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フェンリル母さんとあったかご飯 ~異世界もふもふ生活~  作者: はらくろ
第六章 海を越えた東の空の下。
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第二十三話 首輪型魔道具の解析結果。

「……それにしても、これは確かに、厄介ねぇ。まずは『眠りの首輪』。数百年経っているから『経年劣化』で破損したのでしょう。私が目を覚ましたのは、きっとそのせいなんでしょうね。あとはね、『(しつけ)の首輪』。『本質の首輪』。『吸魔の首輪』。それぞれの効能は――」

「ちょっと待って下さい」

「あら? どうしたのぉ?」

「『隷属の首輪』、じゃないんですか?」


 ルードが予想する魔道具の名前が出てこない。


「えぇ。違うみたいねぇ」


 ルードは自分の荷物に残してあった、あの魔道具。

 彼自身が囚われの身に墜ちて移送される馬車の中、激痛を伴いながら必死の思いで外した首輪を、取り出してオリヴィアに見せる。


「これ。これもそうなんですか?」


 ルードの手にある、熱によって溶け、破損した首輪の宝玉にそっと両前足で触れる。


「……えぇ。『躾の首輪』。そう、書いてあるわぁ」


 驚きだった。

 エランズリルドで猛威を振るった、ルードたちの記憶に新しい、『隷属の首輪』と呼ばれていた忌まわしき魔道具。

 その本来の名前は違っていたのだ。


「――なるほどですねぇ。エランズリルドという国で、そのようなことがあったんですね。そう。そう呼ばれていたのぉ」


 ルードがエランズリルドで起きたことを話そうとしたときには、既に『読み』終わっていたのだろう。


「ルードちゃん。道具というのは、その使い方次第で、変わってしまうものなのですよぉ」

「そう、ですね……」

「ナイフや包丁だって、そう。毎日のご飯をね、作るはずの道具として、生まれてきたはずなのに。それが人を殺めてしまうことだって、『あの世界』では普通にあったのよ、ねぇ……」


 彼女の目はどこを見ているのかわからない。

 とても悲しそうな気持ちが伝わってくる。


「もしかしたら『隷属の首輪(これ)は』、人に対して使うものではなかったかもしれない。そういうことですね?」

「えぇ。そうとも言えるでしょうねぇ。便利な道具は、正しい使われ方をするとは限らないの。得てして〝エンドユーザ〟はね、想定外の使い方をしてしまうものなのよねぇ……」


 彼女の、ため息交じりに呟かれた最後の言葉の意味は、ルードには意味不明だっただろう。


 残りの二つ。

 『本質の首輪』は、強制的に本来の姿にさせるもの。

 黒猫人族(ケットシー)である彼女たちが装着した場合は、強制的に『獣化』させる効能がある。

 『吸魔の首輪』は、体外に魔力を放出させるもの。

 オリヴィアがそう、ゆったりと語る。


「なるほどな。それで、物理的解除による、危険性はどうなんだろうか?」


 ウルラがそう尋ねる。

 彼女は最上級の冒険者であり、このギルドの長。

 クロケットやオリヴィアの首にある四本の首輪に、いち早く危険性を見いだしたのも彼女だったから。


「そうねぇ。この鈍色(にびいろ)の首輪。『隷属の首輪』と呼ばれていたものは、対になる腕輪で命じたときと、無理に外そうとしたときのみ、苦痛を伴うようにできているみたいね。けれど、切ってしまっても構わないでしょう。鍵穴が潰されているようだから、ルードちゃんの取った方法のみ、可能だと思うのですけどね」


 金属製の首輪。

 彼女が言うには、魔力で焼き切るのが一番だと言うのだ。

 少なくとも、首輪と対になる魔道具は、ルードたちの手元にある。

 苦痛を伴うのであれば、早急に処理しなければならないだろうが、今、慌ててやる必要はないかもしれない。


「なるほどな。残りの三本はどうなんだろう?」


 オリヴィアはひとつため息をつく。


「他は気をつけた方がいいわねぇ。これ、見てくれるかしらぁ?」


 そう言うと、首元を片手で差す。


「この壊れた『眠りの首輪』と『吸魔の首輪』。この二つはここ。細い網目状のものがね、皮膚の下に埋まっているのが見えるはずよぉ」


 よく見ると確かにそう見える。

 どのようにしてそうなっているかは不明だ。


「首の両側にある太い血管にね、直結しているの。『本質の首輪』はね、簡単に外すことはできるのよぉ。でもね、元の姿になったとき、この網が引っ張られて中で切れたりしたら」

「そうしたら?」

「ほどなく、死ぬでしょうねぇ。『本質の首輪』がね、トラップになっているようなものだと思うわぁ。もの凄くね、厄介だと思うのよぉ」


 彼女が言うには、装着した者しか、外す方法はわからない可能性がある。

 もしかしたら、『着けた者にもわからないかもしれない』と、首を振る。


「こんな厄介なものを作った、『アーライト』さん、でいいのかしら? どこから来た『悪魔憑き』なんでしょうねぇ?」


 何気に本日一番の爆弾発言。


「その、オリヴィアさん」


 ルードが聞く。


「あら嫌だわぁ。さっきみたいに、『オリヴィアお母さん』って、呼んでくれないとね、何も教えてあげないんだからねっ」


 そう言うと『ぷいっ』と、横を向くオリヴィア。


「その、ごめんなさい。オリヴィアお母さん」

「うんうん。素直な子は大好きよぉ。それで、何かしら? ルードちゃん」

「あ、はい。その、『アーライト』って、誰なんですか?」

「この宝玉をね、作った人。『制作者』の欄にね、書かれているの。『アーライト・ヴァレンテン』。こんなとんでも〝アイテム〟作る人なんて、『悪魔憑き』以外、考えられないでしょう?」

「はい。確かにそうかもしれません。キャメリア、知ってる?」

「私も、耳にしたことはございません」

「ウルラさんは?」

「聞いたことはない名前だな。グルツにあったことや、家名から察するに。おそらくだが、ヴァレント教に関係する者、……としか今は言えないだろうな」


 ルードは腕組みをして、しばらく考え込む。

 ややあって、顔を上げると――。


「とにかくですね、僕は一度、ウォルガードに戻ろうと思うんです。とてもじゃないけれど、僕だけでは判断できませんから。フェリスお母さんたちに相談して、明日にはまた戻ってきます」

「明日にって、……あぁ、そういうことか。そうだな。あいつらの尋問は、ルード君が戻るまで延期にしよう。なに、精霊にお願いすれば、調整など容易いことだ。ただな、尋問するときは、ルード君の能力が必要だ。万が一、自害されては困るからな」


 神殿長を名乗る男たちは、今も眠らされたまま、ギルドの地下に留置されている。

 ウルラの苦い表情から察するに、『過去にそういうこともあった』と書いてあるように思える。


「わかっています。オリヴィアお母さんもそれでいいですか?」

「そうねぇ。私が見た感じ、外す方法は書いてないみたいですからねぇ。皆さんにも会ってみたいですから、そうすることにしましょうか」


 今後の打ち合わせを軽く終え、ルードたちは冒険者互助会(ギルド)の建物を後にする。

 ギルドから馬車で出ると、鳥人種が発着する場所へ到着。

 そこで、ルードは周りの人たちに注意を促す。


「すみません。少しだけ下がっていただけますか?」


 何が起こるのか、興味ありげに見守る鳥人種の人々。


「じゃ、キャメリア、お願い」

「はい、かしこまりました」


 キャメリアは龍人化の指輪へ魔力を流し、念じることで飛龍(もと)の姿に戻る。


「あぁら、すっごいわねぇ。ドラゴンさんじゃない。まるで〝ファンタジー小説〟みたいな――って、私もそうだったわ」


 驚きと、セルフぼけツッコミ状態なオリヴィア。

 それでもおっとりとした口調は崩さない。

 クロケットの『にゃ』とは違う彼女の話し方は、きっと素の状態なのだろう。


「いやはや、美しいものだな。二回目だが、ここまで紅いのは見たことがないよ」


 感嘆の声を述べるウルラ。


「いえ、その。ありがとうございます」


 大きな飛龍の姿で、両手で頬を覆うキャメリア。

 彼女はきっと、この姿を褒められることに慣れていないのだろう。


「ウルラさん」

「なんだ?」

「時間があったらその、精霊さんのことを――」

「あぁ。約束だったからな。明日、尋問が終わったら考えとくよ」

「やった」


 喜ぶルードは、左腕にクロケットを、右腕にオリヴィアを抱いたまま、軽い足取りでキャメリアの背中に登っていく。

 オルトレットは、ルードが乗り終えると、ルードの後ろに座る。


「では、キャメリア殿。よろしくお願いいたしまする」

「はい。任せてくださいまし」


 受付にいたナイアターナも、ウルラと一緒に見送りに来ている。


「ルード君。いってらっしゃい」

「あ、はい。すぐに戻ります。そしたらまた、料理も作りますから。あのときの味噌煮込みうどんも」

「はい、楽しみにしてます」

「ウルラさん、ではいってきます」

「おう。気をつけてな」


 これから戻る先は、魔力の豊富なウォルガード。

 帰路に関して言えば、魔力を気にすることがないのだ。


 キャメリアは、背中の翼に魔力を纏う。

 紅い魔力のゆらぎが発生。

 魔力で強制的に、熱と風を発生させる。

 そのときに、やや大きな音も出ていたようだ。


「あらぁ。まるで〝ジェット機〟みたいな音ねぇ」

「あ、それ。イエッタお母さんも言ってました」


 キャメリアはゆっくりとホバリングする。


「キャメリア、あまり飛ばしちゃ駄目だからね」

「かしこまりました」

「大丈夫ですよ。風の魔術で保護してくれるんでしょう?」

「あー、全部わかってるんですね」

「えぇ。それはもう」

「じゃ、キャメリア。ほどほどに、お願いね?」

「はい、ルード様」


 ――地上から見上げるウルラ。


「あーこりゃ、敵わないわ。うわ、もう見えなくなってるよ。……あんなに速く飛べるのか。戻ってきたら、あたしも乗せてもらおうかな?」

梟人族(きょうじんぞく)が何を言ってるんですか?」

「いやだってさ、飛龍だぞ? ルード君の話だと、音の速さに迫ってるとか、追い越してるとか。速さは強さだぞ? 羨ましいじゃないか」

「まったくもう。ほら、仕事があるんですから」


 ウルラの背中を両手で押すナイアターナ。

 ウルラは苦笑しつつ、気だるそうに歩いて行く。


「はいはい。わかってるって」


 シーウェールズ上空――。


 あっという間に空を駆け抜け、狼人族の村をなめるように飛び、ややあってウォルガードが視界に入ってくる。

 キャメリアは徐々に、速度を緩め始める。


 ルードの指示通り、彼女は彼女の感覚では『ほどほどに』飛んできた。

 それでも、船旅に比べたらあっという間だった。

 ウォルガードに近くなると同時に、大気中の魔力の濃さも感じられるようになってきた。


「あれがウォルガードです」

「あらまぁ。あそこに、あの子もいるのですね?」

「はい。ヘンルーダお母さんも驚くと思いますよ。ね? お姉ちゃん」

「……うにゃぁ」


 まるで返事をするかのような、寝言が返ってくる。

 ルードの目からこぼれ落ちる悔し涙。

 それがオリヴィアに落ちてしまったのかもしれない。


「ルードちゃん。男の子は、泣いたらだめですよ? きっと方法はあるから。千年以上生きてる知恵袋さんたちが、私の他に三人もいるんですから、ね?」

「あ、……はい。大丈夫ですっ」


 ルードは上を向く。

 頬に流れた涙が、これ以上流れないように。

 上を向くと、巨大な顔が見えた。後ろに座るオルトレットだった。

 彼も男泣きをしていたようだ。


「あ、オルトレットさん……」

「いえ、その。わたくしのこれは、心の汗にございま――」

「はいはい」


 呆れるような声でツッコミを入れるオリヴィアだった。


 ホバリングしながら、商業区をスライドするように進んでいく。

 キャメリアの翼から出る、特徴的な音で気づいたのだろう。

 人々は見上げながら、ルードたちに手を振ってくれる。


「あそこが王城で、あの湿地の先に見えるのが、ケティーシャの村です」

「あら? そんな名前にしているのですね?」

「はい。前にですね、お姉ちゃんとヘンルーダお母さんとで話し合って、そうしようって」

「ありがとう。あの人も、きっと喜んでくれると、思うわ」


 王城の上空を、キャメリアがゆっくりと旋回する。

 すると、テラスのある場所から、一人の美少女が手を振っている。


「キャメリア、王城の上に降りてくれる?」

「かしこまりました」

「オリヴィアお母さん。あの人が、フェリスお母さんです」

「あらまぁ。あんなに可愛らしい方、だったのですねぇ」

「あ、はい。そうですね」


 キャメリアが徐々に高度を下げていく。

 王城の一角、まるでヘリポートのように平らになっている場所。

 そこにゆっくりと着陸した。


 いつもなら、勢いよく走ってきて、抱きつくところだったフェリス。

 だが今日は、イエッタたちと迎えに出てくるだけ。ルードを確認すると、優しく微笑んでいるだけだった。


「お帰りなさい、ルードちゃん」


 イエッタが細い糸目で無理に笑って見せるが、クロケットの姿を確認すると、糸目は更に細くなり眉をひそめてしまう。


「キャメリア、さっさと報告なさい」


 労いの言葉もなく、高揚のない少々強めの言葉で、キャメリアに声をかけるシルヴィネ。

 彼女はルードとオルトレットが降りると、即座に姿を戻し、ルードに一礼をしてシルヴィネの元へ。


「はい。お母さん」


 ルードだけにはわかっていた。

 シルヴィネの瞳が、『キャメリアを褒めてしまいたい』というものや、『かといって、母親の威厳をたもたなければならない』などの葛藤で、困っている感じが感じられたからだった。


 シルヴィネは、キャメリアを連れて、フェリスの私室へ歩いて行く。

 おそらくは、キャメリアの知りうる限りの情報を、すり合わせしようと思っているのだろう。


 イエッタの横に並ぶフェリス。


「ルードちゃん。おかえり。大変だったわね」

「ううん。大丈夫です」

「お初にお目にかかります。『消滅のフェリスちゃん』、『瞳のイエッタちゃん』。先ほどの方が、『炎帝のシルヴィネちゃん』ですね?」

「えぇ。そうよ。あなたが、クロケットちゃんの」

「はい。オリヴィア・ケティーシャです。ヘンルーダと、クロケットちゃんがお世話になっています。あ、オルトレットもそうだったわね」


 伝説の二人を前にしても、おっとりとした口調を変えず、マイペースで挨拶する。


「ルードちゃん、ちょっと後ろを向いてくれるかしらぁ?」

「あ、はい」


 後ろを向くと、そこには辛そうに笑うオルトレットの姿が。


「オルトレット」

「はい。王妃殿下」

「もうそれはいいわぁ。とっくに、亡国になってしまったのですからね。それよりも、ケティーシャ村に行って、ヘンルーダを呼んできてくれるかしらぁ?」

「御意にございます。ルード様、フェリス様。イエッタ様。では後ほど」


 オルトレットはその場から去って行く。


 イエッタが近寄ってくる。空気を察したのか、フェリスが手を広げる。

 ルードの腕から飛び降り、そこに駆け込むオリヴィア。


「ルードちゃん。状況はある程度わかっています。ちゃんと、『見て』いましたからね」


 大きく両手を広げて、クロケットごと優しく抱き寄せるイエッタ。


「は、い……」


 ルードはイエッタの腕で、声を押し殺しながら泣いた。

 緊張の糸が切れてしまったのだろう。


 ルードはここにいる三人と比べたら、ルードはまだ幼い赤子のようなもの。

 これまでのことは、フェリスが手出し無用と決めた。

 それでもルードにはきつい試練だったはずだ。


「ルードちゃんたちなら、自分で解決できるはず。そう、我たちは判断したのです。ごめんなさいね。辛い思いをさせてしまって」


 ▼


 クロケットは未だ目を覚まさない。

 ヘンルーダの膝の上で、安らかな寝息をたてている。


「おねーちゃん。気持ちよさそにねてるね」

「えぇ。そうですね」


 隣でに座り込んだけだまが、クロケットの背中を撫でていた。


 その横で、シルヴィネがフェリスと相談しつつ、錬金術師のタバサを交えてオリヴィアの首に巻かれている、魔道具の調査を始めていた。

 壁際で、オルトレットとイリス、キャメリアの三人は、情報交換を行っていた。


 流石にこの人数では手狭になってしまうことから、場所を移動した。

 旧第三王女邸宅。今はルードたちが住んでいる屋敷の居間。


 い草に似た植物の繊維で編まれた畳もどきが、床一面に敷き詰められている。

 久しぶりに家に帰ってきたという、心安まる匂いに包まれていた。


「そういえば、フェリスお母さん」

「ん、何? シルヴィネちゃん、あとはお願いね」

「はい、任せてください」


 オリヴィアの元から立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。

 イエッタがルードの両脇から手を差し入れ、膝の上に寝かせていた状態からひょいと抱き上げる。


 フェリスがイエッタの隣に座ると、彼女にルードを抱かせる。

 ルードとフェリスはほぼ同じ背格好。だからルードを膝枕させるような姿になっていた。


「フェリスちゃん。我はあちらに行ってますから。ルードちゃんをお願いしますね?」


 フェリスと入れ替えに、オリヴィアの元へ向かうイエッタ。


「うん。ありがと。さて、どうしたの? ルードちゃん」

「あのね、母さんの匂いがしないんだけど、どこかいったの?」

「あー、うんうん。それね。リーダちゃんは今、ちょっと調査に出ているのよ」

「調査?」

「大したことじゃないわ。ルードちゃんとエリスちゃんがいずれ、あの大陸で何かを始めると思ってたのね? あちらの大陸は、『人種至上主義』を掲げた国が多く存在しているのは知ってるでしょう?」

「はい」

「ルードちゃんたちが出てから、三日後だったかしらね? リーダちゃんもあちらの大陸に向かったのよ。ルードちゃんが自分の用事を済ませている間にね、あの子はルードちゃんのやりたいことを、邪魔する可能性を摘みに行ったの」

「そうだったんだ」

「あの子が自分で考えて向かったの。成長したなって、感心したわ。それにね、私が作ったヤツをね、色々と持たせてるから大丈夫。ついでにね、リーダちゃんの、お姉ちゃんたちを探してると思うのね。あの子はほら、相当根に持っていたじゃない?」

「あー、うん。そうだったね……」


 どれだけ恨み節を聞かされたことか。

 それはルードにも、思い当たることが山ほどある。


「だから心配しなくてもいいわ。そのうちふらっと帰って来るから。大丈夫よ。イエッタちゃんが、ちゃんと『見て』てくれてる。どこにいるか、お見通しなんだからね?」

「あははは。それは確かにそうだね」


 その晩――。


 ルードは荒れたイリスを宥めるのに一苦労することになる。


「――わたくしがついていたなら、あのようなことは避けられたはず。ですが、フェリス様から止められてしまっていたので……」

「はいはい。ごめんね、イリス」


 あまりの悔しさに、さめざめと泣き出してしまうイリス。

 イリスは、ルードに忠誠を誓った家臣の筆頭であると同時に、リーダの義理の妹でもある。

 ルードからみたら、叔母と言っても過言ではないだろう。


 リーダが、ウォルガードにルードを連れ帰ったあの日から、イリスはルードの執事となった。

 ルードがまだ陸路を移動していたときは、イリスはいつも、ルードの傍らにいた。


 高所恐怖症さえなければ、ルードの傍を離れることはなかっただろう。

 だが、けだまたちの成長を見守るのもまた、『可愛い物好き』である彼女の生きがいとなってきている。

 キャメリアがルードと一緒にいる今は、家を守ることができるのはイリスだけ。


 イリスは実は、リーダ以上に自制が効かない部分が見受けられる。

 だからもし、ルードの身に何かが起きようとしていたとしたら、真っ先に動いてしまっていたはず。

 それを懸念して、フェリスはイリスに留守番を強いていたのだった。


 ルードは明日、あの大陸に戻ってしまう。

 リーダの居ない今夜は、ルードの(そば)を離れたくないと駄々をこねてしまう。

 仕方なくルードは、イリスの膝枕で寝ることにしたのだった。


 クロケットは今晩、オリヴィアと一緒に、ヘンルーダの家にいる。

 オルトレットを含め、従妹のクロメたち、ケティーシャ村の皆と一緒のはずだ。

 オリヴィアとヘンルーダは、語り尽くせぬ夜を過ごしていることだろう。


 ――翌朝、殆ど寝ていないはずなのに、その頬がツヤツヤテカテカになっていたイリス。

 きっと一晩中、『ルード分の吸収』をしつつ、十分に堪能できたのだろう。


「おはようございます。ルード様」


 イリスの笑顔はちょっと眩しかった。


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