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閑話 お母さんたちの考察 その3 ~本音と建前に気づかぬ、可愛い息子と娘をいじり倒す困ったお母さんたち~

 やや詰め込み気味で、雰囲気もかなり重くなってしまっていた。

 これも皆、ルードのためだと思っているし、ルード自身も自分のことを思ってくれているからと、真面目に聞き入っていただろう。


「――んーっ! こんな感じかしら? さて、シルヴィネちゃんからも、何かある?」


 そんな張り詰めた空気が少し嫌になってきたのか、フェリスはゆっくりと背伸びをすると笑みを溢し、最後にシルヴィネを見る。

 フェリスと並んでいる彼女は、身長もほぼ同じくらい。

 イエッタに作ってもらったのか、フェリスとは趣が違う、真っ赤生地に乳白色の花の咲く、足首までの着物を付け、タバサの着る白衣を羽織っている。

 ちぐはぐな感じが否めないが、美少女だからか、なぜかあざとく見えたりするのだ。


「私もルード様に、『お母さん』と呼ばれたいですね。そして許されるなら、ルードちゃんと呼ばせて欲しいですね」


 今まで少し、重めの話がされていたからだろうか。

 リーダとエリス、ヘンルーダとイリスは、呆気にとられて、ぽかんとした表情になっていた。

 何を突然言い出すのかと、キャメリアは冷たい視線でシルヴィネを睨みつける。

 フェリスとイエッタは、事情を知っているから苦笑するだけ。


「……はい?」


 もちろん、ルードも状況を掴めていないようで、きょとんとした表情になってしまっていた。


「あらごめんなさい。あのですね。うちの娘は、ルード様に『生涯、お仕えする』ことになってしまったではありませんか?」

「あ、はい。それは確かにそうですね」

「きっとですね、ルード様が亡くなられるまで。もしくは、キャメリアの命が果てるまで、お仕えすることになるでしょう。そうしたら、この子は、どこにもお嫁にいかないのと同じですよね? それどころかまるで、ルード様のもとへ、お嫁にいったみたいでは、ありませんか?」

「な、なななななな、(にゃに)を言って――」


 褐色の頬を更に赤くしつつ、少々噛みながら、普段冷静を装っているキャメリアは、反論しようとする。


「それって事実上、ルード様の第二夫人のようなものでありませんか? それならばルード様は、私の義理の息子みたいなもの。私だって、『お母さん』って呼ばれる資格があると思いませんか?」

「わ、私はルード様の、お姉ちゃんであって、だ、第二夫人だにゃんて、あり、あり、ありえましぇんっ! 確かに、クロケットはずっと一緒に、いようって言ってくれましたけど。しょの……」


 キャメリアは、噛み噛みになってしまい、まるでクロケットのような口調になっている。


「それに、キャメリアの言う通りなら、ルード様は私の息子も同然ですよね?」


 シルヴィネは齢千年を超える炎帝飛龍であり、メルドラードの元王女様に、ルードの五歳上、クロケットと同い年の、二十一歳になったばかりのキャメリアが、のらりくらりと躱し続ける、巧みな口撃(こうげき)で敵うわけがない。


「この、このこのこのこの、駄目母があぁあああああっ――」


 褐色の頬を更に真っ赤に染めながら、いつもの冷静を装う彼女はどこへいったやら?

 何を言っているのかわからない、もはや完全な敗北宣言。


「キャメリア落ち着いてってば」


 ルードはキャメリアを制止しようとするが、彼女もヒートアップしてしまい、手が着けられなくなっていたように思えた。


「んもう、落ちついてってば。……キャメリアお姉さんっ。」


 ルードの愛らしさに目覚め、クロケットの姉らしさに羨ましさを感じる最近。

 キャメリアは、ルードのこの言葉で、完全に駄目になってしまいそうになる。


「――はふぅ。お姉さんだなんて……」


 自らを抱きしめるように、くねくねと、照れまくってしまっていた。


「あはははは。でも確かに、キャメリアちゃんのそれは、多少問題がありそうよね。再来年、クロケットちゃんが正式に、ルードちゃんのお嫁さんになったら、形式上で構わないから、キャメリアちゃんを第二夫人に据えるのも、『あり』かもしれないわね。あぁでも、その前に、ケティーシャの問題をクリアしておいて、クロケットちゃんを、正式に王女様にしておかないと。そうすれば、キャメリアちゃんも、元王女様なんだし、第一夫人としての立場的な問題は、なくなるような気もしないでもないわね」


 フェリスは、笑いすぎて目元に滲んだ涙を拭いながら、そう言った。


「そ、そんにゃ。フェリス様まで、ご冗談を……。これも皆、この駄目母のせい――」

「キャメリアちゃん、落ちついて、建前、建前だってば。……シルヴィネちゃん、キャメリアちゃんに、建前と本音って、教えてなかったの?」

「虚と実のことですよね? もちろん、教えていますよ。ですがこの子ったら、真面目だからでしょうか」

「あー、何となくわかるわ。ルードちゃんと同じ性格なのね。ほんと、面白いわぁ」

「ですが肩書きだけでもそうなれば、ルード様は私の息子に。嬉しいです。ほら、ルード様。私を『お母さん』って――」

「僕は困ります。いくらキャメリアだからといって、お姉ちゃん以外はお嫁さんにするつもりなんて……」


 若干食い気味に、ルードは慌てて否定しようとする。

 そんなルードの傍に寄り、ちょっと背伸びをして、髪の毛をくしゃりと撫でる。

 フェリスの指の感触に、ルードは、気持ちよさそうに目を細める。


「だーかーら。建前だってば。ほんと、キャメリアちゃんと一緒なのね。似たもの同士というかなんというか」

「だってさ……」

「あのね、真面目すぎなの。ルードちゃんは、王太子なのよ? それにこんなに可愛らしいの。どうなると思う? それこそ各国から聞きつけた、王族貴族のお父さんお母さんが、自分の娘と縁を持たせたいと、殺到するかもしれないの。断るにしたって、『お見合い』はしなきゃ失礼に当たることも、あるかもしれないわ。そうしたら、ルードちゃんは優しいから、話だけは聞いてあげるかもしれないでしょ? 大変なことになると思わない?」


 フェリスは、機関銃のような口調でまくしたてる。

 ルードは、とても頭の良い子。

 頭の回転の速い子だ。

 シーウェールズ王女レアリエールのあのときのような、その状況になったシーンを思い浮かべてしまったのか、凄くめんどくさそうな表情になっていた。


「あー、うん。確かにそれは、……嫌かも」

「ルードちゃんにね、形式上、第二夫人がいれば、ルードちゃんは『もう無理です。お腹いっぱいです』って、断ることができるんだから。それにね、ネレイティールズの女王様が、レラマリンちゃんをどうかしら? なんて話をもちかけてきたでしょう? 親御さんって、そういうものなのよ」

「あ、はい……」


 ルードはリーダをちらっと見る。


「そうね。今までのウォルガードならば、フェリスお母さまがいるから心配はないかもしれないけれど、ルードは沢山の種族、国々と交流を持ちたいのでしょう?」

「うん……」

「お忍びならば一方的に好かれるだけで済むかもしれないわ。でもね、王太子だと明かしたら、レラエリッサさんのようなことも、確かにあり得るとしか言いようがないわね」


 王族というのは、こういう考えを持っているということが、ルードには初めてわかった。

 リーダの言う通り、フェリスの懸念は、少々大げさかもしれないが間違ってはいない。

 ルードはエリスを見る。

 するとエリスは。


「そうねぇ。昔、クレアーナに聞いたことがあったわ。そうしたら、『私は、エリス様の元に嫁いだのも同然でございます。子供ですか? お坊ちゃまと、エルシード様がいれば、十分幸せでございます』って、言ってくれたの。主従関係って、確かに夫婦の間柄に似ているとも言えるわね」


 エリスまで、ルードの予想の上の回答を出してくれる。

 フェリスは、リーダとエリスの答えに、『そうでしょう、そうでしょう』と、うんうん頷いている。


 多少はだが、ルードの反応がたまらなく琴線に触れたのか、若干Sっ気のある彼女は、ルードが可愛らしく困っているのが、楽しんでいる面もあるのかもしれない。


「確かに、キャメリアちゃんが近くにいたら、飛龍の姿になって、炎でも吹くふりでもしたら、引き下がってくれるかもしれないわ。でもね、『ただの家令さん』だと立場上、強く言えないことだってあると思うの。言い過ぎてしまうと、角が立ってしまうことだってあり得るから。そんなときキャメリアちゃんが、第二夫人の立場だったなら――」


 真面目に悩んだり、キャメリアの顔を見て、ルードも赤くなったり。

 フェリスの話に、くねくねと身じろぎしていたキャメリアも、恥ずかしさで頭が沸騰しかけていて、どうしていいかわからないような表情になっている。

 もちろんフェリスは、キャメリアの反応も新鮮で楽しくて仕方ないはずだ。


「(二人とも、困る姿は可愛らしいんですけどね)フェリスちゃん、二人を困らせる(からかうとも言うわね)のは、それくらいにしてあげてくれるかしら? ルードちゃんもキャメリアちゃんも、困ってしまっているではありませんか? それにルードちゃんたちにはまだ、難しすぎるような気がするのです」


 そこはしっかりと、暴走気味のフェリスを窘めるふりをするイエッタ。


「確かに、その感は否めませんね。キャメリアを防壁(にえ)にという案は確かに、正しい利用方法かとは思います。私は別に、ルード様に『お母さん』と呼んでいただけるのならば、第二夫人でも姉でも、どちらでも構わないのですけれど」


 シルヴィネは、イエッタには同意しつつ、フェリスのそれも否定はしない。

 それでいて、キャメリアにはそれなりに辛辣な言葉を掛けるという、自身の態度を曲げたりはしない。


「まぁ今日は、二人の顔に免じて、これくらいにしといてあげるわっ」


 イエッタにネタを教えられたのだろうが、誰も感づいていないようにも思える、若干滑り気味のフェリスのボケっぷり。

 そんな、楽しそうなやり取りを見て、ぼそっと呟くイリスがいた。


「羨ましいです。わたくしもルード様に、『お姉さん』って呼ばれてみたいです」


 そんなイリスに、リーダがツッコミを入れる。


「イリスエーラはわたしの従妹で義理の妹なのだから、ルードにとっては叔母のような――」

「フェルリーダ様、それは酷いです。ルード様に叔母様なんて言われたらわたくし、立ち直れそうもありません……」


 イリスのそれはポーズなどではなく、肩をがっくりと落として、真剣に凹み始めてしまった。

 多少可愛そうに思ったのか、フェリスがフォローする。


「私たちから見たら、リーダちゃんと同じ、孫のようなものだし、気にしちゃ駄目よ。イエッタちゃんもそう思うわよね? 私たちはおば――」

「お婆ちゃん言わないのっ!」


 普段優しげな糸目の目元が瞬間、くわっと目を見開き、とても怖い形相になったイエッタ。

 普段見せない表情だったからか、さすがのフェリスも『ひっ!』と、驚いてしまった。


お読みいただき、ありがとうございます。

今回がオチの回です。

次は、六章本編になる予定です。

もう少々お待ちください。



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