第二十三話 首輪型魔道具の解析結果。
「……それにしても、これは確かに、厄介ねぇ。まずは『眠りの首輪』。数百年経っているから『経年劣化』で破損したのでしょう。私が目を覚ましたのは、きっとそのせいなんでしょうね。あとはね、『躾の首輪』。『本質の首輪』。『吸魔の首輪』。それぞれの効能は――」
「ちょっと待って下さい」
「あら? どうしたのぉ?」
「『隷属の首輪』、じゃないんですか?」
ルードが予想する魔道具の名前が出てこない。
「えぇ。違うみたいねぇ」
ルードは自分の荷物に残してあった、あの魔道具。
彼自身が囚われの身に墜ちて移送される馬車の中、激痛を伴いながら必死の思いで外した首輪を、取り出してオリヴィアに見せる。
「これ。これもそうなんですか?」
ルードの手にある、熱によって溶け、破損した首輪の宝玉にそっと両前足で触れる。
「……えぇ。『躾の首輪』。そう、書いてあるわぁ」
驚きだった。
エランズリルドで猛威を振るった、ルードたちの記憶に新しい、『隷属の首輪』と呼ばれていた忌まわしき魔道具。
その本来の名前は違っていたのだ。
「――なるほどですねぇ。エランズリルドという国で、そのようなことがあったんですね。そう。そう呼ばれていたのぉ」
ルードがエランズリルドで起きたことを話そうとしたときには、既に『読み』終わっていたのだろう。
「ルードちゃん。道具というのは、その使い方次第で、変わってしまうものなのですよぉ」
「そう、ですね……」
「ナイフや包丁だって、そう。毎日のご飯をね、作るはずの道具として、生まれてきたはずなのに。それが人を殺めてしまうことだって、『あの世界』では普通にあったのよ、ねぇ……」
彼女の目はどこを見ているのかわからない。
とても悲しそうな気持ちが伝わってくる。
「もしかしたら『隷属の首輪は』、人に対して使うものではなかったかもしれない。そういうことですね?」
「えぇ。そうとも言えるでしょうねぇ。便利な道具は、正しい使われ方をするとは限らないの。得てして〝エンドユーザ〟はね、想定外の使い方をしてしまうものなのよねぇ……」
彼女の、ため息交じりに呟かれた最後の言葉の意味は、ルードには意味不明だっただろう。
残りの二つ。
『本質の首輪』は、強制的に本来の姿にさせるもの。
黒猫人族である彼女たちが装着した場合は、強制的に『獣化』させる効能がある。
『吸魔の首輪』は、体外に魔力を放出させるもの。
オリヴィアがそう、ゆったりと語る。
「なるほどな。それで、物理的解除による、危険性はどうなんだろうか?」
ウルラがそう尋ねる。
彼女は最上級の冒険者であり、このギルドの長。
クロケットやオリヴィアの首にある四本の首輪に、いち早く危険性を見いだしたのも彼女だったから。
「そうねぇ。この鈍色の首輪。『隷属の首輪』と呼ばれていたものは、対になる腕輪で命じたときと、無理に外そうとしたときのみ、苦痛を伴うようにできているみたいね。けれど、切ってしまっても構わないでしょう。鍵穴が潰されているようだから、ルードちゃんの取った方法のみ、可能だと思うのですけどね」
金属製の首輪。
彼女が言うには、魔力で焼き切るのが一番だと言うのだ。
少なくとも、首輪と対になる魔道具は、ルードたちの手元にある。
苦痛を伴うのであれば、早急に処理しなければならないだろうが、今、慌ててやる必要はないかもしれない。
「なるほどな。残りの三本はどうなんだろう?」
オリヴィアはひとつため息をつく。
「他は気をつけた方がいいわねぇ。これ、見てくれるかしらぁ?」
そう言うと、首元を片手で差す。
「この壊れた『眠りの首輪』と『吸魔の首輪』。この二つはここ。細い網目状のものがね、皮膚の下に埋まっているのが見えるはずよぉ」
よく見ると確かにそう見える。
どのようにしてそうなっているかは不明だ。
「首の両側にある太い血管にね、直結しているの。『本質の首輪』はね、簡単に外すことはできるのよぉ。でもね、元の姿になったとき、この網が引っ張られて中で切れたりしたら」
「そうしたら?」
「ほどなく、死ぬでしょうねぇ。『本質の首輪』がね、トラップになっているようなものだと思うわぁ。もの凄くね、厄介だと思うのよぉ」
彼女が言うには、装着した者しか、外す方法はわからない可能性がある。
もしかしたら、『着けた者にもわからないかもしれない』と、首を振る。
「こんな厄介なものを作った、『アーライト』さん、でいいのかしら? どこから来た『悪魔憑き』なんでしょうねぇ?」
何気に本日一番の爆弾発言。
「その、オリヴィアさん」
ルードが聞く。
「あら嫌だわぁ。さっきみたいに、『オリヴィアお母さん』って、呼んでくれないとね、何も教えてあげないんだからねっ」
そう言うと『ぷいっ』と、横を向くオリヴィア。
「その、ごめんなさい。オリヴィアお母さん」
「うんうん。素直な子は大好きよぉ。それで、何かしら? ルードちゃん」
「あ、はい。その、『アーライト』って、誰なんですか?」
「この宝玉をね、作った人。『制作者』の欄にね、書かれているの。『アーライト・ヴァレンテン』。こんなとんでも〝アイテム〟作る人なんて、『悪魔憑き』以外、考えられないでしょう?」
「はい。確かにそうかもしれません。キャメリア、知ってる?」
「私も、耳にしたことはございません」
「ウルラさんは?」
「聞いたことはない名前だな。グルツにあったことや、家名から察するに。おそらくだが、ヴァレント教に関係する者、……としか今は言えないだろうな」
ルードは腕組みをして、しばらく考え込む。
ややあって、顔を上げると――。
「とにかくですね、僕は一度、ウォルガードに戻ろうと思うんです。とてもじゃないけれど、僕だけでは判断できませんから。フェリスお母さんたちに相談して、明日にはまた戻ってきます」
「明日にって、……あぁ、そういうことか。そうだな。あいつらの尋問は、ルード君が戻るまで延期にしよう。なに、精霊にお願いすれば、調整など容易いことだ。ただな、尋問するときは、ルード君の能力が必要だ。万が一、自害されては困るからな」
神殿長を名乗る男たちは、今も眠らされたまま、ギルドの地下に留置されている。
ウルラの苦い表情から察するに、『過去にそういうこともあった』と書いてあるように思える。
「わかっています。オリヴィアお母さんもそれでいいですか?」
「そうねぇ。私が見た感じ、外す方法は書いてないみたいですからねぇ。皆さんにも会ってみたいですから、そうすることにしましょうか」
今後の打ち合わせを軽く終え、ルードたちは冒険者互助会の建物を後にする。
ギルドから馬車で出ると、鳥人種が発着する場所へ到着。
そこで、ルードは周りの人たちに注意を促す。
「すみません。少しだけ下がっていただけますか?」
何が起こるのか、興味ありげに見守る鳥人種の人々。
「じゃ、キャメリア、お願い」
「はい、かしこまりました」
キャメリアは龍人化の指輪へ魔力を流し、念じることで飛龍の姿に戻る。
「あぁら、すっごいわねぇ。ドラゴンさんじゃない。まるで〝ファンタジー小説〟みたいな――って、私もそうだったわ」
驚きと、セルフぼけツッコミ状態なオリヴィア。
それでもおっとりとした口調は崩さない。
クロケットの『にゃ』とは違う彼女の話し方は、きっと素の状態なのだろう。
「いやはや、美しいものだな。二回目だが、ここまで紅いのは見たことがないよ」
感嘆の声を述べるウルラ。
「いえ、その。ありがとうございます」
大きな飛龍の姿で、両手で頬を覆うキャメリア。
彼女はきっと、この姿を褒められることに慣れていないのだろう。
「ウルラさん」
「なんだ?」
「時間があったらその、精霊さんのことを――」
「あぁ。約束だったからな。明日、尋問が終わったら考えとくよ」
「やった」
喜ぶルードは、左腕にクロケットを、右腕にオリヴィアを抱いたまま、軽い足取りでキャメリアの背中に登っていく。
オルトレットは、ルードが乗り終えると、ルードの後ろに座る。
「では、キャメリア殿。よろしくお願いいたしまする」
「はい。任せてくださいまし」
受付にいたナイアターナも、ウルラと一緒に見送りに来ている。
「ルード君。いってらっしゃい」
「あ、はい。すぐに戻ります。そしたらまた、料理も作りますから。あのときの味噌煮込みうどんも」
「はい、楽しみにしてます」
「ウルラさん、ではいってきます」
「おう。気をつけてな」
これから戻る先は、魔力の豊富なウォルガード。
帰路に関して言えば、魔力を気にすることがないのだ。
キャメリアは、背中の翼に魔力を纏う。
紅い魔力のゆらぎが発生。
魔力で強制的に、熱と風を発生させる。
そのときに、やや大きな音も出ていたようだ。
「あらぁ。まるで〝ジェット機〟みたいな音ねぇ」
「あ、それ。イエッタお母さんも言ってました」
キャメリアはゆっくりとホバリングする。
「キャメリア、あまり飛ばしちゃ駄目だからね」
「かしこまりました」
「大丈夫ですよ。風の魔術で保護してくれるんでしょう?」
「あー、全部わかってるんですね」
「えぇ。それはもう」
「じゃ、キャメリア。ほどほどに、お願いね?」
「はい、ルード様」
――地上から見上げるウルラ。
「あーこりゃ、敵わないわ。うわ、もう見えなくなってるよ。……あんなに速く飛べるのか。戻ってきたら、あたしも乗せてもらおうかな?」
「梟人族が何を言ってるんですか?」
「いやだってさ、飛龍だぞ? ルード君の話だと、音の速さに迫ってるとか、追い越してるとか。速さは強さだぞ? 羨ましいじゃないか」
「まったくもう。ほら、仕事があるんですから」
ウルラの背中を両手で押すナイアターナ。
ウルラは苦笑しつつ、気だるそうに歩いて行く。
「はいはい。わかってるって」
シーウェールズ上空――。
あっという間に空を駆け抜け、狼人族の村をなめるように飛び、ややあってウォルガードが視界に入ってくる。
キャメリアは徐々に、速度を緩め始める。
ルードの指示通り、彼女は彼女の感覚では『ほどほどに』飛んできた。
それでも、船旅に比べたらあっという間だった。
ウォルガードに近くなると同時に、大気中の魔力の濃さも感じられるようになってきた。
「あれがウォルガードです」
「あらまぁ。あそこに、あの子もいるのですね?」
「はい。ヘンルーダお母さんも驚くと思いますよ。ね? お姉ちゃん」
「……うにゃぁ」
まるで返事をするかのような、寝言が返ってくる。
ルードの目からこぼれ落ちる悔し涙。
それがオリヴィアに落ちてしまったのかもしれない。
「ルードちゃん。男の子は、泣いたらだめですよ? きっと方法はあるから。千年以上生きてる知恵袋さんたちが、私の他に三人もいるんですから、ね?」
「あ、……はい。大丈夫ですっ」
ルードは上を向く。
頬に流れた涙が、これ以上流れないように。
上を向くと、巨大な顔が見えた。後ろに座るオルトレットだった。
彼も男泣きをしていたようだ。
「あ、オルトレットさん……」
「いえ、その。わたくしのこれは、心の汗にございま――」
「はいはい」
呆れるような声でツッコミを入れるオリヴィアだった。
ホバリングしながら、商業区をスライドするように進んでいく。
キャメリアの翼から出る、特徴的な音で気づいたのだろう。
人々は見上げながら、ルードたちに手を振ってくれる。
「あそこが王城で、あの湿地の先に見えるのが、ケティーシャの村です」
「あら? そんな名前にしているのですね?」
「はい。前にですね、お姉ちゃんとヘンルーダお母さんとで話し合って、そうしようって」
「ありがとう。あの人も、きっと喜んでくれると、思うわ」
王城の上空を、キャメリアがゆっくりと旋回する。
すると、テラスのある場所から、一人の美少女が手を振っている。
「キャメリア、王城の上に降りてくれる?」
「かしこまりました」
「オリヴィアお母さん。あの人が、フェリスお母さんです」
「あらまぁ。あんなに可愛らしい方、だったのですねぇ」
「あ、はい。そうですね」
キャメリアが徐々に高度を下げていく。
王城の一角、まるでヘリポートのように平らになっている場所。
そこにゆっくりと着陸した。
いつもなら、勢いよく走ってきて、抱きつくところだったフェリス。
だが今日は、イエッタたちと迎えに出てくるだけ。ルードを確認すると、優しく微笑んでいるだけだった。
「お帰りなさい、ルードちゃん」
イエッタが細い糸目で無理に笑って見せるが、クロケットの姿を確認すると、糸目は更に細くなり眉をひそめてしまう。
「キャメリア、さっさと報告なさい」
労いの言葉もなく、高揚のない少々強めの言葉で、キャメリアに声をかけるシルヴィネ。
彼女はルードとオルトレットが降りると、即座に姿を戻し、ルードに一礼をしてシルヴィネの元へ。
「はい。お母さん」
ルードだけにはわかっていた。
シルヴィネの瞳が、『キャメリアを褒めてしまいたい』というものや、『かといって、母親の威厳をたもたなければならない』などの葛藤で、困っている感じが感じられたからだった。
シルヴィネは、キャメリアを連れて、フェリスの私室へ歩いて行く。
おそらくは、キャメリアの知りうる限りの情報を、すり合わせしようと思っているのだろう。
イエッタの横に並ぶフェリス。
「ルードちゃん。おかえり。大変だったわね」
「ううん。大丈夫です」
「お初にお目にかかります。『消滅のフェリスちゃん』、『瞳のイエッタちゃん』。先ほどの方が、『炎帝のシルヴィネちゃん』ですね?」
「えぇ。そうよ。あなたが、クロケットちゃんの」
「はい。オリヴィア・ケティーシャです。ヘンルーダと、クロケットちゃんがお世話になっています。あ、オルトレットもそうだったわね」
伝説の二人を前にしても、おっとりとした口調を変えず、マイペースで挨拶する。
「ルードちゃん、ちょっと後ろを向いてくれるかしらぁ?」
「あ、はい」
後ろを向くと、そこには辛そうに笑うオルトレットの姿が。
「オルトレット」
「はい。王妃殿下」
「もうそれはいいわぁ。とっくに、亡国になってしまったのですからね。それよりも、ケティーシャ村に行って、ヘンルーダを呼んできてくれるかしらぁ?」
「御意にございます。ルード様、フェリス様。イエッタ様。では後ほど」
オルトレットはその場から去って行く。
イエッタが近寄ってくる。空気を察したのか、フェリスが手を広げる。
ルードの腕から飛び降り、そこに駆け込むオリヴィア。
「ルードちゃん。状況はある程度わかっています。ちゃんと、『見て』いましたからね」
大きく両手を広げて、クロケットごと優しく抱き寄せるイエッタ。
「は、い……」
ルードはイエッタの腕で、声を押し殺しながら泣いた。
緊張の糸が切れてしまったのだろう。
ルードはここにいる三人と比べたら、ルードはまだ幼い赤子のようなもの。
これまでのことは、フェリスが手出し無用と決めた。
それでもルードにはきつい試練だったはずだ。
「ルードちゃんたちなら、自分で解決できるはず。そう、我たちは判断したのです。ごめんなさいね。辛い思いをさせてしまって」
▼
クロケットは未だ目を覚まさない。
ヘンルーダの膝の上で、安らかな寝息をたてている。
「おねーちゃん。気持ちよさそにねてるね」
「えぇ。そうですね」
隣でに座り込んだけだまが、クロケットの背中を撫でていた。
その横で、シルヴィネがフェリスと相談しつつ、錬金術師のタバサを交えてオリヴィアの首に巻かれている、魔道具の調査を始めていた。
壁際で、オルトレットとイリス、キャメリアの三人は、情報交換を行っていた。
流石にこの人数では手狭になってしまうことから、場所を移動した。
旧第三王女邸宅。今はルードたちが住んでいる屋敷の居間。
い草に似た植物の繊維で編まれた畳もどきが、床一面に敷き詰められている。
久しぶりに家に帰ってきたという、心安まる匂いに包まれていた。
「そういえば、フェリスお母さん」
「ん、何? シルヴィネちゃん、あとはお願いね」
「はい、任せてください」
オリヴィアの元から立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。
イエッタがルードの両脇から手を差し入れ、膝の上に寝かせていた状態からひょいと抱き上げる。
フェリスがイエッタの隣に座ると、彼女にルードを抱かせる。
ルードとフェリスはほぼ同じ背格好。だからルードを膝枕させるような姿になっていた。
「フェリスちゃん。我はあちらに行ってますから。ルードちゃんをお願いしますね?」
フェリスと入れ替えに、オリヴィアの元へ向かうイエッタ。
「うん。ありがと。さて、どうしたの? ルードちゃん」
「あのね、母さんの匂いがしないんだけど、どこかいったの?」
「あー、うんうん。それね。リーダちゃんは今、ちょっと調査に出ているのよ」
「調査?」
「大したことじゃないわ。ルードちゃんとエリスちゃんがいずれ、あの大陸で何かを始めると思ってたのね? あちらの大陸は、『人種至上主義』を掲げた国が多く存在しているのは知ってるでしょう?」
「はい」
「ルードちゃんたちが出てから、三日後だったかしらね? リーダちゃんもあちらの大陸に向かったのよ。ルードちゃんが自分の用事を済ませている間にね、あの子はルードちゃんのやりたいことを、邪魔する可能性を摘みに行ったの」
「そうだったんだ」
「あの子が自分で考えて向かったの。成長したなって、感心したわ。それにね、私が作ったヤツをね、色々と持たせてるから大丈夫。ついでにね、リーダちゃんの、お姉ちゃんたちを探してると思うのね。あの子はほら、相当根に持っていたじゃない?」
「あー、うん。そうだったね……」
どれだけ恨み節を聞かされたことか。
それはルードにも、思い当たることが山ほどある。
「だから心配しなくてもいいわ。そのうちふらっと帰って来るから。大丈夫よ。イエッタちゃんが、ちゃんと『見て』てくれてる。どこにいるか、お見通しなんだからね?」
「あははは。それは確かにそうだね」
その晩――。
ルードは荒れたイリスを宥めるのに一苦労することになる。
「――わたくしがついていたなら、あのようなことは避けられたはず。ですが、フェリス様から止められてしまっていたので……」
「はいはい。ごめんね、イリス」
あまりの悔しさに、さめざめと泣き出してしまうイリス。
イリスは、ルードに忠誠を誓った家臣の筆頭であると同時に、リーダの義理の妹でもある。
ルードからみたら、叔母と言っても過言ではないだろう。
リーダが、ウォルガードにルードを連れ帰ったあの日から、イリスはルードの執事となった。
ルードがまだ陸路を移動していたときは、イリスはいつも、ルードの傍らにいた。
高所恐怖症さえなければ、ルードの傍を離れることはなかっただろう。
だが、けだまたちの成長を見守るのもまた、『可愛い物好き』である彼女の生きがいとなってきている。
キャメリアがルードと一緒にいる今は、家を守ることができるのはイリスだけ。
イリスは実は、リーダ以上に自制が効かない部分が見受けられる。
だからもし、ルードの身に何かが起きようとしていたとしたら、真っ先に動いてしまっていたはず。
それを懸念して、フェリスはイリスに留守番を強いていたのだった。
ルードは明日、あの大陸に戻ってしまう。
リーダの居ない今夜は、ルードの傍を離れたくないと駄々をこねてしまう。
仕方なくルードは、イリスの膝枕で寝ることにしたのだった。
クロケットは今晩、オリヴィアと一緒に、ヘンルーダの家にいる。
オルトレットを含め、従妹のクロメたち、ケティーシャ村の皆と一緒のはずだ。
オリヴィアとヘンルーダは、語り尽くせぬ夜を過ごしていることだろう。
――翌朝、殆ど寝ていないはずなのに、その頬がツヤツヤテカテカになっていたイリス。
きっと一晩中、『ルード分の吸収』をしつつ、十分に堪能できたのだろう。
「おはようございます。ルード様」
イリスの笑顔はちょっと眩しかった。
お読みいただきありがとうございます。
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