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フェンリル母さんとあったかご飯 ~異世界もふもふ生活~  作者: はらくろ
第六章 海を越えた東の空の下。
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閑話 リーダはいまどこに? 母の抱える任務とは?

ここまでの閑話です。

これまでリーダは何をしていたか、何をしていくか。

 アッシュブロンドの髪。

 プラチナブロンドの髪と違って、肌に近い部分が黒みかかっており、光にあたるところは銀色に輝く感じ。

 そんな毛質を持つ、背のすらっと高い、鼻筋の通った若い女性。


 探検家のデザインに近い、長袖の厚手の襟付きシャツ。

 膝丈の同じ素材のズボン。足下は足首の隠れる丈夫そうな靴。

 頭頂部に凜々しい髪と同じ色の、対になる耳。

 ふさふさの尻尾。

 誰が見ても狼人族の女性商人だろう。


 そんな偽装化身をした女性。

 狼人族に扮したリーダが、シーウェールズから到着する船のデッキから降りてくる。


 途中の海は、多少なりとも荒れたのだが、リーダは舟病に陥ることはなかったようだ。

 潮を香りを胸いっぱいに吸い込んで、右足を一歩前に出す。

 タラップを通り過ぎ、係のものに舟券を渡して、入国の手続きを始める。


「――はい。狼人族のフェリスリーゼさんですね。書類に間違いはないようです。こちらへは、どのようなお仕事で?」


 リーダは、フェリスからこんな話を聞かされていた。


『私の昔話。〝あれ〟はあちらの大陸であったこと。リーダちゃんにも話したことあるわよね? リーダちゃんには言ってなかったことなのだけれど、あの子たちはきっと、あのことの裏側を探して旅をしてると思うのね。まぁ、気ままに遊んでいるのは否定しないのだけれど』


 リーダの旅の目的は三つある。

 一つは、ヘンルーダの生まれ故郷の裏側を探ること。

 一つは、将来的にルードはこの地への交流が予想できるから、その際に立ちはだかる恐れのある芽があれば、摘んでおくこと。

 最後に、リーダにも因縁のある、フェリスの言う〝あの子たち〟を探しに来たというのもある。


 その途中であわよくば、ルードたちの様子をこっそり伺う予定があったのは、個人的な目的。


「えぇ。観光と言いたいところだけれど、わたしの仕事は仕入れの調査よ。妹に頼まれて、こちらの大陸で商材になるものを探しにきたんですよ」

「――さん。確認がとれました。なるほど、ご姉妹で商会を営まれているんですね。それでは充実した旅をお楽しみください。いってらっしゃいませ」


 ルードの到着したと思われる。

 西海岸北側の国――リングベルの港とは違い、そこよりも遥かに南に位置する港で、船を降りることになった。

 リーダが降り立った場所は、この大陸の西海岸のやや南よりに栄える大きな港町。


 リーダはエリス商会謹製の手帳に、ペンで(ふみ)を書く。

 それは、『変わったことはありませんか? ルードたちは元気でいますか?』と。


 リーダは右手の中指と、左手の中指に鎮座する指輪の玉を見る。

 右手は赤。

 左手は緑の、両方ともやや薄暗い感じのある玉。

 フェリスたちでも、製法がとても面倒な、対になる宝玉を使った魔道具だと聞いている。


 すると、左手の緑がうっすらと光り始める。

 眩しい程度ではないが、明らかに光を帯びているのが確認できた。

 イエッタがリーダの書いた文字を〝瞳〟の能力で読み取り、フェリスたちと相談して、緑が光れば可。

 赤なら不可を知らせる準備をしていたようだった。


 ウォルガードには、通信機にあたる魔道具がまだ存在しない。

 イエッタが、その知識を多少持ち合わせているからといって、それはあくまでも『使う側』の知識だから、簡単に再現できるわけではない。

 ルードの〝記憶の奥にある知識〟ですら、情報は入手できたとして、それを再現する方法など、この世界では難しい。


 イエッタ、フェリス、シルヴィネに加えて、錬金術師のタバサが寄り集まって、それでも現在のウォルガードには、オーバーテクノロジーであると結論が出た。

 だからこうして、苦肉の策で作り上げたのがこの魔道具。


 この二つしかなかったからか、リーダにだけ持たせているようだ。

 要は『言うこときかないと、怒るわよ』という、フェリスの考えなのだろう。


 玉が光る前は、少々心配した面持ちのリーダ。

 だが、一旦緑の玉が光るのを確認したからか、晴れ晴れとした表情になってきていた。


「そう。よかったわ」


 リーダは『イエッタさん、フェリスお母さま。ありがと』と、手帳に書き込んでいく。


「……さーてーとっ、どこから片付けたものかしら? あ、その前に腹ごしらえね。どんな美味しいものがあるのかしらねー」


 すんすんと、漂ってくる匂いに反応。情報を収集する前に、匂いに向かって回れ右。屋台の並ぶ場所へと足を進める。


「あらおいし。これはいまいちね。これは。んー。惜しいわ」


 食っちゃ寝モード全開。ぶつぶつ言いながらも、両手に串焼きや生地に巻いて焼かれたものなどを持ち、食べ比べながら目的の場所へゆったりと向かっていた。


 町中を歩くリーダは、ふと足を停めると、軽く深呼吸をしてみた。


「(あー、うん。やっぱり大気中の魔力が薄すぎるようね。シーウェールズで、この姿にしておいてよかったわ)」


 この大陸に渡って最初に気づいたのは、この地に風や大気から感じる魔力の量が、シーウェールズよりも更に少なく感じられたということ。

 フェリスから『耳と尻尾を出していると、魔力の消費が抑えられるのよ』と聞いていた。

 こうなることを予想して、リーダも準備していたということなのだ。


 リーダの体内に内包する魔力の量は、フェリスや母――フェリシアと比べられてしまえば、少ないと笑われてしまうだろう。

 だが、ルードと比べると、莫大な魔力を持っているのは確か。

 この歳になってもまだ、わずかかながらも成長し続けているのだから。

 それでもあの森にいたときは、魔力の消費を抑えるために、フェンリラの姿でいたほど慎重だったのは仕方のないこと。


 こうして、耳と尻尾のある、獣人らしい姿でいることが、魔力の消費を無意識に抑えるができるなどと、ウォルガードの誰が気づいただろうか?

 それこそルードがいたからこそ、イエッタがいたからこそ、気づくことができたのだと、フェリスも言っていたくらいだ。


 リーダが向かったのは、町の中心部。そこに見えてくるのは、赤いブロックのような、細長い石で組まれた立派な建物。


「(この名前……。フェリスお母さまから聞いた通り、ほんとうにあったわ。驚きね)」


 建物の入口には、リーダも読める文字で、『ギルド』とだけ書かれていた。

 入口が開け放たれているため、遠慮せずに建物内部に足を進める。


 中に入ると、短い木の組まれた床と、吹き抜けのように広々とする一階部分。右側には酒場兼料理屋と思われる場所。

 なにせ、昼から酒を飲んでいる男たちがいるくらいだから。


 酒に酔った男たちは、美しいリーダを見つけると、『そこの獣人のお姉ちゃん。一緒に酒を――』と、冷やかすように声をかけてくる。

 それをリーダは、鼻で笑うようにはしない。

 笑顔で『用事があるので失礼しますね』と、リーダは丁寧に断りを入れる。

 遠目からは柔らかく見えた彼女の表情は、目だけは決して笑ってはいなかった。


 身体の芯が冷えるような圧力(なにか)を感じたのか、偶然目を合わせてしまった男の一人は『お、おう……。済まなかったな』と、誤魔化すようにうつむき、酒に戻っていく。

 同席していた男たちは、不思議そうに問う。

 だが、目を合わせてしまった男は、酔いが冷めてしまうのが怖かったかのように酒をあおる。

 『い、いいから、邪魔になるようなことは、やめておけ』と返すことしかできなかった。


 リーダの目的は奥。

 カウンター向かいに立って業務を行っている、エリスよりは少し若い感じのする女性。

 見た目は人族にそっくり女性だが、リーダも見たことはない種族だろう。

 クロケットのように美しい黒髪だが、側頭部から頭頂部に向けて渦を巻くように湾曲した、根元が太く先に向かって細くなる、髪と同じ色味の角が生えているのだから。


 髪もくるくるふわふわで、けだまの髪質よりもボリューム感があって、細くて柔らかそう。

 ルードやエリスが、クロケットがいたら、抱きついてモフモフしてしまいそうな感じ。

 リーダもちょっと触ってみたくなるのを、ぐっと堪えているほどのものだった。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。物凄く艶のある、美しい髪ですね――いえ、あのっ。狼人族の女性は、久しぶりにお目にかかるものすから。それに、私の黒髪の方が珍しいですよね、って――私ったら、何を言ってるのかしら? 失礼いたしました。私は、受付を任されています。黒羊人族のアリーシャと申します。当施設の、簡単な説明をさせていただいても、よろしいでしょうか?」


 取り繕うようにしながらも、自然な感じに微笑む受付の女性は、言葉使いも比較的丁寧で、リーダには好感が持てただろう。


「えぇ。お願いしたいわ」

「はい、かしこまりました――」


 物凄く丁寧な、アリーシャの説明を受け、リーダはこのギルドの利用方法をあっさりと理解した。

 一般の人だったとしても、彼女の説明であれば、十分に理解することは可能だと思うほどの、立派な仕事だっただろう。


「あらあら丁寧に、ありがとう。でしたら、少々お伺いをしたいことがあるのだけれど」


 リーダも笑みで応える。

 きっと今の目は、自然と笑えているだろう。


 リーダがここに来た理由。

 このギルドに登録するのは、別に依頼をしたり、依頼を受けたりするだけがメリットではない。

 この広大な大陸、情報を集めるのは普通なら一苦労。

 だが、各国に支部を持つここに登録することで、情報の収集が楽になるとフェリスから聞かされていたからだった。


 アリーシャがしてくれた説明と、違わぬところがなかったため、長い時を経てでもスタイルを変えない、枯れたシステム体系ほど安心できるものはない。リーダはこのギルドを信頼してもいいと思ったのだろう。


「はい。どのようなことでしょうか?」

「会員証をね、発行していただきたいの。この国に籍を置かない、こんなわたしでも、それは可能なのかしら?」

「入国審査を受けられていますよね? なのであれば、問題はございません」


 アリーシャは、素早く事務的に、再発行のための情報を書き入れる用紙を用意する。

 リーダは記入を終える。

 アリーシャは問題ないことを確認し、金属製の小さなプレートにリーダの書いた〝偽名〟で登録をしてくれたようだ。

 会員証のプレートに名前を刻む機構は、おそらくは魔道具。

 リーダも初めて見るもの。夢中で見つめてしまっていたのだろう。


「――様?」

「あ、はい。ごめんなさいね」

「お名前、間違いはありませんか?」

「えぇ。構わないわ。ところで」

「はい。なんでしょう?」

「リンゼと、リエル。この名前に近いものが、登録されていたり、聞き覚えがあったりしないかしら?」


 アリーシャは、手元にあるファイルのような紙束に目を通す。


「――そうですね。この支部には、登録が残っていないようです。あるとすればおそらく、本部か、違う支局かと思われます。数日お時間を頂けるのなら、お調べすることができるのですが。いかがいたしましょう?」


 リーダはふと考えた。


「いいわ。それよりね、本部までの地図をお借りしたいのだけれど。それとね、各支部のある国への道順などがあれば助かるのだけれど」

「はい。ご用意させていただきますね」


 アリーシャは年若く、クロケットより少し年上で、エリスより少し年下だったようだ。

 ケティーシャのことを尋ねてはみたものの、名前だけしかわからないと、丁寧に謝罪されてしまった。

 ケティーシャという名前は、彼女が子供のころ、古い書物で読んだ覚えがあるのだという。

 その書物によれば、数百年も前の話。もしかしたら、それ以上かもしれないという話を聞いて驚くことになる。


 ここでちょっとした疑問が、リーダに浮かんでくる。


「(ヘンルーダったら、ほんとは何歳なのかしら? もしかしたら、わたしよりも……)


 細かな情報収集を終えると、リーダは、冒険者ギルドの支部や、本部のある国へ向かうことになった。

 この旅は、それほど急いではいない。

 時間をみつけて、許可を得られたら、ルードたちの様子を遠くからこっそりとのぞき見る予定でもあったのだ。


 リーダは今夜、アリーシャに紹介してもらった宿で一晩休み、この地を出る予定だ。


「さぁて、美味しいご飯のお宿を紹介してもらったし、っと。――あ、いい匂い」


 リーダは、屋台のジャンクフードが大好きだからか。

 宿より先に、美味しそうな匂いに向かって、歩き始めてしまう。

 そのとき右手の宝玉が赤く何度も光っていたのは、『食べ過ぎ』だと注意を、していたのかもしれない。



「あれは〝アジ〟かしら? それとも〝サバ〟? どっちにしてもあの、炭火にしたたる脂。見た感じ、絶妙の塩加減。ご飯に合いそうね。いえ、お酒の肴にきっと最高よ。ダメ。美味しそう――」

「それって絶対、美味しいのよね? そうなのよね? リーダちゃんったら。一人だけずるいわっ。えいっ、えいっ――ふぅ。これって、魔力、すっごく使うのよねぇ……」


 額に脂汗を流しながらも、フェリスは赤い宝玉を握って、何度も魔力を流していた。


「……イエッタちゃんのおっしゃっていた、〝通信機〟だったかしら? こちらからの意思を伝える魔道具の開発、急がなければ。それにイエッタちゃんの見たものを。イメージ通りに投影できる魔道具も、仕組みを考えないといけませんね」


 一人だけ冷静な、シルヴィネだった。


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