目。

 手入れの届いた細い眉。

 その反面『お姉様と呼んだ』彼女はというと、イエッタの糸目ほどではないが、常に微笑んでいるような細めた目をしている。


 それ以外にももうひとつ、大きな違いがあった。

 それは、『お姉様と呼ばれた』彼女は、近接職であるのか?

 丈夫そうな胸当ての下、フェリスほどにやや控えめに見える。

 『お姉様と呼んだ』彼女は、テーブルにどっこいしょと、乗せた方が楽になるように思えるほどの、クロケットにも勝るとも劣らない実りに実った胸部。

 今も実際、テーブルに乗せたまま、だらりとリラックスしているように見えるのだ。


 双子と思われる彼女たちだが、しっかりと見分けはつきそうに思えた。


「あ、あの。お姉さんたち、どこかで会ったこと、ありませんか?」


 ルードは右側の胸部がふくよかな女性を直視しないように、ちょっと斜めを向いて、問うことにする。


「あらぁ? お姉さんだなんて、嬉しいわ。そうねぇ。ここ百年以上(しばらく)は、あっちには帰ってないから、こっちだとは思うんだけれど。どこだったんだろう? 君みたいな可愛い男の子。絶対に忘れないと思うんだけどねー」

「そうですわね。わたくしも、覚えはありません。ですが、この子の顔立ち。どこかで見たことがあるような、気がするのですよ。赤の他人とは思えない、そんな感じがするのです」

「そうそう。どっかで見たんだよねー。でもさこの純白の、可愛らしいくるくるした髪も、とっても珍しいよね」


 そんなとき、ルードの傍にウルラがやってくる。

 彼女は破顔しながら、彼の頭をぐりぐりと撫でつけてきた。


「それにしても、美味かったなぁ。ありがとうよ、ルード君。明日にでも、精霊を――って、リンゼ。お前いつ帰ってきたんだ?」

「うっげぇ。出たよ。ウルラのおばちゃん」

「誰がおばちゃんだっ!」


 『スパーン』と乾いた音を立てて、ウルラはリンゼと呼ばれた彼女の頭を平手打ちにする。


「――おぉぅ……。ごめ、リエル。おねが、い」

「はいはい。仕方ない姉様ですね。ほら、患部を見せてごらんなさいな? やっぱり腫れてるじゃないですか? いくら気心の知れた間柄とはいえ、口が過ぎるようです。自業自得です、姉様」


 遠慮なく叩かれたリンゼの頭頂部に、リエルは手をかざす。

 すると、見たことがある淡い水色の光がリンゼの患部を包んでいく。


「『――はいっ』これで大丈夫。ほんと、仕方ない姉様ですねぇ……、ってそうそう。ウルラさん。お久しぶりでございます」


 ルードは、目の前の状況がまだ掴めていないようだ。


「おう。リエルもお疲れさん。それになリンゼ。お前だって十分おばちゃん、じゃないか。なぁ? 伯母様のリンゼさんよぉ?」


 ウルラはリンゼの鼻先に、自分の鼻先が当たってしまうほどのところまで顔を寄せる。

 そこでリンゼに見えるように、にやっと笑う。

 それはもう、普段からナイアターナに見せる以上の、楽しそうな表情だった。


「はぁ? おばさま――って何の話よ? おばさんはあんただろうに? 私らから、いくつ年上だと思ってんのよ?」


 喧嘩を売ろうとしているウルラ、買おうとしているリンゼ。

 今にも口論以上にに発展しそうな状況。

 そんな中、ルードはリンゼとリエルの前に出てくる。彼女たちとは身長差がほんの少しある。

 やはりルードが見上げるようになるのは仕方のないこと。


「あ、あの、フェルリンゼさん、ですよね? ということは、あなたがフェルリエルさん?」

「ん? そうだけど。……あれ? 私、名乗ったっけ?」

「えぇ。そうですよ。いいえ。ウルラさんが、姉様の略称は口にされはしましたが、正式な名は名乗っていないはずですが……」

「グルツでは、その。……ありがとうございました」


 ルードは丁寧に会釈をして、ありがとうを言う。


「へ?」

「はい?」


 素っ頓狂な声を出してしまう二人。


「僕はウルラさんから、風の魔法がお得意だと伺っています。もしかしたら、その。あのとき僕を助けてくれたのは、お二人だったのでないかと……」

「――どういうこと?」

「確かに、姉様の色は風ですから。得意というのは間違いないかと思うのです。ところで姉様、この男の子を助けたのですか? ――というより、わたくしの目を掠めて、いつの間にグルツへ遊びに行ってたのですか?」


 リンゼは、『とんでもない』とブンブン左右に首を振る。


「いやいやいや? ここ数年グルツにも行ってないし、こんなに可愛らしい子を助けたなんて、記憶に全くないんだけどさ。それよりリンゼ。私のフェンリラとしての能力(いろ)をバラさないでくれるか? 今更遅いかもしれないけどさ」

「あ、はい。申し訳ありません、姉様。それにバラしたのはきっと、ウルラさんかと思うのですが?」

「そうだよ。ほんっと、おばさんは年で頭が緩くなったんじゃないの? 人の秘密をペラペラと喋っちゃうとかさぁ?」

「あの、ですね――」


 ルードはあのときの状況を、詳しく説明する。

 最後に、明かりの乏しい離れた通路から助けられたことを告げる。


 ルードの横にいたウルラは『うんうん』と頷く。

 向かいにいるリンゼは首を傾げる。

 同じく彼女に並んで座る、リエルも右手の手のひらを頬にあてて、困った表情をしていた。


「あー、そのとき私たちは、グルツにいないわ。ねぇリエル?」

「そうですね姉様。わたくしたちは確かあのとき、リングベルにいたと思うのです」

「それはそうですよぉ。ルードちゃんを助けたのは、ほら――」


 ルードの肩に乗るオリヴィアは、食堂の入口を肉球の前足で指差す。

 するとそこから声が聞こえてくる。


「あら。ルードじゃないの? ぐ、偶然ね――」


 少しうわずった、わざとらしい。

 それでいながら、ルードが聞き間違えるはずのない声だっただろう。


お読みいただきありがとうございます。


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