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第二十六話 食べきれないので、皆さんもどうぞ。

 イエッタが見守る前で、ルードがたこ焼きを焼き始める。

 外側から生地が熱で徐々に固まってきて、油でぷつぷつと跳ね始めてくると、ルードはイエッタに教わった方法で、生地を丸くしていく。

 熱の伝わりを風で遮断して、無理矢理火傷を回避しながら、作るのもできなくはない。

 だが、このやり方は理に適っていて、何より作るという行為自体が楽しい。


 タバサに手ほどきをして、食品工業的な展開も悪くはないかもしれないが、大量生産する意味合いから考えると、この焼いている最中の香りは捨てがたい。

 デモンストレーション的な意味合いからも、見ていて楽しいのは客寄せにもなる。

 目で楽しんで、食べて楽しむ。

 二重に美味しいこのたこ焼きは、実に興味深いと思っただろう。


 笑みを浮かべながら、汗を額に浮かべつつたこ焼きを焼くその横で、目を皿にするように、クロケットがルードの手元をじっと見ながら、ぶつぶつと何かを呟いて料理の手順を頭にたたき込もうとしている。

 ルードの作る料理はほとんど、クロケットが作れるのはこうした努力があった。

 この貪欲さが、彼女の魔法の上達にも繋がったのかもしれない。


「そうよ。そう。うまいわ」

「あははは。ありがと、イエッタお母さん。これ、面白いかも」


 ルードたちは二個ずつ、イエッタはしっかり四個食べてしまった。

 十二個を五人で食べきってしまったから、改めて作り始めたということになる。

 そうしないと、待っているリーダとレラマリンが食べられないからだ。


「よし、これならいいでしょ?」

「えぇ。たいしたものだわ」

「お姉ちゃん。どう?」


 クロケットは目を瞑って、今の料理手順を思い浮かべているのだろう。

 目を開くと、可愛らしく笑って。


「大丈夫、……ですにゃ」


 こうなったクロケットは、ルードの料理を完璧に覚えたということ。

 プリンや、温泉まんじゅうほどは、多くない工程。

 ルードも安心して任せられると思ったはずだ。


「じゃ、アミライル。それといますよね? ティリシアさん、オルトレットさん」


 クロケットの世話を焼きたそうにしていたオルトレットと、レラマリンの尾行をしてきていたティリシアが、ばつが悪そうにテントの裏から出てくる。


「ティリシアさんはレラマリンさんを。アミライルは母さんたちに食べさせてあげて。お姉ちゃんは作り続けてね。オルトレットさんは、お姉ちゃんが火傷をしないように、邪魔しないで見てあげてて」

「はいですにゃ」


 そう言ってクロケットは、ルードから任せられたたこ焼きを焼き始める。

 オルトレットは嬉しそうに後ろから見守る。

 クロケットはちょっと苦笑しながらも、手を休めない。

 ルードから見て盗んだ、手順は間違いのないもの。

 焦がさないための、微妙な火力調整もうまくいっている。


 レラマリンは『やっぱりつけてきていたのね』と、言わんばかりの目でティリシアを見る。

 ティリシアは、明後日の方向を向いて、スルーしていた。


「僕は、タコ肉が足りなくなってきたから、下ごしらえしなきゃ。キャメリアお願い」

「はい。かしこまりました」

「かしこまりました」


 イエッタがテーブルに戻ると、リーダとレラマリンが待っていた。

 アミライルが配膳したたこ焼きを、リーダが最初に一口。


「あふあふ。カリカリもちもち。おいひい……」


 いつもなら、上品に微笑むところだろうが、〝買い食い王女様〟のときのように、ただ堪能しているリーダ。

「レラマリンちゃんも、いただきましょう」

「はいっ。いただきます」


 テーブルの三人は、とにかく幸せそうだった。


「ほんと、〝ソース〟は必要よねぇ。いざとなったらルードちゃんに、材料と製法を調べてもらって、あとはタバサちゃんに……。それと、〝マヨネーズ〟。両方揃えば、〝お好み焼き〟も、〝焼きそば〟も作れるようになるはずよっ」


 たこ焼きを頬張りながら、小さくガッツポーズをする。

 この程度では、絶対に立ち止まったりはしない。

 イエッタの物欲は尽きることがないのだろう。


 城下町から、大勢の観客が集まってきていた。

 ルードは、皆に見えるように、足下に大きな、それこそ馬車が何個か入ってしまうようなサイズのたらいを、魔法で一気に作り上げてしまう。

 すると、人々は『おぉっ』っと、どよめきを上げ始める。

 続けて『水よ』と、短い詠唱で海水をごそっと持ち上げて、たらいに放り込む。


「キャメリア、とりあえず全部ね。あとは必要に応じて、捌いていくから」

「はい、かしこまりまし、た」


 彼女の『た』の声と同時に、とてつもなく巨大な、氷漬けの魔獣だったものが姿を現わす。


『…………』


 観客の皆の目が点になっていた。


「あ、大丈夫です。怖くないですよ。もう、動きませんから」


 ルードがさりげなくフォローを入れる。

 見ていた人たちは驚いていたが、よく見ると凍結された魔獣の姿。

 近くに寄ると、ひんやりと温度が下がるくらいに凍っている。

 今まで自分たちを苦しめていたとされる、魔獣の姿を見て、様々な思いを胸に抱いていることだろう。


「魔獣というのは、んー。僕もよくわかりません。ですがこれは、食べられます。美味しい料理ができましたので、皆さんにも料理を振る舞おうと思っているんです。少々お待ちくださいね」


 遠巻きに見ていた衛士たちの姿を確認できたのか、ルードは手招きをして。


「危なくならないようにお願いします。あとで、みんなも食べていいですから」

「「「「はいっ、了解しましたっ」」」」

「お姉ちゃん、手伝って」

「はいですにゃ」


 ルードは、たらいの上で、魔法を使って豪快に下ごしらえを開始する。


「んー、解凍、解凍。氷の逆。『氷よ、水よ、……とにかく頑張れ』」

「ルードちゃん、それはあんまりですにゃ」

「さすがにそう、だよね。あははは、……あ、うまくいった」


 魔獣を覆っていた氷が溶け始める。


「やっぱりルードちゃんは、……お化け、ですにゃ」


 やんわりと、化け物扱い。

 クロケットも最近、遠慮のない意見をずばっと言うことがある。


「それも、あんまりだってば」


 仲良く笑い合うこの二人が、大国の王太子と、将来の王太子妃だとは、この場に集まっている人たちは、誰も想像つかないだろう。


 ルードが魔法で水をかけながら、気流を操り、ネレイドのような細かい操作をしているように見せている。

 油や皿を洗った汚れではないから、ぬめり部分は海に戻しても大丈夫と言われている。

 たらいの横を少し落として、そこから海水を流して、流れきった後に補修。

 新たな海水を、どっこいしょと持ち上げてタコにかけるの繰り返し。

 ぬめりが大変と〝記憶の奥にある知識〟にはあったのに、思いのほか簡単に下処理が終わるので、驚いていたところに。


「解凍すれば、ぬめりは簡単に落ちるのですね」


 イエッタからは、タコのぬめりをとるのに、長い時間塩もみをする必要がある。

 そう聞いていたから覚悟はしていたのだが、一度冷凍した後、解凍するとこうも簡単にぬめりが除去できるのは、爽快でもあった。


「イエッタお母さん」

「ほら、ルードちゃん。皆さんが待っているのですから。頑張るのですよ?」

「うんっ」


 イエッタに激励されたと思ってルードは張り切る。

 当のイエッタ本人は、少々食べ足りなくて、ルードの料理の経過を見に来ただけだったりするのだが。


 ルードをよく見ると、タコを捌くのにナイフや包丁を使っていない。

 この地の、魔力の多さに気づいてしまったルードは、手のひらに展開させた風の魔法を駆使して真空の刃を作り、それを利用しておおまかに解体を始めている。


「お姉ちゃん、こことここの部分。小さく切ってたこ焼きにしてね。アミライル、さっき教えたように。根野菜の皮を剥いて、薄く切って、タコ肉も薄めに切ったら。オイルと酢と果物の絞り汁ったかけダレを作ってあるから、いっしょに絡めてね。その後は、軽く冷やしてちょっと置く。そうそれでいいんだ。残ったタコ肉はぶつ切り、ついでに素揚げして、塩かけて終りね。キャメリア、これ――」

「はいですにゃ」

「はいっ」

「わかっています。ルード様」


 ルードが解体して、クロケットがたこ焼きを作り続ける。

 アミライルがマリネと素揚げを作り、キャメリアが指示をして衛士たちと一緒に、観客へ無料で料理を提供する。

 衛士たちは交代で食事に入り、ティリシアはキャメリアと連携をして、観客の受け答え。

 イリスとオルトレットがリーダたちの面倒を見て、イエッタはリーダと舌鼓を打っていた。

 ネレイティールズは海路が復活し、商人だけではなく、入れ違いに観光客も増えていくことだろう。

 こうしている間も、新しい船を誘導しているネレイドたちの姿が見える。


 ルードと仲の良い、犬人の衛士がたこ焼きを配布してくれている。


「はいよ。火傷しないようにね」

「ありがとう、お兄さん」


 フード付きのコートのような、ローブを羽織った年若い女性。

 伸ばした腕の皮膚の色は、周りの人より浅黒い。

 シーウェールズのように多種族が行き交うこの国では、珍しくはないのだろう。

 目元を緩ませて、衛士は照れ隠しで後ろ頭をかいている。


「いやいや、嬉しいねぇ。お兄さんだなんて……」

「社交辞令よ。ほら、でれっとしないで、仕事仕事」


 たこ焼きを受け取って、ぺこりと礼をし、少し離れたところに待っていた同じくらいの青年と落ち合う。

 ルードたちから三十メートルほど離れた、植え込みのある横あたりに芝のような短い草が生い茂っており、そこに二人はぴったり寄り添って座っていた。

 タコ焼きを仲睦まじく、食べさせあっているように見える。

 隣同士、手を握っているものから、周りからは夫婦か恋人のように見えていただろう。


「いいねぇ。羨ましいもんだわ」

「馬鹿なことを言わないの。はい、こちらで無料配布しています。美味しいですよー。どうぞー」


 作業へ戻る犬人の二人の衛士。

 そんな横で、忙しそうに料理をし続けるルードたちの姿も見える。


 二人はフードを深く被っており、表情はよく見えないが、女性の方がたこ焼きを食べさせてあげたりして、お返しとばかりに男性も。

 小腹が落ちついたあたりだろうか。

 未だ二人は、仲良く手を繋いで座って、はルードたちの忙しそうな姿を見ながら、笑みを浮かべている。

 女性の方が、膝の上をぽんぽんと叩くと、男性は頭を乗せて、膝枕の状態になる。

 女性は男性の額にかかった髪を、優しく撫でる。


「ごめん、少しだけ横になるから」

「いいよ。甘えてくれるのは、私も嬉しいし」


 ここまで仲の良い二人を、周りの人はじっと見てしまえば野暮だと思われてしまうのだろう。

 行き交う人たちも、なるべく見ないように、優しくそっとしてくれているようだ。


 男性は女性のお腹の方を向き、耳を左手のひらで覆う。

 フードを被ったままだから、手を耳元に入れると表現した方がいいかもしれない。

 女性はそのまま、軽く覆い被さるようにしている。

 周りの誰が見ようとも、二人が仲良くしているようにしか見えないはずだ。

 だから、これから男性が話す言葉は、女性にしか聞こえない独り言のようなもの。


『……です。魔物の回収、失敗してしまいました。申し訳ございませんと、殿下に伝えてください。ですが、いい報告もございます。興味深い対象をみつけましたので、戻り次第ご説明しますと、はい。そうです。報告は以上です――』


 男性は手を耳から離す。

 離れた場所での言葉のやりとりを可能にする魔道具は、まだ出回ってはいない。

 ウォルガードでもこれから作ろうとしているくらいに、難しい技術だったはずだ。

 それゆえに、男が話していた言葉も、本来であれば物騒なもの。

 だが、どこからみても、この男がどこかに連絡をとっているとは、思えなかっただろう。


 女性は、身体を既に起こしていた。


「もう。いいの?」

「あぁ、終わった。ここでの仕事はもう残ってないよ。それじゃ、本国に帰ろうか?」

「そうね。久しぶりに帰れるわ。乗船の手続きをしてきましょ。さっきのお料理、初めて食べたのだけれど、美味しかったわね」


 男性は身体を起こし、女性の手を取る。


「そうだね。魔力も沢山含まれていたようだったから、失敗したなぁ……」


 二人は頭に被っていたフードをとる。

 そこには、銀髪の髪と、耳の先が少々長くとがった感じ。

 肌は二人とも浅黒い。

 振り向いて、ルードたちを見る男性。

 踵を返して二人は手を繋ぎ直し、仲良く路地へと消えていく。


 ▼


 その日の夕方、ルードが宿泊している王城の部屋。

 祭りのようになったタコ料理の振る舞いは、盛況のうちに終わったようだ。

 夕食の後、時間を作って、オルトレットの話を聞くことになった。

 この場にいるのは、ルードとリーダ、それにイエッタ。

 イリスとキャメリアが後ろに控えているので、オルトレットを入れるとの六人しかいない。

 クロケットはさすがに疲れたのだろう。

 部屋に戻って休んでもらうことにした。


 主題はもちろん、あの『緑色の髪を持つ、正義の味方と冒険者の話』。

 この国の王家では、有名になっている話だ。

 女王も王配殿下も、王女も知っている話。

 今の女王がまだ王女だった以前から、長年、オルトレットがこの国で執事として仕えていたから、ということもあるのだろう。

 オルトレットの話では、この国には彼と同じ、黒い髪を持つ猫人族が十数名住んでいるとのこと。

 その殆どが、城で指導する立場の侍女や、役人などの役職についており、王家を影から支えている。


 この国に移り住むきっかけになったのは、正義の味方、冒険者と名乗る緑の髪の女性たちが関係していた。

 彼女らは、ネレイティールズ先代の女王とも親交があるらしいという話だった。

 リーダとイリスは言わば従姉妹の間柄。

 二人ともフェンリラであるから髪の色は同じだとしても、顔立ちが似ているのは、そのせいもあるのだろう。

 だからこそ、オルトレットが見間違ってしまったのかもしれない、ということだった。

 なぜならば、正義の味方と名乗った女性たちもたま、髪型、髪の長さは違えど、顔立ちはうり二つ。

 まるで双子のような彼女らだったということだった。

 そこでリーダがぼそっと呟いた。


「もしかして、リンゼ姉様、リエル姉様……」

「母さん、それって?」

「えぇ。ルードにも話したことがあったわね」


 フェルリンゼとフェルリエル。

 ウォルガードの第一王女と、第二王女の名前。

 まだリーダが学園にいたころ、リーダの元へ戻ってこなかった二人の姉たちではないかということだ。


「イエッタお母さん、どう、かな?」

「そうねぇ。オルトレットさん、レラマリンちゃんたちの瞳を通してもね、彼女達はご自分の名前を名乗っていないの。もちろん、レラマリンちゃんのお母さんのお母さんの、ときでもね……」

「ずるいわっ」

「へ?」


 ルードが素っ頓狂な声を上げてしまう。


「いくら待っても帰ってこないと思っていたら、東の大陸で楽しんでいたのね。ずるいわ。姉様たちは、本当にずるい……」

「どういうこと、なの?」

「いずれ、あの大陸へ捕まえにいかないと駄目なのよ。わたしがあの後、あれほど悩まなければならなかったのも。ルードが王太子にならなきゃいけないのも。全部、姉様たちのせいなんだからっ」


 これはかなり根の深い問題かもしれない、そう、ルードもイエッタも思っただろう。


 ▼


「できることなら、救国の英雄である、ルード殿下とのご縁を――」

「嫌よ!」

「えっ? ルード殿下では不満だというの?」


 ルードたちがウォルガードへ戻る前日に、設けられた女王レラエリッサとリーダの会談の席。

 正式な交易の申し出と、その他諸々の話し合いが終わり、雑残の途中だったところ。

 ネレイティールズでは、レラマリンと同世代どころか、年の近い独身男性がいないことで、深刻な婿不足になりつつあった状況で、レラエリッサが苦渋の決断を申し出ようとしていたのだった。


「違うの。ルード君は、とても可愛らしいと、思うわ。強い立派な人だとも、思うわよ。私、お友達のクロケットさんとの仲を壊すことなんてできないし、それにね」

「(ふぅ……。助かった。シーウェールズみたいなことにならなくてよかった)」


 ルードはレラマリンの気遣いに一安心。


「私、年上がいいの。私より身長が低い殿方はちょっと、ねぇ?」


 ルードの顔を見て、レラマリンは意地悪そうにやっと笑う。


「ぷぷぷっ……」


 普通にリーダは吹き出してしまう。

 イエッタも、横を向いてくすくすと笑っていた。


「えーっ! 僕、そんなに小さくないよ?」

「そんにゃこと、ありませんにゃ。ルードちゃんは小さくても、ルードちゃんはルードちゃん。とっても、可愛いんですにゃ、よ?」


 隣に座っていたクロケットは、すかさずフォローするのだが。


「いや、お姉ちゃん。嬉しいけど、それちょっと違うから……」


 確かにレラマリンとは、姉と弟と言われても仕方がないほど、身長差がある。

 クロケットと並んだとしても、まだまだ敵わない。


「ルード君。私、その、言ったじゃないの」

「へ?」

「……あー、忘れちゃったんだ。酷いわ。ううん、それなら。お母様、私ちょっと、ウォルガードへ行ってきます。私も、外の世界を見てみたいんです。構いませんよね?」

「えっ? その、リーダ様さえ、よろしいのであれば」

「構いませんよ。ルードが良いと言うのであれば、ね?」


 ニヤッと微笑むリーダは、全てルードに丸投げしてしまう。


「ルード君、連れて行ってくれるわよね? 約束したもんね? お友達、だもんねぇ?」

「母さん……。あー、はい。わかりました。いいです。連れて行きますって」


 ずいっと詰め寄られて、たじたじとなってしまったルードだった。


 ▼


 そんなこんなで、気がつけばウォルガードの商業区画。

 空路を使って、様々な種族の商人、旅行者の姿も見られるようになった。

 王城付近の区画に立ち入ることはできないが、こちら商業区画までは解放されている。

 これも皆、王太子であるルードの功績だ。


 外れにあってもエリス商会は、女性のお客様で入場待ちの列ができていた。

 ルードたちがウォルガードに帰って来たその日。

 クロケットとレラマリンは、負けずとエリス商会の商品を物色し、新作髪油を体験利用中。

 ツヤツヤなクロケットの髪の秘密がここにあることで、若干興奮気味なレラマリン。

 そんな二人を付き人として訪れている、ティリシアが見守っていた。

 本当は彼女も混ざりたいのだろうけれど、そこはじっと我慢できていた。

 その理由は、明日にでも時間を作って、自由時間に試せると約束をもらっているそうなのだ。

 

 ところ変わって、ウォルメルド空路カンパニーの発着場。

 リューザたちの背から降りてくる、ひとりの青年の姿があった。

 彼は迎えに来ていたルードの姿を見ると、笑顔になる。


「無理なお呼び立て、申し訳ありませんでした」

「いや、いいんだ。僕は君のことを弟のように思っているから、もっと気軽に頼ってくれて構わないんだからね」

「はい、ありがとうございます」

「ほんと、丁寧な言葉遣いは変わらないなぁ。ルード君らしいといえば、そうなんだけれど。……ところで、僕に合わせたい人がいるって聞いたのだけれど?」


 ルードが迎えに来たのは、シーウェールズの王太子、アルスレットだった。

 アミライル経由で、王城へ連絡が入り、急遽、ウォルガードへ来てもらうことになったのだった。


「あー、うん。とりあえず、王城でフェリスお母さんに挨拶してからですね」

「緊張するよ。伝説のお方ですから」

「大丈夫ですよ。凄く優しいですから」


 アルスレットにとっては、言い伝えでしか聞いたことのない〝消滅のフェリス〟。

 ルードにとっては、優しいお母さんのひとり。

 温度差はあれど、実は今回の訪問の本番は、ここではないのだ。


「あと、姉さん、どう? 父上と母上からも、〝一応〟様子を見てくるように言われてるんだけどさ」

「あははは。はい。レアリエールお姉さん、頑張ってると聞いてますよ」

「だといいんだけどね――。そうそう、それよりもさ。空、凄く快適で楽しかったよ」

「でしょう? 僕の家令キャメリア、ご存じですよね? 彼女の最高速も、すっごく楽しいんですよ?」

「そうなんだ。いずれぜひ、お願いしたいろころだよね」


 アルスレットはクロケットやキャメリアと同い年。

 ルードの五つ年上の兄的存在。

 やはりアルスレットも男の子、空は楽しめたようだった。


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