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フェンリル母さんとあったかご飯 ~異世界もふもふ生活~  作者: はらくろ
第六章 海を越えた東の空の下。
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第十一話 ウルラの努力と、商材の用意。


「ウルラさんの指なら、んー。利き手どっちですか?」

「あたしは右手だけど?」


 ウルラはルードの前に、右手をかざして見せる。それを見たルードは、自分の指の太さと比べてみた。


「んーそれなら、左手の中指か、小指に着けてみてください」


 ルードはウルラに指輪を手渡す。

 もちろん受け取る側のウルラは躊躇(ちゅうちょ)した。

 なにせ、生まれて初めて見る上に、ルードの家族が試作した、希少性の高い魔道具である可能性があるのだから。


「これ、あたしが持っていてもいいのか?」

「大丈夫です。僕は使いこなせませんでした。もしかしたら、ウルラさんなら――って思ったんです。あ、もちろん、貸すだけですよ? いらなくなったら返してもらいますから」


 ルードは昨日、『精霊と契約できる者は、清廉な心を持つ』と聞いていた。

 精霊に気に入られなければ、契約も力を貸してくれすらしないということなんだろう。


 逆に言えば、精霊と契約できる人は、綺麗な心を持つということ。

 もしルードの能力を発動した際、命令されるのではなく、『お願い』を聞いてくれる立場にある人かもしれないとも言えるのだ。


 ウルラがいなければ、これだけ早く立ち直れただろうか?

 助けてもらったからこそ、今できる精一杯で、彼女の希望も叶えてあげたい。

 ルードはそう思ったのだ。


「これで、いいのか?」


 ウルラは左手の小指に指輪をはめる。

 装飾品というより、見た目は指輪を模した魔道具然としている。

 華やかさも、質実さもないからだろうか?


「あとはですね。こう、頭の中に思い浮かべてください。ウルラさんなら、キャメリアみたいな足になりたいとか? または、背中の腕と翼を隠したい。みたいな感じでしょうか? その指輪は、偽装の指輪といって、脳内に『イメージした』、じゃない。んー、……思い描いた、偽装を施す魔道具なんです。ただ、試作品なので、物凄く〝ピーキー〟なんですね」

「ぴーきー、というと、どういうことなんだ?」

「あ、はい。わかりやすく言うとですね、『お転婆』とか、『わがまま』な感じでしょうか? やんちゃな子供が、なかなか言うことを聞いてくれない。そんな感じかと思います」

「そうか。足、足、……こんな鳥人族じゃない、綺麗な足」

「そうですか? 僕、ウルラさんの足、綺麗だと思いますけど?」


 一瞬、ウルラの足の周りに揺らぎが発生したと思ったが、すぐにかき消えてしまう。


「――そ、そんな集中の途切れそうなこと言わないでくれっ!」

「あ、ごめんなさい……」


 恥ずかしさからつい、ウルラは声を荒げてしまった。

 反応してルードは、ちょっとだけ俯く。

 キャメリアは、ルードの後ろからそっとお腹に手を回す。

 落ち込んだというより、納得いかないような表情をしている。


「僕何か失礼なこと言ったかな? んー、よくわかんないんだよね」

「ルード様。もう少し、女心というのを学びましょうね?」

「そんなこと言われてもさぁ……」

「そんな天然なところも、可愛らしいですよ。ですよね? ウルラ殿」

「あ、あぁ。そうだとも」


 何故かキャメリアとウルラは、ルードのことに関していえば、同じ価値観を持っているのかもしれない。

 キャメリアがルードの可愛さに対し問いかけると、二つ返事で納得するのだから。


「待っていてくれ。明日にはこの魔道具、使いこなしてみせるから」


 再び、物凄く集中した面持ちになるウルラ。

 ルードですら、あまりにもピーキーすぎて手に余るこの指輪。

 それでも目的があれば、制御が可能なのだろうか?

 ウルラがそう言うのだ。ルードは信じることにする。


「無理はしないでくださいね? 微量とはいえ、魔力を消費してますから」

「あぁ大丈夫だ。あたしは大人だからな。任せておけって」



 打ち合わせが終わり、午後からまた人族の冒険者たちは、更なる情報を求めてグルツ共和国へ向かった。


 ルードも一両日中にはに、グルツ共和国膝元の町へ潜入を開始するつもりでいた。

 今はそのための準備をしなければならない。


 もちろんこの町でも、精製をされた小麦などは手に入る。

 キャメリアに持ってきてもらったものを使えばいいのかもしれないが、それでは継続して同じ品質のものが作れるか疑問となってしまうのだ。

 こちらで売る物なのだから、こちらで採れる材料で美味しい物をつくらなければならない。

 ルードはちょっとしたこだわりを持っていた。


「どうしよっかな? まずは、物珍しいこと。あと匂い、それと安さだよね? キャメリア何か良い案ある?」


 ルードは振り返り、キャメリアの瞳を覗く。

 龍人の姿ではなく、すっかり人の姿になった彼女。

 真紅の髪に変わりはないが、過去に城下町などで近い髪色の人を見たことがある。

 こうして角さえなければ、キャメリアは人に見えなくもない。


「あ、キャメリア、ひとつ忘れてるよ?」

「何でございましょうか?」

「瞳。飛龍独特のさ、縦に長い瞳になっちゃってる。人間にはいないからさ」


 キャメリアは虚空から手鏡を取り出す。

 自分の瞳を映し、ため息をついた。


「これは気付きませんでした。そうですね……。ではルード様と同じにしておきましょう」


 一瞬点のように縮んだかと思うと、あっさりルード瞳そっくりの、大きさと色になった。


「そうですね。肌の色も似た感じに。ですが、髪だけは譲れません」

「いいってば。別にそこまで無理しなくてもいいよ。でもすっごいね。これが偽装の魔術。僕が前にね、羨ましいって、フェリスお母さんに泣きついて――」

「(泣きついてしまったのですね)」

「ううん違った。お願いして、作ってもらったのがあの偽装の指輪だったんだ。あれ、あまり魔力は消費しないんだけどさ、ものすごーく集中力しなきゃ、駄目なんだよ。途切れてしまうとね、偽装が解けちゃうからさ……」


 ルードにとってあの魔道具は、精神集中のための鍛錬にしか役立っていないのだろう。


「ルード様、話を戻しましょう」

「あ、そうだった。僕はね、温まるものがいいと思うんだ。キャメリアはさ、どう思う?」

「そうですね。例えば、……私は荷を持ち歩けます。ですが、普通の方はそうではありません。少ない荷ならば背負い、多い荷ならば馬車に乗せてで旅をします。それならば、できるだけ軽くて、保存が利いて、美味しいものならきっと、目を引くのではないでしょうか?」

「あ、そっかぁ。その場で食べてもらうだけじゃ駄目だよね。それじゃ交易商人じゃなくなっちゃう。そういえば僕、母さんの背中に乗ってたときは、お腹が空く前に着いちゃってたし。イリスなんて、あっという間だったんだよね」


 キャメリアの指摘は適切だった。

 言われてみればルードは、長期滞在の経験はあるが、長旅をしたことがない。

 森で狩りをしたことはあるが、町や村から遠いところで野営をしたことがないのだった。


「今はほら、キャメリアがいるからさ、保存食って持って歩いたことはないかも」

「確かに、購入したこともありませんね」

「うん。アルフェルお父さんたちが、シーウェールズから馬車で旅をしてたときは、きっと保存食を持ち歩いてたんだと思う。そう考えると、いいかもしれない」


 昨日のうちに市を見て回り、どの材料がどこ売っているか?

 ある程度の目星がついていた。

 ルードはあらかた買い込み、ナイアターナへ相談。

 ギルドの一階にある食堂の厨房を借りることになった。


「前にね、イエッタお母さんにね、どうしても作ってほしいって言われたのがあってさ、あれを作ろうと思うんだ」



 ルードの家は、主食が基本は米と麦。

 米はほかほかに炊いて食べている。

 麦はお菓子の用途で利用することはあっても、ご飯としてはパンを焼くことが多かった。


 ネレイティールズから戻った後、タバサの工房ででたまたま居合わせたルードとイエッタ。

 彼女はルードに『あの〝チープ〟な味が忘れられないのよね』とお願いする。


 イエッタがルードに食べたいと願ったのは、〝インスタントラーメン〟だった。

 ただ、ラーメンの麺には、〝かん水〟というこの世界でどれが該当するのかわからない成分が含まれていた材料が必要だった。

 探すところから始めると大変だったため、多少妥協してもらうことになった。


 ルードが提案したのは、インスタントのおうどん。

 うどんの揚げ玉はネレイティールズでも作ったから。

 出汁をとって、ちょっと濃いめにしょう油で味を調える。


 うどんは少量の塩、水を少しずつ加えながら混ぜていき、ある程度練ったら寝かしておく。

 小一時間経って、ちょっと不揃いだが細めのうどんが出来上がる。

 それを蒸し器を使い、魔法で蒸し上げる。蒸し上がったら油を絡めて少し冷ます。

 〝記憶の奥にある知識〟によれば、ここからが肝心だというのだ。


 一人前の大きさの金属ざるを作って、大鍋で油を加熱。

 おおよそ百五十度と〝記憶の奥にある知識〟にあったので、油の温度を溶き小麦粉を落としてみる。

 鍋底に沈んで、六秒ほどでゆっくり浮き上がるのが百五十度くらいだとあった。


 その温度をキープする火加減にすると、ルードはザルに入ったうどんをそのまま油に沈める。

 水分が蒸発するかのように泡が出なくなったら引き上げる。


 油を切ったあと、風魔法できっちりと冷ます。

 イエッタに見せると、『インスタントラーメンみたいになったわね』と、うどんの端を折って口に運ぶ。

 『うんうん。こんな感じよ』とご満悦だった。


 小鍋にお湯を張り、そこに揚げたうどんを入れる。

 菜箸でほどきながら、しばらく湯がいていく。

 やわらかくなったあたりでお湯をきる。


 器にうどんを入れて、上からあらかじ作って置いた汁をかける。

 最後に揚げ玉と生卵を入れて、薬味を小さく切って乗せて完了。


 イエッタは思い切りよく、深呼吸をするかのように匂いを堪能。

 『おうどんはね、音を立てて食べるものなのよ。けっしてお行儀がわるいわけじゃないの』と言った後、軽く啜って、うどんの汁を飲む。


 何度も失敗を繰り返し、やっとイエッタの笑顔を見ることができる。

 彼女は『これよこれ。ほんと、インスタントのおうどんそっくりだわ。

 釜揚げのおうどんも美味しいのよ。

 でもね、これはこれで別物。この〝チープ〟さがなんともいえないのよね』と言いながらも、涙を流して喜んでいた。


 ルードは『なぜこんな手間をかけてまで食べたかったのか?』聞いてみた。

 すると彼女は『これはね、保存食の一つなの。防災といってね、突然の大雨や大雪。

 そんな、何かあったときのために備えて置いておく食べ物だったの。

 まぁ、何もないときにもね、夜食のときなどに簡単にできるから、重宝していたのよ』と苦笑する。


 イエッタが喜んでくれたから、ルードはそれ以上質問することがなくなってしまった。

 それは何故か?

 ルードの持つ『旅』の概念に、保存食が必要ではなかったからかもしれない。


 ちなみに、水の魔法で無理矢理水分だけを飛ばして、乾燥させたうどんをお湯でもどしてはみた。

 だが、イエッタは『ちょっと違うわね。これじゃインスタントっぽくないのよ』とダメ出しをされてしまった。


 ▼


 ルードはキャメリアに、そんな思い出話をしてる間に、かなりの数の揚げ乾燥うどんが出来上がる。


 あのときは普通にうどんのつゆや薬味をその場で用意していた。

 イエッタが言うには、麺は油で揚げた方良いという。

 だが、薬味や味付けに使う調味料は、〝フリーズドライ〟という製法を使うものだと、イエッタから教わる。


 もちろんこちらも、水の魔法であらかじめ試してはいる。

 加減がうまくいかず、イエッタは首を捻ってしまっていた。

 このあたりは、タバサに研究をお願いした方がいいのだろうが、保存食を量産したとして売る予定がなかったので、まったく進んではいなかったのだ。


 〝フリーズドライ〟の原理については、あらかじめ〝記憶の奥にある知識〟で調べ終わっていた。


「キャメリア、出汁とるからさ、あの大きい方の鍋とあれ、それと、んー――味噌とお砂糖。あのお酒もくれる? あ、あと山猪一頭分の、脂身の多いバラ肉ね」


 ルードが『あれ』と言ったのは、出汁を取る際の乾燥した海藻の一種。

 『あのお酒』とは、米から作ってもらった、糖度の高い料理酒のようなもの。


「はい」


 ここの厨房は、魔道具で火をつけ、薪をくべて焚くコンロのようなものを使っている。

 辺境の森に住んでいたころは、こんな感じだったから迷うようなことはなかった。


 ルードは、タバサにお願いをして作ってもらった、比較的機密性の高く、一カ所だけ排気口のような小さな四角い穴の開いた蓋を持つ、大きな厚手の鍋をいつも愛用している。

 その中でたっぷり濃いめに出汁をとり、キャメリアに出してもらった氷漬けの山猪一頭分のバラ肉を薄切りにする。

 バラ肉はこの脂身を煮込むと、旨味も出て美味しくなるのだ。


 グリムヘイズの町で買った数種類の根野菜を、みじん切りにして飴色になるまで炒める。

 そのあとに、薄切りにしたバラ肉を炒め、出汁をいれて一緒に煮込む。

 途中灰汁をとりながら味噌と甘い酒、砂糖で濃いめに味をつけて、ことことと煮込む。

 ちょっと濃いめな具だくさん豚汁に似た、うどんのつゆを作っていく。つゆの入った鍋を、火から外して味を見る。


「ちょっとしょっぱいけど、こんな感じかな? んっと『凍れ』」


 鍋の中にあったつゆは、あっという間に凍っていく。いわゆる瞬間冷却のように。


「ルード様、あまり魔力を」

「うん、わかってる。料理での使い方なら無理にはならないから。それになるべく無駄のない使い方してるよ、大丈夫」


 幸い、先程オルトレットから分けてもらったから、ルードの体内にある魔力はほぼ満タン。

 この程度の魔法であれば、さほど魔力を消費しない。

 それにこの作業は、クロケットの情報を得るためには大切な作業なのだから、無駄づかいということはないはずだ。


 鍋に蓋を被せる。

 その鍋は、蓋の途中に一センチ四方の四角い穴が開いているだけ。

 ルードが時短煮込みをするときに使うもの。

 普段は蓋が外れないように固定し、穴から加圧して煮込み時間を短縮する。

 今回は違うが、同じ原理で加圧も減圧もやり方次第な力業鍋だったりするのだ。


「んー、〝圧力鍋〟とは逆だから。イエッタお母さんと一緒に何度も試したんだ。『風よ』」


 ルードは彼独特な無茶ぶりに近い魔力制御により、風魔法の無茶ぶりで、鍋全体に圧力をかける。同時に鍋蓋に開いた穴から一方通行で、空気を吸い出すようにする。


 中を減圧するように、空気を抜くイメージで魔法をかけ続ける。おそらく中は、真空とまではいかないが、それに近い状態になっているはず。


「『火よ、ゆっくりゆっくり温めろ』」


 イエッタと実験をしながらこの方法を編み出した。

 最初は加熱の具合が悪かったせいか、昇華で乾燥させる前に焦げてしまったりしたのもだ。

 おかげでさじ加減を理解することができている。


 ルードがやろうとしているのは、味噌出汁を無理矢理冷凍したあと、鍋の中を真空状態にする。

 そのまま氷った状態から、液化させないで水分だけを蒸発――昇華させようとしている。

 これにより、沢山あった鍋の中のつゆは、水分だけが抜けていくはず。


「んー、どうだろう?」


 ルードは鍋を冷やしたあと、蓋をとって中を見る。

 すると、彼の口元は嬉しそうに吊り上がる。


「うん。これでいいみたいだね」


 鍋の中には、ガサガサの味噌の色で、具が固まったものが残っていた。

 端の方を砕くと粉状の味噌にになっている。


 ルードはその塊を、ナイフで四角く切れ目を入れる。匙で一杯ほど掬って器に入れる。そこにお湯を注いで。軽くかき混ぜて、味を見る。


「……あ、お湯入れすぎたかな? もうちょっと足して、と」


 更にさじ一杯入れて、また味見。


「うんうん。フリーズドライってこんな感じだったと思う。こうすると、こんな風に変わるんだ。味は損なわれていないみたい。多分成功してるはず。はい、キャメリア、どう?」


 キャメリアにも味見をしてもらう。


「はい。お味噌汁、……でしたか? あれよりは少々塩辛くは感じますが、美味しいです」

「あ、そっか。このままだと確かにしょっぱいかもだね。そういえばキャメリアは、うどん食べたことないんだもんね」

「はい。確か」

「じゃ、小さい方のどんぶりくれる? あと、小さい鍋の蓋もね」

「はい。これでしょうか?」


 ルードは小などんぶりと蓋を受け取る。

 そこに揚げうどんを入れて、四角く切り取った味噌汁の塊を乗せる。

 上からゆっくり、まんべんなくかかるようにお湯を注いでいく。最後に蓋を置いて準備完了。


「なるほど、これはこのようにするわけなのですね?」

「うん。確か前にやったときは、気温によりけどだけど、今くらいなら三分かな? 軽く煮るなら一分でいいと思うよ」


 今のうちに、薬味になる乾燥葉野菜を刻む。

 ややあって蓋を取る。

 そこからは、さっき作った味噌と少しの油の香り。


 上から細かく刻んで香りを出した薬味を載せて、匙でちょっとだけ味見。


「うん。いいと思う。はい、キャメリア」

「え? 私がいただいてもよろしいのですか?」

「だって試食だもの。全部食べなくてもいいからさ、残ったら僕が食べるから」

「いえ、その……」

「だって、僕はキャメリアお姉ちゃんの弟だよ? 姉弟なんだからいいじゃない? お姉ちゃんもそう言うと思うよ?」


 ルードはきっと我慢しているのだろう。

 それでも明るく振る舞おうとしている。


「はい。ではいただきます」


 試食はいつもクロケットの役目だった。

 それをキャメリアがするのだ。

 重要な役目であり、ルードの気持ちもこもっている。


 ふわりと鼻腔を撫でる、油と味噌の香り。

 ルードが作る、上品な感じではなく、田舎くさいというかそんな感じがする具だくさんの味噌うどん。


 それにキャメリアは、お肉も大好きなはず。

 分厚く煮込まれた、バラ肉を頬張ると、とても良い顔をする。


「――はぁっ。あふっ。んぐんぐ。んっく。おいしっ。……あ、申し訳ございません。なるほど。もしかしたらこのお手軽な感じが、イエッタ様のおっしゃっていた『ちーぷ』なのでしょうか? 脂っ気が好きな私たち飛龍は好みの味かと思います。とても美味しゅうございますね。栄養価も高そうですね。乾燥している状態なら、軽くて持ち運びも楽でしょう」


 ルードは我慢し、気を張りながら慌てず、商材となる保存食用うどんの準備をしていた。

 それは、ルード自身が間違っていないという証明になるからだ。


 ウルラに諭されたように、ルードの能力によって『魔力猫様は、丁重に扱われています』という返事を信じるしかない。

 それは本来、ルードの左目に眠る、亡くなった兄のフェムルードが持つはずだった能力。

 兄から譲り受けた能力なのだから、信じなければいけない。


 それができなければ、エルシードの残してくれた、けだまやキャメリアたちのように、本来話すことができない人たちと繋がることのできる能力も。

 ルードの持つ〝悪魔憑き〟の能力、〝記憶の奥にある知識〟も、イエッタの〝瞳〟まで疑うことになってしまうと思えたからだ。


 キャメリアもオルトレットも、ルードの能力を信じてくれている。

 だからきっと、大丈夫。そう思えてくる。


「でしょ?」


 ルードもちょっとだけ笑顔になっていくのだった。


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